とんかつ接写

那覇市久米 豚々ジャッキー

沖縄で一番美味しいとんかつ店

沖縄と書いて「うちなー」と読む。沖縄方言では母音が3つ。「あいうえお」は「あいういう」である。だから「おきなわ」は「うきなー」。さらに「か行」が「ち」になる。「客」は「ちゃく」、「うきなー」は「うちなー」だ。そして「人」は「んちゅ」と読むことが多い。「海人(漁師)」は「うみんちゅ」、「島人」は「しまんちゅ」、「沖縄人」は「うちなんちゅ」だ。ちなみに畑は「はる」と読むが「畑人(農家)」は「はるさー」と読むので注意が必要だ。

ウチナンチュー(沖縄人)はとんかつが大好きだ。肉は肩ロース、沖縄ではBロースと呼ぶのが定番。これを薄めにスライスした肉をトンカツにする。Aランチでも家庭でもカツカレーでも、沖縄で食べるとんかつはすべてと言っていいほど、肩ロース肉のトンカツである。妻の実家でも、何かと義母が肩ロースとんかつを揚げて出してくれる。

ではヒレカツや分厚いロースカツはどこで食べられるのか?とんかつ専門店で食べることになる。有名なのは「とんかつ太郎」。内地のチェーン店だ。新宿さぼてんと同じような店とでも言えば分かるだろうか。ファミレスなのだが安くはない。沖縄本島に数店舗ほどある。それ以外にも専門店がないわけではないが、私には、一店を除いて「ここだ!」という店がない。そう、私がいつも食べに行くのは「豚々ジャッキー」なのだ。

昔ながらのスタイルを守るトンカツ屋さん

那覇市内を通る「ゴッパチ」こと国道58号線、泉崎交差点から久米大通りに入り、1つ目の信号を右に入れば、右手に看板が見える。店名からしてユニークだ。由来は知らない。

一階入口にメニューがある。カツとフライ、ソテーのみのシンプルなメニューだ。現代風の、分かりにくい長い名前ではない、昔ながらのシンプルなメニューだ。あぐーもメニューにあるが、食べたことがない。いや、何度も来ているが、ロースカツ以外食べたことがない。豚肉は肉と脂の両方を味わってこそだと個人的に思うからこそ、毎回ロースカツを選んでしまうのだ。

階段を登り、二階のドアを開けると豚の天使が出迎えてくれる。さらに奥のドアを開ければ店内に入れる。この日はお昼前だと言うのに、ほぼ満席だった。スタッフは、調理担当の大将と、フロアを担当するおそらく大将のお母さん、それに調理見習いの若いの一人の総勢3名だ。カウンター席に通されると、迷わずロースカツをオーダーする。

満席なのでなかなかとんかつが出てこないが、店内には大型の液晶テレビがあるので、昼の番組を見ながら自分の番を待つ。この店のトイレは温水洗浄便座の上に、個室なのだが広めでゆったりしている。それだけじゃない。トイレにエアコンがついているから快適なのだ。寒冷地のスチーム暖房ならよく見かけるが、エアコン付きのトイレを他店で見た記憶がない。

ようやく私のロースカツが運ばれてきた。ご飯と豚汁に漬物が付いている。ご飯とキャベツはおかわり自由だ。ここはご飯と漬物も美味しい。豚汁は普通にうまいが、スライスされた椎茸はやたら大きく、こんにゃくはきしめんのよう。そう、イナムドゥチのような豚汁なのだ。

とんかつは縦だけでなく、横にも切られていて、箸で取るとちょうど一口サイズである。ちょっと焦げてるように見えるほど、よく揚がっているのがこの店の特徴だ。とんかつソースは一種類。キャベツは塩か醤油。流行りのノンオイルドレッシングやすりごまなど、この店にはない。メニューと同様、シンプルに味わうのだ。この昔気質のスタイルが大将のトンカツに対する姿勢をよく表している。

肉の断面を見れば、とんかつが揚げすぎではないことが一目瞭然だ。薄い衣に綺麗に揚げられたロース肉。これにソースをかけてからしをつけ、口に入れる。噛めば肉の旨味と脂の甘みがじわーっと広がる。美味い。ここでご飯を食べるのもいいが、私はキャベツだ。薄く切られたスライスに醤油を適量かけ、よく馴染ませてから放り込めば、口の中がさっぱりする。キャベツととんかつは、どうしてこんなにも相性がいいのだろうか。

食べ過ぎないよう、肉→キャベツ→肉→キャベツ→ご飯というローテーションで食事を進める。もちろん、キャベツはお代わりだ。お母さんが持ってきてくれる。ときどき豚汁、そして漬物。この漬物がまた美味い。自家製の浅漬けのように思う。漬物文化不在の沖縄で美味い漬物に出会えた時の嬉しさといったら、たまたま入った居酒屋にプレミアムモルツではなく、モルツの生ビールが置いてあるようなものだ。

一旦、客が引いたように思えたが再び満席。別室も満席。さらに外にも人が並んでいる。客も地元のサラリーマンから、お年寄り、中国人観光客まで幅広い。小さな店だから、昼時はすぐに満席になる。

実は一度だけ、食べに行って財布を忘れたことがある。大将が私のことを覚えていて「何度か食べにきてくれてますよね。」と言ってくれた。名刺を置いて、数ヶ月後に店に行き、二食分を支払った。記憶にある限り、財布を忘れて一人で食事をしたのは、これが最初で最後だ。

人気が出ると食べに行きにくくなるのだが、それでもたまに食べに行きたくなる。いつまでもこの味を続けてほしいものだ。

豚々ジャッキー(食べログ)

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