福来軒 塩チャーシュー麺

北海道札幌市 すすきの駅 福来軒 塩チャーシュー麺

すすきので呑んだ後

すすきののラウンジで事業の二次会があった。その後、滝川市民の相葉氏と二人で飲む。元はと言えば、この店は相葉氏がたまたま見つけた場所だ。60人を同時収容できるラウンジなど、なかなかない。ワンフロア貸切と言うのもなかなか壮観だった。

そして、軽く打ち上げとでも言おうか、クールダウンするかのように、皆が去った店で相葉氏と飲む。先ほどまでの喧騒は静まり、まったりとゆっくりと、女子と会話をしながら酒をたしなむ。炭酸が1本2700円。ボッタクリ価格ではあるが、そもそもが団体料金のために仕方がないと言う。通常であれば炭酸代はいただかないそうだ。

この一年、気がつけば深夜に相葉氏と二人でいることが少なくなかった。本日も同様だ。そしてこの酒飲みが行きつく先はラーメン屋と決まっている。深夜の締め、飲みの後の食事、魅惑のラーメン。しかし翌朝にはその代償を知り、数年後には健康に害を及ぼすだろうと言うリスクなど、酔った脳には考える力もない。ただただスープの香りと麺の食感、そのことで頭がいっぱいになっていた。

現在時刻は深夜11時半。そろそろ引き上げよう。今日は朝5時に美幌を出発して札幌にたどり着いた。長い一日だった。ようやく終わる。相葉氏と店を出ると、私たちの目の前に見えるのはラーメン横丁。左にはラーメンはるか、右には白樺山荘。我々二人は砂に吸い込まれる水のように、紫外線に引き寄せられるマイマイガのようにラーメン横丁に入っていった。

福来軒 すすきの店

さて、何を食べようか。

できるならば、またまだ見ぬ、いや、まだ味わったことがない店のラーメンを食べてみたい。相場氏と二人でラーメン店を物色する。ここはラーメン横丁だ。店は数多くある。だが、どの店も満席だ。深夜にこれほど多くの人間がラーメンを食べる。塩分を摂りすぎている。こうして日本人の食塩摂取量が増加する。血圧が上がる。動脈硬化が進んで、脳卒中や心臓疾患につながる。

まさに現代のアサシン、サイレントキラー高血圧。こいつに取りつかれると、死ぬまでお付き合いすることになる。

ようやく一軒の店を見つけた。福来軒。ここにしましょうよ。相場氏が提案してきた。御意。異議なし。ドアを開けて店に入った。

店内はほぼ満席だ。幸い、すぐに座ることができた。やはりこんな寒い夜は、熱々のラーメンで締めて温まってから家に帰りたいのが人情ってもんだろう。

メニュー

カウンターに座る。さて、どれを食べようか。壁に貼られたメニューを眺める。選択肢はそれほど多くない。

「味噌ラーメン」

相葉氏がおもむろにスタッフに告げた。なんと、すでに心は決まっていたか。不意を突かれた私は、動揺しながら再びメニューと対峙した。

よし、塩ラーメンにしよう。

塩分摂取量を下げている私が、なぜ塩ラーメンを頼むのか。醤油は塩の6分の1、味噌は7.5分の1しか塩分を含まない。どう考えても、塩ラーメンはチョイスするべきではない。だが、酔った頭で浮かんだのは「味噌や醤油よりも塩ラーメンの方が薄味の気がする。」ということである。

どう考えても正常な判断ではない。

この一カ月、塩分を控えに控えた末に、私の中の塩分欲が暴発したのだろうか。私が店主に告げた料理名は塩チャーシュー麺であった。

色紙

ラーメンが来るまで店内を見回す。所狭しと数多くの色紙が貼ってある。レベッカ、アントニオ猪木、三田村邦彦、大黒摩季、美川憲一、大友康平、山本リンダ、玉置浩二、徳光和夫、石野真子…数多くの芸能人もここでラーメンを食べたのであろう。

ビールを飲もうかと思ったが、相葉氏がすでに飲むのを止めていた。5時間も飲んでいたのだ、酒はもういいか。天井を見上げると、混んでるときは席を融通し合うように店主からのお願いが味わいのある字体で記されていた。

