富山ブラックラーメン 西町 大喜

富山駅 元祖富山ブラックラーメン 西町 大喜

接頭辞がブラックの料理名

ブラックから始まる料理名というのがある。富山ブラックラーメンであったり、お隣は金沢ブラックカレーである。他にも超ローカルと言うか、店舗限定ならばブラックうどんなるものもあるらしい。沖縄には「イカスミ汁」という、ブラック汁とも言うべき郷土料理がある。

探してみると、メジャーなのはやはりこの二つだ。ちなみに富山にもブラックカレーがあるらしい。最近では札幌にもブラックラーメンがあるとのことだ。店名はいそのかづお。店の前を通っただけなので、味はおろか、実は記憶もない。スマホに画像が残っていた。

この二年ほど、富山に来る機会が少なくなかった。 いつだったか、 富山の知人が地元を案内しながら、本物の富山ブラックラーメンを食べさせたいと話していた。彼によれば、最近のラーメンは元祖とはかけ離れつつあるという。

もともと肉体労働者がご飯だけ食べているのを見た店主が、ラーメンも食べさせたいと、おかずになるような濃い味付けにしたものが富山ブラックラーメンである。それがゆえに、ご飯がセットであり、ラーメン単独で食べるのは厳しい。しかし、一般受けさせるためには、ラーメン単独で食事ができる味付けにしなければならず、元祖から味がかけ離れてしまうのだそうだ。

同じ系統に徳島ラーメンがある。こちらも同じ発想だ。まさにおかずラーメン。麺は少なめ、肉多め、スープは濃いめが特徴である。これで得心が行った。富山に何度か来たが、ブラックラーメンを美味しいと言った者が周りにいなかった。不味いものがこれほど有名になるはずもない。私も食べたが、飲んだ後だったので味を覚えていない。ロフトのような、屋根裏みたいな部屋で食べたことだけを覚えている。

元祖富山ブラックラーメン 西町 大喜 とやマルシェ店

鹿児島県出水市に住む上坂さんも富山の会議に参加するとのことで、前日遅くに富山駅近くのホテルにチェックインしたと連絡があった。お昼を一緒に食べましょうとのお誘いだ。

さて、何を食べようか。

すし玉は昨晩食べた。隣の店で海鮮丼を食べようかと目論んでいたが、夜は寒ブリだ。和食だ。海鮮だ。富山のきときとの魚介を楽しむとなれば、ランチに海鮮丼はないな。

うむ、富山ブラックラーメンだ。とやマルシェにも有名店が入っていたはずだ。店の前で上坂さんと待ち合わせ、店に向かう。富山のお土産には何がいいのかと尋ねられたので、迷わず「ますのすし」を進める。これもとやマルシェで何種類も販売されている。

店頭にメニューと食べ方が解説されている。普通のラーメンの常識は通じないのが、本物の富山ブラックラーメンだ。三位一体が特徴らしい。

店に入ると、二人はカウンター席に案内された。オーダーはシンプルだ。ラーメンとライスと玉子の三点セットに迷いはないが、問題はサイズだ。小、大、特大。

うーむ。

待てよ、よく見ると小とは一玉と書いてある。讃岐うどんと同じ要領だな。ならば小で十分だ。ライスも小を食べるのだ。炭水化物は大好きだが、もう五十歳だ、糖質制限とまではいかないが、控えめでなければならぬ。上坂さんも同じチョイスだ。

ふむふむ、これがおかずを目指した富山ブラックラーメンの発祥なのだな。

まずはライス小と生卵が運ばれてきた。胡椒の缶がでかい。 通常のラーメン店の倍の高さの缶だ。そういえば以前、富山ブラックラーメンのブラックとは黒コショウがたくさん入っているからだと、何人かが話していた。それだけ大量に消費するのだろうか。

続いてラーメンが運ばれてきた。スープが黒い。ブラックと言うだけある。真っ黒とは思っていなかったが、そばつゆ並みに黒い。しかし胡椒は少量しかかかっていない。

誰だ、デマを流しやがったのは。

このスープの黒さの秘密は、入口に書かれていたぞ。濃口しょうゆなのだな。まさしくそばつゆと同じ色なのだな。もう一つ不思議なことがある。

通常、ラーメンにはレンゲと呼ばれる、中華スプーンともいうべき食事道具が添えられているものだが、カウンターの上にすら見当たらない。 まあいい、どんぶりを持ち上げ、端に口をつけスープを飲む。

しょっぱい。

なんじゃ、こりゃ?レンゲがないわけだ。まるで盛り蕎麦のつゆをかけソバにしたような感じだ。続いて太い麺を食べる。どんぶりの底に潜む麺を表面に引きずり出す。箸でつかんで一気にすする。ふむ。コシがあってスープがよく絡む、というか染みるというか。まるで大勝軒のつけ麺である。

さすが、おにぎりと一緒に食べるラーメンだけはある。肉が多い。やたらと多い。しかも柔らかい。スープが濃いためだろう、肉にはあまり味が付いていないので、これだけでおかずになる。対照的にメンマはしょっぱい。個々の個性が強すぎる。

だが、混ぜることで具材の味わいがお互いを補完しあい、溶け合うことで富山ブラックラーメンの味を作り上げる、具材がATフィールドを失い、赤い海ならぬ黒いスープの中で自我境界を消失することで実現するのは、まさにラーメン補完計画。恐るべし、この地にはネルフの別動隊がいるのか。確か、参号機はこの地から遠くない松代基地で調整していたはずである。

生玉子を忘れていた。どんぶりに落とし込む。黒地に黄色が映えるのはタイガースだろうか。野球に興味がないのでどうでもいいのだが、塩気の強いこの料理に、黄身のいくばくかの甘みが味わいをより豊かに昇華させる。

だが、生玉子一個ではとても太刀打ちできるものではない。ほのかな甘みはあっという間に黒い沼に吸い込まれていく。すべての物質を吸い混み原子レベルにまで分解する、ブラックホールスープ。この黒さは異常だ。

となりでは上坂さんが生玉子を追加注文していた。だが一個では焼け石に水だ。五〜六個は突っ込まないと、黒いスープに太刀打ちできるとは思えない。美味いのだけどしょっぱい。胡椒を振りかける。麺が先になくなった。スープを飲み干したら病気になる。そもそもレンゲがついていないのは、スープはあくまでもつけ汁だと位置づけているからだろうか。ならばいっそスープを三分の一にして、まぜそばにしてもいいのではと思ってしまう。

美味しいかまずいかと言われれば美味い。間違いなく美味だ。しかし体にいい食べ物とは思えない。若い人は問題ないだろう。中高年にとっては命を削って食べるラーメンかもしれない。しかも悪いことにクセになりそうだ。

次回は最初から生玉子を三個注文しよう。

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