香港の思い出 とんでも和食
香港の楽しみは何と言っても食事だ。中華だけではない。世界中から様々な人が集まるこの国際都市では、何を食べても美味い。ただし、和食についてはわからない。香港で日本料理の店にほとんど行ったことがないからだ。
思い出した。20年前に行ったよ。
前妻と香港に来た時のことだ。さすがに二人とも連日の中華料理に食べ飽きたのか、日本料理でランチをしようということになった。今と違いネットなどない。チムサーチョイを歩いて見つけたその店は見た目は「養老の滝」そのまんま。
渋い。
店に入ると、声をかけてきたフロアの店員はフィリピン人。厨房の中は香港人のようだ。
一抹の不安が…
ランチメニューから私は「うな重と野菜炒め」を頼む。前妻はざるそばか何かを頼んだ気がするが覚えていない。
ランチなのだがまずはお通しにカニカマときゅうりのマヨネーズ和えが出てきた。普通に美味い。このアッサリした味に出会うのは久しぶりな気がした。
続いて、メインディッシュ。野菜炒めとうな重…
え?
重箱しかないよ。野菜炒めが無いよ。恐る恐る重箱のフタを開けると…
マジかよ!
ご飯の上にうなぎと野菜炒めを一緒に載せるなっ!
お前ら、醤油ラーメンに秋刀魚の塩焼き載せるとか、沖縄風カツ丼はとんかつにクリームシチューかけたものだとか、北海道風海鮮鍋はトウガラシ山盛りとか、適当すぎるんだよっっっっ!!!
※当時、テレビ番組で香港のとんでも日本食がリポートされていた。
うな重のタレと野菜炒めの胡椒のきいた汁が混じり合い…不味い。味の不協和音。いがみ合い。足の引っ張り合い。
あの衝撃は今でも忘れられない。
食在広東(食は広東に在り)
話を戻す。広東料理は海鮮も多く使うが、今日の店は「橋底辣蟹」日本語は店の看板にも書かれている。
アンダーブリッヅスパイツークラブ
惜しい。
「ガード下の辛い蟹」と言ったところである。店の選定は、いつも香港在住の岸川さんと本岡さんにお任せだ。ハンマーで大地を打つようなものだ。ハズレっこない。
店名の通り、蟹が名物なのでもちろん食べるとして、ジャンボシャコも食べたいのでリクエスト。
橋底辣蟹
まずはホタテ。美味いけど、香港でホタテなんて獲れた?
「この店の食材は、香港で取れないものばかりですよ。」
岸川さんが解説する。
そして、きたー!カニだ!でかい。ニンニクとニラと唐辛子とカニの身を炒めたものだという。5段階の辛さ3でオーダーしたがそれほど辛くは無い。この蟹も香港では獲れないそうだ。だが、私はこいつを知っている。オーストラリアで食べた記憶がある。いや、シアトルだったか。
「こいつをご飯にかけると美味いんですよ。」
岸川さんの勧めに応じて米飯4つを注文する。もちろん長粒米だ。蟹の上のふりかけ状のものと一緒に口に入れる。辛さとコクとニラの香りとニンニクが渾然一体となったものを、ご飯がしっかりと受け止める。
んまい!
これは止まらない。写真を撮るのも忘れて一心不乱に食べる。
「蟹のハサミも食べてください。」
またもや岸川さんの勧められるままに蟹のハサミを皿に取り、蟹ハサミで砕く。爪の中は奥まで身がぎっしりだ。これもふりかけと一緒に食べる。ビールをのどに流し込む。
やばい。マジやばい。
おお!そうだ、シャコも食べなければ!
椒塩瀬尿蝦皇
デカイ。まさにジャンボシャコ。こんなにでかいのは初めて見た。蟹と同じようにご飯と食べる。これも美味い。揚げたシャコの皮は柔らかくなってるので、たやすく剥くことができた。身がデカイ!味が濃い!
「ところでこの尿蝦って何ですか?」
本岡さんが答える。
「こちらではおしっこエビでシャコのことです。」
「北京ではピーピーシャーって言いますね。尻尻蝦。」
「そうなんですか。」
「尻は放屁の屁だから屁屁蝦ですね。」
「おしっこに尻ですか…」
「いずれもシモの話になるんですね。」
これだけでお腹いっぱいだ。
シャコの中国語に関する考察
店を出ると、実は近くに本店があるという。そこが繁盛してこの大きなビルに店を広げたのだと。元の店は本当にガード下だったらしい。こちらではシャコの料理名が「椒塩大尿蝦皇」となっていた。
屁屁蝦じゃない
翌朝、中国語で「シャコ」をなんと言うのか調べてみた。
瀬尿蝦
そうなんだ。でも「広東では」って書いてあるなぁ。「屁屁蝦」を調べる。シャコとは出てこない。色々やってみる。出てこない。
ん?
拼音でpipixiaと入力してみる。出てきた候補は「皮皮蝦」。ん?「皮皮蝦」で検索する。
「シャコ」
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛?
誰だよ、ウソ教えたヤツ?!(涙)
数年前に五十路となったバツイチ男性。昨日は沖縄、今日は北海道、明日は四国…出張三昧の日々、三年間で制覇した店は千店舗を超えた。日本全国及び海外での食事を記録したブログである。五十路とは本来「五十歳」を意味するが、現代社会では「50代」と誤った認識が定着している。それにあやかりブログのタイトルを名付けた。(詳しく読む…)