地元民オススメの店
人吉と言えばウナギである。うな重である。国内でも有数の清流を誇る球磨川。昔から川魚が有名であったのだろう。今でこそ、お隣である宮崎県か鹿児島県の養殖ウナギを使っているのだろうが、引き継がれてきた技と伝統が光るこの街で食べるウナギは紛れもなく絶品だ。運が良ければ、球磨川天然物のウナギを食することもできる。
山深いこの地でのもう一つの楽しみは山の幸だ。山菜料理とイノシシやシカ、キジなどのジビエ料理である。水が綺麗なのでコメも美味い。いや、何と言っても水を使うのは麺料理である。九州でも蕎麦が作付けされており、その生産量は九州各県ではそれほどでもないが、九州全域では秋田県に相当する年間千トン以上の生産量を誇る。
つまり、九州でも美味い蕎麦が食べられるのだ。しかも本州より気候が温暖なため、東北や北海道よりも時期をずらして生産することができる。
先月、この地を訪れた時には「しらいし」でウナギを食べた。本命の上村がしまっていたので、うなぎリベンジも考えたのだが、地元民オススメの蕎麦屋があると言われて、それは是非とも食べてみたいと思ったのだ。
丸一蕎麦屋
知人の車について店に向かう。広い駐車場に車を停め、店に入る。
店内に入ると、一人客用のカウンター席がある。
我々三人客はカウンター席を通り過ぎ、奥のテーブルとお座敷席へと進んでいった。
お座敷席に座ると、お冷とそば茶が運ばれてきた。二種類もあるのは嬉しい。さて、何を食べようか。イチオシは親子そばだと言う。
親子そば?親子丼ではなくて、蕎麦なのか?
メニュー
耳を疑ったが、メニューにもはっきりと書いてある。地元民二人は当然のような顔をしてレコメンドしてくる。私は親子蕎麦など、初耳だ。
東京あたりの蕎麦屋とは明らかにメニューが異なる。かしわそばと鶏なんばん蕎麦、山かけそばととろろそばは別物だろうか。聞けば親子蕎麦は温かいと言う。いや、おすすめだからそれは食べたいとしても、初めて行く蕎麦屋(除く立ち食いそば店)では冷たいせいろを食べるのが私の流儀だ。それは譲れない。
ん?
やまかけ丼ではなく、とろろ丼?なぜ表現が統一されていないのだ。いや、ツッコむところはそこじゃない。ざるそばと親子蕎麦セットなるものがあるではないか。少々、食べすぎの感もあるが、今朝の朝飯は寂しかったし、せっかくの機会だ。ここは勇気を出してダブル炭水化物にしてみようではないか。
料理についてのポリシーが記述されている。早朝とは何時だろうか。
地元民が梅カツオを激しく勧める。親子蕎麦には欠かせない一品だと言うが、ランチに合計1610円もかける気がしなかったので、丁重にお断りした。
ざるそば
まずはざるそばが運ばれてきた。そばつゆにつけてすする。お、この蕎麦は懐かしい味がするぞ。子どもの頃によく食べた、叔父の蕎麦屋と同じ味わい。いわゆる、リーズナブルで値段で食べられ、出前もしてくれる、懐かしい街の蕎麦屋さんの蕎麦だ。
以前は町のどこにでもあったが、本格手打ちそば店が増えたことや、店主の高齢化によって全国から姿を消しつつある、地元に慕われる、普段使いの蕎麦の味だ。
親子そば
続いては親子そばである。スープがうどんつゆだ。これが中国・九州地方の温かいそばなのか。防府で食べたときも思ったのだが、東日本育ちの私には、薄味のうどん出汁と蕎麦の組み合わせを美味しいとは感じられなかった。
そもそも、子どもの頃から次の四か条を守って生きてきた。
- 基本的に蕎麦は冷たいものを食べる
- 立ち食い店では温かいそばを食べる
- 西日本の立ち食い店ではうどんを食べる
- 名古屋近辺の立ち食い店ではきしめんを食べる
これを逸脱するとろくな目に遭わない。釜揚げ蕎麦など最たる例だ。コシの強さがウリの讃岐うどんを愛する香川県民が、ふにゃふにゃほくほくで醤油をかけて食べる伊勢うどんを認めないように、私も出雲とは言え、あれだけは無理だ。
だが、この蕎麦はどうだ。薄口のうどんつゆが胃に優しい。美味い。口当たりのいい、ふわふわのかき玉子は味だけでなく、舌触りもふんわりとして優しい。その上、旨味の詰まった鶏肉は地鶏のようで、噛むたびに味わいが口に広がる。ネギの香りが食欲をそそる。
なんて滋養にあふれた蕎麦なのだ。
ごちそうさま
トイレば温水洗浄便座である。
地元民が鮎釣りの話をする。曰く、球磨川のさらに上流、山辺川が一番人気とのこと。鮎釣用の竿はとても長く丈夫なために、非常に高価なのだが、釣りメーカーがこの川の釣り師たちにモニターをお願いするので、最新の竿が川で見れるとか、尺アユが当たり前なので、おとりアユさえも尺アユを使うとか、背ごしって言うが、言ってみればあれは生きたアユをぶつ切りにしただけで、まずい。寄生虫もいるから食うもんじゃねえって、プロに言われたなどなど。
アユの季節にも訪れたいものだ。きっと、今年は機会もあるだろう。
数年前に五十路となったバツイチ男性。昨日は沖縄、今日は北海道、明日は四国…出張三昧の日々、三年間で制覇した店は千店舗を超えた。日本全国及び海外での食事を記録したブログである。五十路とは本来「五十歳」を意味するが、現代社会では「50代」と誤った認識が定着している。それにあやかりブログのタイトルを名付けた。(詳しく読む…)