瓦そばについて僕が知っている3つのこと
昨年の秋に山口県防府市を訪れた。土産に瓦そばを買った。そろそろ賞味期限が切れるので、妻と一緒に食べたいと思ったのだが、久しく食べていない。最後に食べたのは、おそらく七年前、広島県の竹原市だと思う。瓦そば自体は以前から知ってはいたが、食べる機会はそうそうない。
なので、作ろうと思っても、しばらく食べていないので、どんな料理だったのか思い出せない。ざっくりとは覚えている。
・熱い瓦の上に茶蕎麦と野菜が載ってたような気がする
・瓦で調理するから瓦そばと呼んだ気がする
・蕎麦をめんつゆにつけて食べると思った
この程度の知識しか持ち合わせていない。山口県民にバレたらひどく叱責されそうで怖い。
昨年の秋、防府に寄ったあとに島根県出雲市に向かわなければならなかったので、通り道の山口市内で本場の瓦そばを食べつつ、中原中也記念館に立ち寄りたいと考えていたのだが、前日の夜の酒席でだいぶやられてしまった。知人はこの状態を「ベロベロの神様が降臨した。」とか「ベロベロの神様にやられた。」と表現するのだが、言い得て妙である。
そのためにホテルを定刻までにチェックアウトするので精一杯であり、そこからバスで山口に向かう余裕など1ミリも持ち合わせていなかった。さらに、酒席で教えてもらった店の情報をどこにもメモらなかったので、どこに行けばいいのかすら分からなかった。ネットで調べても、どの店を教わったのか、さっぱり思い出せない。
改めてお土産品のパッケージを見るも、こんな蕎麦だったっけ?と疑問が湧くだけである。なんの解決にもならない。賞味期限は長めなので、それまでにどこかで瓦そばを食べる機会がないのか考えていたところ、会社の近くにあったラーメン店が瓦そば店に様変わりしていたのを見つけ、ここで食べるしかないと心密かに決めていたのだった。
瓦そばを食べよう
午後イチの東京支店での会議を控えたお昼前。せっかくなのでみんなでご飯を食べに行くことになった。
さて、何を食べようか。
あれこれ考えていた私の脳裏に浮かんだのは、以前から訪問するチャンスをうかがっていたあの店だ。
「ね、瓦そばを食べに行かない?」
何ですか、それ?と、若い女性たちはきょとんとしていた。瓦そばの知名度など、この程度だ。東京の若者にはまったく浸透していないのだ。分かったか、山口県民め!と、恨みつらみなど何もない地元民に対し、上から目線で優越感に浸るのは、我ながら性格が悪いと思うのだが気にしないのだ。
ざっと私が知っている知識を彼女たちに披露すると、食べてみたいと意見がまとまり、早速、店に向かった。徒歩数分で店に着いた。ここだ。
店頭に置かれていた看板でランチメニューを確認する。なんと夜は営業していない。ランチタイム一本勝負の店だ。営業時間は一日四時間に過ぎないが、仕込みと片付けが大変なのだろう。飲食店は夜まで営業すると拘束時間が十二時間、つまり半日になるのは、学生時代に叔父の経営する蕎麦店でバイトをしていた経験から知っている。これも働き方改革の一つか。一日八時間労働でやっていける飲食店は素晴らしい。休息が無ければ気持ちにも体力にも余裕ができない。余裕がなければ、さらなる料理への追求と研究など不可能なのだ。
小さな店であることも理解して、ドアを開ける。カウンターのみの小さな店。店頭には麺打ち機。まずは食券を買うシステムだ。私は瓦そばと肉味噌山椒ご飯をセレクトした。
瓦そば 瓦(ぐらむ)
ジャズの流れる落ち着いた静かな店内。瓦の上で蕎麦の焼けるジューっという音が響き渡る。カウンターでそばが出てくるのを待つ。
瓦そばの食べ方についての説明書きを読みながら、イメージトレーニングをする。なんせ数年ぶりに食べるのだ。味もなにもかも忘れてしまったと言って過言ではない。
そして私の眼前に瓦そばが置かれた。
おお!
漆黒の瓦の上に鎮座する茶そばの山からはすさまじい湯気が。ビジュアル的にすごい。圧倒的じゃないか。まるでジオングを目の当たりにしたアムロの気分だ。食べかたは事前に学習しておいた。これはイメトレなしに食べることは難しいだろう。大事なことだ。イメトレブギも嫌いではない。それは初音ミクだ。
レモンをそばつゆに入れ、熱々の瓦の上にそばを展開する。これが思うようにいかない。
蕎麦が伸びる。
瓦の中央に生卵を落として広げていく。出汁のきいたつゆに山椒を入れ、豪快に蕎麦を浸して食べる。茶そば独特の香りとぬるっとした滑らかな食感。香ばしいネギの香りが鼻を抜ける。
辛味の無いシャキシャキのネギは丁寧に水で晒してあるのだろう。つゆはカツオ香るしょうゆベースだが、そばつゆとは異なる。もっと複雑なラーメンスープにも煮た味わいだ。おそらく複数の出汁がまざっているのだろう。食べていくとパリパリにやけて皿うどんのよう。味付けの肉が美味い。
店内入口に説明が貼ってあった。カツオ、煮干し、しいたけと書いてある。
ご飯の肉味噌は冷たいが口の中で溶けると肉の脂の甘みが広がる。ピリ辛な刺激がアクセントである。
食べ進むにつれて蕎麦は焼けた部分が増える。パリパリで皿ううどんのようだ。最初に瓦にこびりついてしまった玉子も焦げてきれいにはがれていく。なるほど。慌てることはなかったか。
あとで画像を確認したところLINEを見つけた。試しに会員登録したところ、下記のように案内がきた。
【新着情報】
特製抹茶そば湯は、お手数ですが券売機の領収書ボタンの左側の「リニューアル中」ボタンがございますのでお一人様1枚お出し下さい。
尚、数に限りがございますので内緒でお願いします。
あああ…事前にチェックしておけばよかった。また食べにいくだろうから、まあ、いいか。
※令和元年5月11日以降、当分の間、休業とのことである。
数年前に五十路となったバツイチ男性。昨日は沖縄、今日は北海道、明日は四国…出張三昧の日々、三年間で制覇した店は千店舗を超えた。日本全国及び海外での食事を記録したブログである。五十路とは本来「五十歳」を意味するが、現代社会では「50代」と誤った認識が定着している。それにあやかりブログのタイトルを名付けた。(詳しく読む…)