娘と沖縄へ
美大の入試で東京に来日した娘が、試験を終えて実家にやってきた。帰国子女枠で受験するとのことだ。受験結果はすぐにネットで発表された。ひとつは不合格。もうひとつは明日の発表だった。
この日は娘と一緒に飯能の温泉施設へ。宮沢湖のほとりだ。二十年以上前、娘の母である元妻とドライブで宮沢湖に行ったことがある。湖を見た元妻の一言は衝撃的だった。
「ねえ、あれって水たまり?」
いや、ちがうよ。湖だよ、ダム湖だよ。
「へー、日本人って、何にでも名前つけるね。そういえば、海の小さな岩にまで全部名前付いてたよね。これくらいの水たまり、中国にはいくらでもあるよ。」
思いがけないところで大陸のスケールを実感したのだった。
実家への帰路で、明日の発表を、合格であれ不合格であれ、実家でひとりで受け止める娘が可哀想で、急遽、思い立って娘に一緒に沖縄に行こうと提案したら、最初は渋っていたが、妹にも会いたいし、沖縄そばも食べたい。私の手料理も食べたいと、来沖することにあいなったのだ。
その夜は妻と娘二人に妻の両親、妹と甥っ子たちが自宅に集まり、てんやわんやで食事係の私は疲労困憊。上の娘もバタバタした中で沖縄に来た疲れと生理痛でバタンキュー。最初は私と上の娘をカラオケスナックに連れ出す気満々だった義父も、気を遣ってくれて、早い時間に帰ってしまった。家で茶碗蒸しを七人分も作ったのは初めてだ。
沖縄そばとビーチ
翌日は娘のリクエストで家から近い玉屋へ向かった。食べるのはもちろん「ミックス大」だ。沖縄そば、三枚肉そば、ソーキそば、呼び名は違えど、麺の上に載っている肉は一種類だ。しかし、玉屋のミックスは三枚肉とソーキの両方が載った、お得な一品なのだ。
これにフーチバー(よもぎ)を山のように入れ、コーレーグースに紅生姜を入れて食べるのが私の流儀だ。娘はヨモギもコーレーグースも初めてだという。違う、覚えていないだけだ。だるまそばに食べに行っただろう。七年前のことだが。
そばじょーぐー(そば好き)のけいたまもグイグイ食べる。小さなお椀一杯分の麺を食べ、肉を喰らい、汁をすすって、大満足だ。この店は小さい子にはスープとかまぼこだけを入れた小椀をサービスしてくれるのが嬉しいのだ。
食事を終えると、ニライカナイ橋に向かう。天気予報では雨だったが、青空で日差しも強い。気温は二十五度だ。夏日だ。今日はクリスマスイブだ。雪が似合う日に夏日とは、さすが南国だ。美しい海の光景に娘が息を飲む。
さらに車を走らせる。目的地は百名ビーチ。七年前に娘が遊んだビーチだ。国道から逸れて海へ向かう。ビーチに向かう途中、バスの終点にあるグラスボートにも娘ときた。ニンテンドーDSが出たばかりで、私がiPhone3を使い始めた頃だ。グラスボートから見える海の光景をDSで撮影していた。
その先を行くと、左には受水走水、沖縄の稲作発祥の地と呼ばれるところだ。右には有料駐車場、七年前はここに車を停め、防風林の向こうのビーチで与那国馬にまたがり娘は乗馬を楽しんだ。海の中を泳ぐ馬の尻尾に捕まっていたら、フンをされて水着がウンコまみれになったことは、娘も覚えているらしい。
この先は行き止まりだ。目的地、浜川御嶽だ。ニライカナイの国からやってきた神様が、ここから沖縄に上陸し、一休みしてから去った神聖な場所とある。沖縄ではこのような場所を霊場と呼ぶ。
浜川御嶽からは鬱蒼とした木々の向こうにビーチが見える。明るい方へ向かって石段を降りる。この辺りは梅雨明け頃に大量のオカヤドカリを見ることができる場所だ。この季節でも数匹ほど見ることができた。
ビーチはかなり潮が引いていた。普段は水が引かないところまで波打ち際が下がっているのか、海藻をつけた石がゴロゴロ転がっている。ビーチは白く、空は青く、水は澄み、沖にはエメラルドグリーンが広がる。美しい海を眺める娘はアニメの魔法少女キャラのようだ。何か島を一つくらい吹っ飛ばした余韻にかられてるようにも見えなくもない。
景色を堪能して、ビーチを後にする。
「ねえ、ポテトサラダと里芋は?」
作ると約束した料理をせがまれる。さて、帰ったらすぐに作るよ。
昼寝をしているけいたまは、この日差しで汗だくになっていた。
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