味噌ラーメン

先に相葉氏の味噌ラーメンが運ばれてきた。スープから立ち上る香りが食欲を刺激する。ヤバそうだ。写真を撮らせてもらう

塩チャーシュー麺

続いて私のどんぶりが運ばれてきた。ネギの上に鎮座するのは茎わかめ。この店の特徴であろうか。まずはスープを一口飲む。ニンニクが効いて…いや、しょっぱい。ラーメンのスープとはかくも塩気を含んだものであっただろうか。なんだか煮汁を飲んでるようだ。複雑に素材が混じりあったリッチな味わいに潜むニンニクの香り。旨い。美味いのだが、この四分の一の塩分量で十分だ。日本人の舌は大丈夫だろうか。酔っているとはいえ、こんな塩気がきつい液体を摂取していたら、間違いなく病気になる。以前の私はこれを普通においしいと認識していた。美味たることは認める。だが、この塩気はきつすぎる、ヤバすぎる、日本人の健康を害する。店主に再考を促したい。

麺はつるつるとした食感で、スープがよく絡む。なかなかの美味だ。これは箸が止まらない。スープの塩気がきついが、麺とならば食べられる。まるで温かいぶっかけそば、熱かけそばを食べるかのようだ。さすが西山製麺所。変わらぬ味わいである。

チャーシューは薄味で、素材が持つ肉の旨味と香りをしっかりと封じ込めている。スープが濃口なので、薄味のチャーシューと相性がとても良い。しかもこれはチャーシュー麺だ。丼の上には肉が大量に載っている。食べ応えもある。麺と一緒に口に入れれば、なおさら塩気を中和する。チャーシュー麺、この判断だけは間違っていなかったようだ。

札幌パークホテルで開催された、パーティー形式の懇親会では、食べられるものがあまりなかった。一口蕎麦ですらしょっぱくて残してしまった。刺身はわさびだけで食べられるので大歓迎だ。醤油をつけずに食べる刺身が、こんなにもうまいとは、生まれてこの方思ったことがなかった。

そのためにずっと小腹が空いていた。その不満を、鬱積を晴らすかのごとく、私の中の食欲のSSDにストリーミングを流し込みメモリに蓄えていく。これがラーメンだ。だが、札幌でラーメンを食べるなら味噌に限ると、かつて私は自分に何度も言い聞かせていたはずだ。それがどうしてこんなことに。ベロベロに酔って酩酊し記憶が飛び、目が覚めると見知らぬ天井と知らない顔の女が私の隣に裸で寝ていた。あー、どうしよう。なぜこうなった。残念ながら、こんな経験は、妄想したことしかないが、まさしくそんな気分だ。

そうか、私は泥酔し、酩酊した結果、札幌で塩ラーメンを食べているのか。

馬鹿だ。私はダメ人間だ。酒に溺れて正常な判断を失い、己の信条すら無視して、その様が札幌で深夜に食べる塩ラーメンだ。選択肢がブラックラーメンしかない「いそのかつを」であれば理解できる。味噌ラーメンを頼む客は一日に一人いるかいないかだ。もしくは、ここが「塩ラーメン専門店です。」と自己主張していれば、私はそれに従うだろう。

だがこの店は、どう見ても味噌ラーメン一オシだ。相葉氏は味噌ラーメンをうまそうに食べている。

なぜに私は塩ラーメン。しょっぱくてうまいのに、食べるのが嫌になってきたのに、この麺が、チャーシューが、私の中に侵入しようと匂いを振りまいてくる。ああ、塩ラーメンに侵食される。きっとこいつは地球外生命体が送りつけたエイリアンに違いないのだ。おそらく、明日の朝には、私の胃腸の中から肌をぶち破って外に出ていく違いない。

孵化させてはならない。

歩いてホテルに戻り部屋に入ると、私はトイレで1回食べようすべて吐き出した。エリアはトイレの藻屑と大消えた。

これで一安心だ。私の中の異物は摘除された。明日はきっとうまい朝飯が食えるはずだ。

もしも次回食べることがあれば、塩少なめ、塩分控えめ、塩味薄めとダメ元で伝えてみよう。

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