出水市庁舎の免震システム
今日も午後一時からの長丁場の会議が終わった。会場は完成したばかりの出水市庁舎。会議の後、自慢の建物を市の職員の方に案内していただく。何と言ってもこの建物は総重量25000トン。宇宙戦艦ヤマトが62000トンなのだから、その大きさがわかるだろう。この建物が60基の免震ゴムで支えられているという。この設備を見せてもらえるというのだ。ワクワクする。
「免震装置」と書かれたドアを開け、薄暗い階段を懐中電灯を頼りに進む。階段を降りると目の前に現れたのは、まさに建物を支えているゴムだった。
このゴムが横方向に最大1.2メートル揺れるとのことで、建物とコンクリート壁との間に60センチの隙間が設けられている。建物が揺れて壁にぶつからないようにしているのだ。1つのゴムで400トンの重量を支えているのだが、実験では千トンまで耐えられるという。しかも免震ゴムの寿命は半永久的とのことだ。日本の技術力は素晴らしい。
見学後、一旦解散してから出水駅前に集合せよとのことである。ここからバスで懇親会会場に向かうとのことだ。全員に注意点がアナウンスされた。
「山の中なので、車で行く方はゆっくり行ってください。こないだもレクサスが腹をこすっていました。」
その場にいた数名が吉良を見る。彼の愛車もレクサスだ。誰かが吉良に言った。
「シャコタン?」
吉良が苦笑いしながら答える。
「レクサスでシャコタン?意味わかんない。バカでしょう?」
そういや、こないだも東名で久々にシャコタンを見たなあ。タイヤをハの字型に付けていたが、あれではタイヤの磨耗が激しいのではないだろうか。そもそもレースをするわけでもないのに、車高をギリギリまで下げるなんて非合理的だと思うのだが。バブルの頃はよく見かけた。踏切で線路に乗り上げていたアホな車もいた。マークⅡとかレパードとか。
流しソーメン?ソーメン流し?
満員のバスは国道328号線を山の中に進んでいく。一体どこに連れて行かれるのか?こんなところに飯を食う場所があるのか?バスの中は全員が疑心暗鬼にかられていた。
ふと、私は昼間に蕎麦を食べてから出水まで、この街を通ったことに気づいた。道沿いに流しそうめんののぼりが立っていたのが気になったことを思い出した。
流れ庵。ここなのか?
スマホの画面に表示されたホームページを地元民の下谷さんに見せる。
「ここですよ。」
ホームページを読んで私が下谷さんに聞いてみた。
「流しソーメンだよね」
下谷さんが答える。
「ソーメン流しですよ。鹿児島が発祥ですよ。」
そうなのか?!流しソーメンは鹿児島が発祥なのか?!だが、流し庵のホームページにも「流しソーメン」と書かれている。下谷さんに見せる。
「そのホームページは偽物ですよ。ソーメン流しです。」
感情のない表情で下谷さんが答える。偽物って、いやいやいや、本物だって。
「違いますー。そうめん流しですー。流しソーメンではありませんー。」
機嫌が悪くなったみたいなので、これ以上は突っ込まないでおいた。
国道から外れた細い道をバスは進む。狭い。凹凸が激しい。はあ、レクサスはここで腹をぶつけたんだなと全員が思った。さらに奥に進むと駐車場があった。バスが停まり、全員が降りる。山の中だ。携帯は全員が圏外だ。建物に向かって歩く。「そうめん流し」と書かれている。建物に入っていく。ここが今夜の懇親会会場だ。
流れ庵
この建物の上の方に、わさび園とチョウザメの飼育池があるという。卵はキャビアだ。池で悠々と泳ぐチョウザメ。
その隣のわさび園。水が綺麗なのだな。
確かにこの渓流は水が澄んでいる。ヤマメなどが釣れそうだ。
日が沈み、だんだんと会場の外が暗くなる。灯につられて虫が集まってくるが、それさえ一味違う。蝶トンボが天井付近を飛んでいる。こいつはかなり綺麗な水にしか住めない。各自、指定された席に座る。私の隣は佐賀県人の高見さんだ。
まさかの県対抗レース
流しソーメンの宴席が始まり盛り上がる。酒もビールから焼酎に変わり、腹もいっぱいになり、場も和やかになっていた。下谷さんが私に近づいてきて言った。
「沖縄、いたよ!」
なんのことやら。下谷さんが誰かに向かってって叫ぶ。
「ここに沖縄いるよー!」
今日の会議には九州全県から参加者がいるのだが、沖縄からは台風の影響とかで、参加者がいなかった。私は今朝、沖縄から来たのだが、今年の担当者らは宮古島だったので、昨晩、那覇行きの便が欠航したのかもしれない。たまたまオブザーバー参加した私が人柱にされたのだ。
各県対抗で何するの?訝る私を下谷さんはニヤニヤしながら見てるだけで何も言わない。
はんかくさい。
五分後、召集がかかる。
「各県の代表者、前の方に集まってくださーい!」
言われた通りにする。各県代表の前に用意されたのは、かき氷だ。小倉抹茶だ。
下谷さんがマイクを持つ。
「はい!では、今から県連対抗かき氷早食い大会です!優勝は焼酎プレゼント。最下位はそうめん二玉一気食いでーす!」
でーす、じゃねーよ。なんだ、それ?俺はジジイだぞ。この仕打ちはなんだ?号令がかかる。仕方ない食べる。
一口、美味い。
二口、かき氷なんて久しぶりに食った気がするが、これは美味いや。
三口、これならラク…頭部に鈍痛が走る。きた。キーンってやつだ。動作が止まる。
痛みが治まったところで四口。再び痛みに襲われる。これ無理だろ。なんか最近もこんな目に遭ったぞ。いつだっけ?嫁と何か食べていた時だ。これ無理でしょ?それでも食べる。そうめんはカンベンだ。下谷さんがマイクで叫ぶ。
「49歳、頑張っている!」
いや、俺、今月で50歳だよ。スプーンですくう量を減らし、底の氷を先にやっつける。何度も痛みに襲われる。下谷さんがマイクでがなる。
「一名ギブアーップ!ギブ出ました!」
だよな。無理だよな。気持ち悪くなってきたもん。冷たいの食ってるのに、変な汗が出てくるし。それでも食べる。一位はすでに決まったようだ。もう少しだ。やった!フィニッシュ!食ったどー!
3位だったので、商品もないが、罰ゲームも無かった。
そんなこんなで懇親会も終わり、店の入口で集合写真を撮ると、バスで街中に向かった。
いいところだった。蚊にも刺されなかった。だけど、子供連れなら虫除けスプレーは必須だな。
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