信州みゆき豚の冷やし肉蕎麦

長野駅 四季御膳 彩十里 信州みゆき豚の冷やし肉蕎麦

四季御膳 彩十里(いろどり)

会議が終わったのが15時。ランチを食べ損ねたので、夜まで我慢しようかと思ったが無理であった。それにせっかく長野に来たのだから信州そばを食べたい。しかも昨晩は長野駅前で大失敗だ。次に食事をする機会は明日の昼くらいしかない。夜は千人規模の食宴なので、自分で食べたいものを決めることができない。立食形式のバイキングだから選べはするが、欲しいものがあるとは限らない。

なので食べたいものは早く終えて次に備えたいのが人情というものだ。

だが現在時刻は15時過ぎ。場所は長野駅前。こんな時間は東京でもランチタイムが終了している。ハンバーガーか立ち食い蕎麦、牛丼店などのファストフードしか営業していない。

いや、待て。空港や駅、デパートであればランチタイムなど関係なしに店が開いているはずだ。ホテルの近くには東急百貨店があるではないか。レストラン街に行けば問題は解決する。そう閃いてデパートの扉をくぐった。エレベーターで飲食店街に向かう。さあ、どんな蕎麦に出会えるのだろうか。

なんということでしょう!蕎麦専門店が見当たらない。選択肢が数件しかない地方都市にあるデパートの悲哀を実感しながらフロアを徘徊する。

んー、これは和食店のようだ。蕎麦はどうだろうか。味自慢と書いてある。信州そばとも書いてある。再び裏切られることにならないか、不安を覚えながらも、15時半と言う半端な時間に営業しているのはデパートのレストランしかないので、諦めることにした。

ダメならその時はその時だ。心で泣こうではないか。

店内にはエレクトーンの演奏による静かで軽快な音楽が流れる。客は私一人だ。こんな時間に食事をする者など、この地にはいやしない。それが証拠にほとんどの店は支度中だ。レストラン街なのに、ランチタイムが終われば閉まっている。デパート内も客はまばらだ。人口減少を肌で感じる。

メニュー

さて、何をたべようか。厳選素材の説明書きを読む。信州みゆき豚に信州福味鶏。さらに蕎麦も自慢のようだ。ロースかつや生姜焼きにも心惹かれる。どうしよう。

鳥肉定食メニュー。信州名物山賊揚げ。こいつにタルタルソースをかければチキン南蛮になるだろうか。まあ、鶏肉は気分ではないな。

豚肉定食メニュー。うーん、ロースかつかあ。トンテキにも心が奪われてしまいそうだが、ちょっと待て。お前は何のためにこの店に入った?自問自答する。そう、蕎麦を食べるためだ。昨日の仇を取るためだ。だが、ここは蕎麦屋ではないので、ちょっと無理ぽなのだ。無念なのだ。

蕎麦とうどんのメニューだ。うーん、無難な線ならば天ぷらそば、もしくは鴨葱そばだな。

ここにきてお重ときたか。天丼にステーキ重か。うーん、やっぱり蕎麦が食べたいかな。

決めた。信州みゆき豚の冷やし肉蕎麦なのだ。店員を呼びつけてオーダーする。

まずは最初の関門をクリアして一服。お茶をすすりながら考えた。今日は肌寒い。冷たい蕎麦よりも鍋焼きうどんの方がよかっただろうか、否、ここは信州、蕎麦といえば冷たいもの(除く立ち食い蕎麦)である。食べていて気持ちのいい冷たさがたまらないのだ。まるで顔に当たる初冬の風の心地よさ。そう、冬は冷たいon冷たいもオツなのである。

信州みゆき豚の冷やし肉蕎麦

しばらくして蕎麦が運ばれてきた。三つ葉葵のように配置されたネギ、豚、三つ葉。さっそく食べてみる。

つゆは少し辛口だ。ぶっかけに向いてない。冷たくてキラキラの蕎麦は口当たりもよく、喉越し滑らか。いいねえ。

肉は冷たくて硬いかと思いきや、柔らかい。冷たくもない。噛んでいるうちに、脂の甘味と肉の旨味がじんわりと滲み出てくる。口の中に広がっていく。シャクシャクとした食感の山菜とのマッチングもグッドである。そして見た目よりもボリューミーだ。蕎麦と肉が同量に感じる。

まさに肉蕎麦。その名に偽りなし。

時折、鼻を抜ける三つ葉の香りが堪らない。

そうそう、長野ではそばにワサビではなく七味であった。卓上には善光寺名物の七味が鎮座しているではないか。こいつを蕎麦にかけるのだ。

柚子と爽やかな香りと唐辛子の辛味が味わいを広げていく。ああ、どんぶりの中に展開された小宇宙(コスモ)が私の胃の中へと転移していく。生姜焼きに引けを取らない、食べ応えのある肉の存在感が斬新だ。薄っぺらい牛バラ肉を甘辛く似たヤツも嫌いではないが、蕎麦と豚肉を正当に味わうために味付けに逃げないストレート勝負が、この蕎麦の魅力である。

トイレは共用だが温水洗浄便座である。

期待した店に裏切られ、期せずして食べたそばに感動する。まさに禍福は糾える縄の如し、美味い不味いは表裏の関係だ。だが、できれば表ばかりを味わいたい。いい思いだけしたい。自己都合のためにの努力は惜しまないのである。己の慧眼を鍛えるしかないのである。

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