玉屋に行くよ
出張からの帰り、飛行機が那覇空港に着陸し、すべての電子機器が使えるようになり機内モードを解除したところ、妻からメッセージが届いていた。
「玉屋に行くよ。」
玉屋は八重瀬町、旧大里村にある人気の沖縄そば店だ。「あしたの昼は何を食べたい?」と妻に聞かれて「沖縄そば」と答えていたのだった。実家から両親と妹一家(除く旦那)で行くと言う。何度か行ったことがあるので、店の場所はわかる。空港からも遠くなく、自宅からも近い。高速を使えば南風原北インターから数分だ。
わざわざ高速を?と思う方もいるだろう。空港近くの名嘉地インターから南風原北までは無料区間なのだ。その名嘉地と空港を結ぶ小禄道路も事業化されたので、10年以内には空港ターミナルから高速が直結するはずである。
店に着いたのは午後1時前だった。店は住宅地にある。郊外なので駐車場は広いのだが、車でいっぱいで停めるところがない。なんとか一台の空きを見つけると、先に着いていた義父と義妹が手を振っていた。
「よお!出張お疲れ!」
義父が言う。
「相変わらず混んでるねえ。」
などと三人で話しながら食券を買いに並んだ。駐車場がいっぱいなのだから、店内もいっぱいだ。数名が席が空くのを待っている。
何を食べようか?
この店の特徴ははいくつかあるのだが、こども連れが多いのだ。客の半分は子供じゃないかと見まごうくらいだ。お座敷以外にテーブルとカウンター席もあるが、こちらは大人ばかりだ。あまりのファミリー連れの多さに、二人組の観光客がちょっと引いていた。
席が空く前にまずは食券を店員に渡す。
「何にしました?」
義妹が尋ねてきた。
「ミックスだよ」
「やっぱりミックスですよねぇ。」
そう言って義妹が笑った。遅れてきた妻も合流した。私は妻に尋ねた。
「食券、なに買った?」
「テビチにしようかと思ったけど、ミックスにした。」
妻が答えた。それを聞いた義妹がまた言った。
「やっぱりミックスだよね〜」
玉屋のそばは三枚肉そば、ソーキそば、テビチそばがある。そしてソーキも三枚肉も食べたいガチマヤー(食いしん坊)のために三枚肉とソーキの両方が載った「ミックスそば」があるのだ。
「ソーキと三枚肉のどちらにする?」
「両方!」
こんなやり取りができるステキな店なのだ。
ミックスそば
テーブルに案内されて席に着く。各テーブルの上にはフーチバー(ヨモギ)が山盛りになったドンブリが置かれている。これが二つ目の特徴だ。生だから食べられる量には限界があるが、フーチバー食べ放題の店は少数派だ。
スープとかまぼこが入った小さなお椀が出てきた。子ども連れにはこのようなサービスがある。しかも少し冷ましてある。素晴らしい。けいたまの口にお椀を付けるとスープをゴクゴクと飲み始めた。相当美味しいらしい。
続いてミックスそばが運ばれてきた。
これに容赦なくヨモギを載せる。
そして熱いうちにドンブリに沈める。
コーレーグースをいれ、紅生姜を載せる。ここの麺は平打ちの細麺。コシは強くないので小さい子にも食べやすい。スープはあっさり。三枚肉はトロットロ。ソーキはほろほろ。バランスがとれていてうまい。ヨモギの香りと苦味がたまらない。昨夜も少々飲みすぎたのでスープが胃にしみる。ああ、うまい。
けいたまもご満悦だ。ものすごい勢いで麺を食べている。子どもたちはジューシー(炊き込みご飯)も食べている。これまた美味しそうだ。けいたまもガツガツ食べては「あー!」と雄叫びをあげている。美味いか?美味いだろう!パパも美味いよ。
スープを飲み干すと妻と交代。けいたまにそばとジューシーを食べさせる。妻は猫舌で熱いと食べられない。フーチバーだけは熱いうちに大量に投入し、ドンブリをかき混ぜておいた。すっかり歯が生えたけいたまはかまぼこも上手に食いちぎる。三枚肉も美味しそうに食べる。沖縄そばの欠点は野菜がないこと。フーチバーとネギくらいしか入れるものがない。
三家族みんなが満足したところで店を出る。義妹が焦る。
「早く出ないとね。待ってる人の視線が痛い。」
確かに行列は衰えていない。席を開くのをまだかまだかとじーっと見ている人たちがいた。
外に出ると駐車場は相変わらず満車だ。美味しいだけでなく、子ども連れで安心して食べに来られることも人気の秘密なのだろう。同じ年ごろの子どもを連れてきた知り合いがいたらこの店に連れてくるといいだろう。
こうして三家族は次の目的地のくがに市場に向かったのだった。
数年前に五十路となったバツイチ男性。昨日は沖縄、今日は北海道、明日は四国…出張三昧の日々、三年間で制覇した店は千店舗を超えた。日本全国及び海外での食事を記録したブログである。五十路とは本来「五十歳」を意味するが、現代社会では「50代」と誤った認識が定着している。それにあやかりブログのタイトルを名付けた。(詳しく読む…)