芝公園 韓国料理 ちぢみ屋
午前便で東京に向かう。羽田着は12時20分。東京オフィスでの会議は14時開始。ならばランチは浜松町か芝公園で食べるのが必然となる。明日からは北海道まで出張で向かうために、75リットルの大きなスーツケースを転がしたまま飲食店に入れば、まあまあ嫌がられる。一旦、社宅に寄って荷物をリリースするしかない。そうなれば芝公園で食事するしかない。
重い荷物から解放された。さて、何を食べようか。脳内でシミュレーションが始まる。
私の中のMAGIシステムはすべてを否定してしまった。意味がない。どうしようかと歩きながら思いあぐねている私の前に現れたのは、新規開店したばかりの韓国料理店だ。
焼肉ねえ。
何気に店頭のメニューを眺める私の目に飛び込んできたのは「ソルロンタン」の六文字。
ソルロンタン
久しく食べていない。日本でメジャーなのはコムタンである。ざっくり言うと、コムタンは牛肉で出汁をとる贅沢品であり、李氏朝鮮時代には支配階級である両班(やんばん)が好んで食べたらしい。 対してソルロンタンは庶民が好んで食べた牛骨スープ である。
もう10年以上前になるだろうか。ソウルに一人で出張に行った。韓国語は単語がいくつか分かるだけ。ハングル文字はかろうじて読める。前の晩にチャミスルでさんざん乾杯をしたせいで、激しい二日酔いだった。辛くないあっさりした料理を食べたいと、ホテルの近くを歩いて見つけたのが、白濁したあっさりスープの看板。ソルロンタンと読める。
店に入り、空いているテーブルに座った。メニューを指差してソルロンタンをオーダーした。日本語は通じない。間も無くして出てきた白いスープ。二日酔いでキムチなど食べたくない私に、一生懸命にサービスしてくれる若い女性の店員。そう、韓国では基本的にキムチは食べ放題である。
懐かしい思い出と共にソルロンタンの味が脳裏に浮かんだ。これだよ、これ!ドアを開けて店に入った。
大きなテーブルの席に案内された私は、改めてランチメニューを見た。うん、私の気持ちに変わりはない。問題はセットにするかどうかである。ビビンバともセットにできるが、店員に確認すると、ご飯が付いているとのことなので、まずはノーマルで様子を見る。次回はセットにしてみよう。
さあ、運ばれてきた。白濁した煮えたぎるスープが熱いのは見た目でわかる。スッカラ(スプーン)ですくい、フーフーと冷ましながら口に入れる。
ああ、優しい柔らかい匂い香る牛骨の味。中にはたっぷりの肉と春雨。スープ自体はさほど味が付いていない。ソウルではまったく味が付いていなかった。肉を食べてみる。素材の味わいが…味が付いていない。肉を丸々食ってるようだ。この店のテーブルの上には調味料が見当たらない。
意を決してソウル式に豆腐とキムチを鍋に投入。しばし待つ。赤くなったスープを口に入れる。
これだよこれ。
浅つけのキムチのコクとしょっ気がスープに溶け出し、白菜はまろやかに、豆腐は熱々に変化する。モノクロームの世界がリッチカラーにあふれたような味の変化。丁寧に調理された牛肉は柔らかくチャシューのような食感だ。ご飯がススム。韓国料理は和食のように食器を持たない。ご飯は肢の長いスッカラですくって食べる。そしてスープを飲む。この繰り返し。
ああ、至福である。
会計の時に、期限なしのスタンプカードを渡された。この場所は店がコロコロ変わるので、長くあってくれればいいなと思う。
次回は
次回は会社のスタッフらと食べに来てみたい。
数年前に五十路となったバツイチ男性。昨日は沖縄、今日は北海道、明日は四国…出張三昧の日々、三年間で制覇した店は千店舗を超えた。日本全国及び海外での食事を記録したブログである。五十路とは本来「五十歳」を意味するが、現代社会では「50代」と誤った認識が定着している。それにあやかりブログのタイトルを名付けた。(詳しく読む…)