味噌より醤油?
昨年の夏頃だったか、札幌のスナックで、店の女の子たちにオススメのラーメン店を訪ねてみたところ、全員が味噌ではなく醤油ラーメンを推してきた。何人かに質問したが、ことごとく醤油ラーメンであった。
地元民は味噌ラーメンを大してリスペクトしていないのだろうか。沖縄県民が案外オリオンビールを飲んでいないことと同じだろうか。
そんな中でも、ひときわとんがっているのが「いそのかづお」らしい。もう、名前がおかしい。明らかに何十年も前から日曜日の午後六時半から放映されている、国民的アニメの一家から名前をパクっているではないか。店主がよほどのファンなのか、特に意味はないのか、気になるではないか。
機会があれば食べに行ってみようと思いつつ、行ってみれば行列ができている。カウンター7席のみの小さな店なのだ。これは厳しい。ふらっと行ったパチンコ店で、スランプ気味の設定6が落ちてましたというくらい、難しい。
なので食べることを諦めていたのだが、年明けすぐのこの日、何気に通ってみたら、誰も並んでいないどころか、店内には客が三人しかいないではないか。
好機!
番長か慶次ばりの無意味に派手な演出が頭をよぎる。腹はそれほど減ってはいないが、ラーメンくらいは余裕で食べられそうだ。まずは店内に入ろう。
札幌ブラックラーメン いそのかづを
席に座る。ふむ、壁にはおろし生姜がオススメとある。豚骨の香りが鼻をくすぐる。おや、すぐに団体が入ってきた。カウンターは満席だ。
さて、なにを食べようか。メニューを見る。札幌ブラックラーメンがイチオシだ。むしろ他のメニューは頼んではいけないような、気になる書き方だ。
ラーメンが来るまで、正面をぼーっと見る。国民的キャラが瓶ビールを勧めている。手書きである。仕事柄、著作権的にどうなのかと思ってしまう。カウンターの内側から鍋を振る音と、ときおり立ち上る炎が見える。一食ずつ作っているようだが、席からは手元をみることができない。
数分後、私の前にどんぶりが置かれた。
まずはスープから。こがし醤油の香り立つ、優しいあっさり味。ああ、なんだかホッとする。もう一口。ああ、くどくもない、荒れた胃にしみわたる醤油味。レンゲが止まらない。このままでは麺を食べる前にスープを飲み切ってしまいそうだ。
気持ちを切り替えて麺を食べる。喉ごしの良い、コシのある中太麺。一般的にラーメンの表面は、スープが絡みやすいようにざらついている。能條純一の「ばりごく麺」に出てくる「龍鱗麺」は、麺の表面に細かく刻んだ傷をつけ、それが龍の衣のごとくスープをまとい、麺と一体化するという話がある。刀削麺も同じ原理で理にかなっている。なのに、この麺は蕎麦のごとく、うどんのようにのど越しが良い。なのにしっかりとスープが絡む。豚骨スープのように油脂で強引にからませているのではない。
なんだ、これは?!
見た目と味にものすごいギャップがある。特に富山ブラックラーメンを食べ事がある人にとっては、衝撃的ですらある。
チャーシューは柔らかくて味が濃厚だ。めんまは柔らかくて食感はしっかりだが味付けは控えめだ。対照的なのが、丸ごと入っているきくらげ。斬新だ。ラーメンに入れるときは刻むものと言う固定観念をぶち壊された。北海道はスープカレーにすらきくらげを入れる店がある。そんなにも一般的に食べる食材なのだろうか。そういえば青森でもアホみたいにきくらげが入っている煮干しラーメンを食べた記憶がある。
カウンターにはいくつかのトッピング素材が鎮座している。さかなクンは香り立つ魚粉。エビちゃんは海老粉だが、さかなくんほどは香りが立たない。がごめと柚子胡椒は試さなかった。
隣の客が富山ブラックとの比較を論じている。西町大喜の話をしている。この店は、あの絶望的にしょっぱい富山ブラックではないと話している。うむ、その通り。まったくの別物だ。コンセプトが違う。これはラーメンだけで完結している。富山ブラックはおかずである。ごはんとセットで食べるのがコンセプトなのだ。
ああ、おろししょうがを入れて食べるのを忘れてしまった。そんなにおすすめなら、カウンターにおいてほしい。それとも、おろしたてのしょうがにこだわりでもあるのだろうか。次回はぜひ、試してみよう。と簡単にはいかない現実を思い出した。店の外には五人ほど並んでいたのだ。うーむ、次回はいつになるだろうか。
数年前に五十路となったバツイチ男性。昨日は沖縄、今日は北海道、明日は四国…出張三昧の日々、三年間で制覇した店は千店舗を超えた。日本全国及び海外での食事を記録したブログである。五十路とは本来「五十歳」を意味するが、現代社会では「50代」と誤った認識が定着している。それにあやかりブログのタイトルを名付けた。(詳しく読む…)