2024年4月26日

二十年ぶりの香港(5)

地元客しか来ない店

日曜日の仕事も終わり、地元の取引先の方々に一緒に食事でもどうですかと誘われたので、言われたままについていくことにした。全員が日本人だが、私以外は香港在住である。台湾や香港の女性と結婚して家庭を持っている人もいる。

その彼らが地元の方しか食べに来ない店に行くと言う。不味いわけがない。店は少し離れた湾仔にあると言うことでトラムで移動することになった。金鐘の駅でトラムを待つ。中国銀行のビルのイルミネーションが目に入る。香港の象徴みたいなビルだ。

じきにトラムが来た。もちろん二階席に座る。香港のトラムは楽しい。今回の出張でも何回か乗ってみた。外を眺めていても全然飽きない。もちろん生活して通勤するようになればすぐに飽きるのだろうけど。

何駅かで湾仔に着いた。ワインセラーに向かうと言う。ふと駅の向かいにある「アメ横丁」という看板が気になる。

私だけでない。全員が気になったようだ。

「あんな店あったっけ?」
「寄ってみよう。」

全員、好奇心が旺盛だ。店内はなぜかドンキ風で、しかもポップは日本語だ。香港では本当に日本風のものが人気なのだと実感する。

少し大通りを歩き、裏路地に入って1分ほど歩いたところが目的にとのことだ。

「あー、閉まってる!」

先導役が叫んだ。残念なことにワインセラーは定休日だった。

仕方なく手ぶらで数分歩き、雑居ビルの中に入る。

「生記飯店」

店の中は地元客でいっぱいだ。この店は酒の持ち込みがOKとのことだ。地元の金持ちが高いワインを持ち込んでこの店で舌鼓を打つのが特徴なのだという。残念ながら我々は馴染みのワインセラーが閉まっていたので、今回は店でワインを注文した。

メニューは知人にお任せ。イカフライがうまいと言うことでビールを注文。日本のイカフライとは異なる、味付きに天ぷらというか唐揚げというか、これがまたビールに合う。

他にもレバーのスープなど食べたことのない広東料理がいろいろ出てくる。特にレバーのスープは見た目はイマイチだが味がシンプルでクセになる。

ワインも進む。本日のお勧めはどうだ?と勧められてマテ貝を選ぶ。これが絶品だ。ニンニクの香りがたまらない。

美味いものを食うと人は黙ると言うが、美味いものがあれば会話が弾むのも道理だ。仕事がひと段落して打ち上げ的な食事になったこともあり、会話が素晴らしく盛り上がったところで時間となった。店を出て皆と別れ地下鉄で香港駅に向かう。

深夜便で東京へ

預けた荷物を受け取りチェックインに向かう。ほとんどの航空会社は香港駅で荷物ごとチェックインできるのだ。ただしピーチ便だと利用できない。今回は全日空の深夜便なので使うことができる。初めての利用だ。空港まで行かずに荷物を預けられるのは嬉しいだけでなく思いのほか快適だった。

エレベーターで空港快速のホームに降り電車を待つ。ビールやワインを飲んだせいか尿意を催した私はトイレを探す。が、見当たらない。ホームの端から端まで歩くがそれらしい記号も表示も何もない。

トイレがない?!

ウロウロしている間に電車がホームに入ってきた。どうする?空港までは30分。我慢するのが早いか、一本遅らせて駅のトイレを探すのか。しかしすでに23時を回っている。電車の本数はそう多くない。もしも駅でトイレが見つからなかったら悲劇が起こる。そうだ、もしかしたら駅ではなく電車の中にトイレがあるのかもしれない。

私は意を決して電車に乗った。

間も無く空港快速はスルスルと動き出した。荷物がないので身軽だが、問題は何も解決していない。電車はガラガラだ。通路を歩いて前に進む。

トイレがない。

諦めて空港で用を足すことにした、というかそれしか選択肢がなかった。幸いまだ持ちそうだ。若い頃、週末にドライブに行った帰り、日曜日夕方の碓氷峠も246も耐えてきた人生ではないか。30分で確実にトイレに行けるとわかっているのだから焦ることはない。

香港快速の車内は綺麗で快適だった。空港までの距離や時間が一目でわかるようになってるのも嬉しかった。香港空港に電車が到着すると、ホームからすぐにターミナルビルに入ることができる。日本の空港にはない作りだ。そのまま落ち着いてトイレに向かい、事なきを得たのだった。

出国ゲートを抜け、免税店を過ぎ、搭乗ゲートに向かう途中、空港の美しさに見入ってしまった。見事なシンメトリック。未来空間のような、それでいて大陸的なダイナミックな光景。24時間眠らない空港。どうして日本ではこのような景色が見られないのだろうか。

何と言っても一番驚くのは、半年前ですら自分がまた中国ビジネスに関わることになろうとは想像だにできなかった。私の人生はこんなことばかりだ。だからこそ面白い。次回、香港に来るのは夏頃だろうかなどと考えながら、日本に向かうのだった。

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