久しぶりの居酒屋チェーン店
仕事で三重県鈴鹿市に来た。昨晩の懇親会は魚民である。白子店である。私が嫌いな居酒屋チェーン店である。魚民が嫌いなのではない。居酒屋チェーン店全般が嫌いなのだ。
例外は「つぼ八」だ。北海道発祥の昔ながらの居酒屋だ。私が若い頃は養老乃瀧、村さ来と並んで、三大居酒屋チェーンと称されたものだ。かつてはどの駅にでもあったような気がするが、現在では北海道以外で見ることは稀だ。ホームページで店舗数を数えると今でも全国に約二百店舗あるが、うち百店舗ほどが北海道なので、かつてのようにあちこちにある訳ではない。むしろレアである。
北海道で何店かのつぼ八に入ってみた。予想外に美味かった。資産家の鈴木などは、千二百円のイカ刺しを食べて「名古屋の高級寿司店より美味い。」と感動していた。店舗ごとにユニークな料理もあるようで、一工夫された品に舌鼓を打った。店舗数は減っても、むしろクオリティは上がっていたのかと驚嘆した。
それ以外はダメだ。たまに入るとがっかりする。もう十年ほど前のことだろうか。年明け間もない時期に、都内のとある居酒屋チェーン店に入った。
「産地直送の鮮魚」
壁には大書されていた貼り紙。現地の漁港から直接取り寄せた新鮮な魚介類がウリのようだ。早速、店員に刺身をオーダーすると、本日は無いという。
「すいません、築地が休みなもので…」
え?産地直送だよね。現地から取り寄せてるんだよね、なんで築地?
釣りかよ!
まあ、そんなこんなで久々の魚民に期せずして食事をすることになったのだが、まあまあの食事に驚いた。チェーン店と言えども、ここのフランチャイジー、つまりフランチャイズに加盟している店主の努力があれば、一味違う店舗にできるのだろうと実感したのだった。
魚魚鈴(ととりん)で魚を買おう
翌日は沖縄の自宅に帰るだけだ。飛行機は午後便なので、近所の直売店で魚を買ってから、駅前でランチを食べ、セントレアに向かうことにした。白子駅を12時半に出れば飛行機に間に合う。昨晩の懇親会にて、魚魚鈴が新鮮で安いからおすすめだと地元民から言われたので、向かうことにした。
ここで様々な誤算、いやトラブルに遭遇することになろうとは思いもしなかった。今回の出張には容量72リットルの大きなスーツケースを持ってきた。こいつをゴロゴロと持って歩くことで私の膝は悲鳴を上げ、常に痛みを伴っている。これは私の思い込みではない。医師の診断なのだ。こんな重いものを持って買い物に行きたくない。駅に行けばコインロッカーがあるはずだ。そう、確かにあったが、大きなカバンが入るロッカーがない。
なんでだよ?!
最近はインバウンドの観光客が少なくない。外国人はたいがい大きなスーツケースを持ち歩くから、それくらい考えろや!
仕方ない。
カバンを持って買い物に行く。駅前のタクシー乗り場から魚魚鈴へと向かった。
ここだ。
中に入ると、一面の魚。中央には生簀もある。
鮮度がいい魚が安く売っている。午後一時には閉店となるようだ。魚市場なので、食堂くらいあるのかと思っていたのだが、売り場しかない。
鮮度のいい鯵が売っている。もちろん、買いだ。
バカ貝が安い。関東では青柳と呼ぶ。買いだ。
タイもヒラメもイカも買って、三千円。安すぎる。丸ごとの魚も購入後におろしてくれる。身もアラもきちんと分けてくれるのだ。これは嬉しい。
タクシーアプリに嵌められて駅まで歩く
再び駅までタクシーに乗ろうかと、アプリで呼び出すが、五分経っても呼び出し中だ。アプリを強制終了しても、再起動すると呼び出し中のままになる。もう呼べないのなら諦めてくれればいいものを、電話で呼び出すこともできない。アプリのテストを都会でしかやってないからだ。田舎だとアプリのトラブルはしょっちゅうだ。使えるときもあるから、使ってみなければ分からない。結局、10分後に呼び出せませんと表示された。
俺の時間を返せ、Japan Taxi!
田舎だけでもライドシェアを認可しろや、国交省!
仕方なく歩いて駅まで戻る。いい天気だ。大きなスーツケースを転がしながら歩く者などどこにもいない。いや、歩行者自体、見かけない。橋の上から漁船が見える。のどかだ。
住宅街を歩く。寺の庭に桜が満開だ。快晴のの青い空をバックに、白い花びらが映える。ああ、日本の春だ。今年は綺麗な桜を何度も愛でることができて幸せだ。
ふと足元を見ると、マンホールの蓋にデザインが施されていた。魚だろう。鮎に見えるのだが、実際は何なのだろうか。世には高圧鉄塔マニアやマンホールマニアがいると聞く。妻も街灯マニアだ。マニアには、このマンホールも収集対象なのだろう。
膝が痛い。
何とか駅にたどり着く。時計を見ると既に12時10分。しかも駅の周りに飲食店は見当たらない。
なんなんだよ、ここは?!
ランチ無しが決定した瞬間だった。今朝の朝飯がひもじかったんだよ!食べるものが本当に少なかったんだよ!その上、ランチ無しとは、なんの罰ゲームなのだ!
二度と白子には泊らない。今度は津まで戻ってやる。
我が家で海鮮丼
翌日のランチは魚魚鈴で買った魚と、解凍した自家製イクラを豪快に載せて海鮮丼。けいたまにはアラを煮魚に。味のアラは焼いてからお吸い物に。
これを店で食べればかなりの金額になるだろう。もちろん、激ウマ。新鮮な魚と炊きたてご飯、不味いわけがない。白身魚やイカの刺身は一晩くらい時間を置いた方が、熟成して旨味が出る。
残った魚介でなんちゃってペスカトーレ
食べきれなかったバカ貝、タコ刺しとイカゲソは翌日のランチに使う。ニンニクと冷蔵庫にあった適当な野菜と一緒に炒めて、トマトソースで軽く煮込めばペスカトーレだ。
大喜びの妻は終始ニコニコ顔で食べてくれた。
我が家の密かな贅沢は、家族の笑顔を呼び込む仕掛けなのだ。
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