グリルハンター
新橋駅前。猥雑さと下町風情にサラリーマンの哀愁が漂う酔っ払いの聖地だ。なので、飲み屋と風俗店は事欠かない。平日ならば選択肢も豊富である。しかし、今日は日曜日。しかも夜。私は飲みたいわけではない。新橋で一人飲みなんて、絶対に面倒くさい。
飲み屋を除外すると選択肢は限られる。
- てんや
- 松屋
- ラーメン
- うどん
- 立ち食い蕎麦
- 肉めし
- かつ家
ほとんどがチェーン店だ。もしくは日本伝統のファストフードである。
和食以外が食べたい。
中華料理店もいくつかあるが、なんだか食指が動かない。回転寿司も要らぬ。大半が休みだとは言え、これだけ店があるにもかかわらず、私の胃を刺激する店がないのはなぜなのだ。新橋よ、うぬの力はその程度か?!
そんな私の前に現れた、とりわけ目を引く看板。吉本芸人さん御用達。なんだか微妙な表現だが、売れない芸人がよく食べに来る、つまり安くて旨いとでも言いたいのであろうか。店は地下だ。ふむ、探検してみるか。
奥にはスパゲッティ店、手前がグリルハンター。細い通路に店が二軒。所狭しと張り付けられている印刷物。まさにダンジョン、地下迷宮。新橋のはらわたを覗いてるかのようだ。
ここは恐らく最下層の地下二階だ。ダンジョンと言えば暗い石のトンネルがお決まりだが、似つかわしくない派手な印刷物が、まるで関西のおばちゃんの派手な服装に見えてくる。いや、沖縄でよく見かける、US牛メインのステーキ店のようなデザインでもある。いずれにしろ、静かで狭いごちゃごちゃした迷宮とのアンバランスが異常だ。
メニュー
店内に入ると奥のカウンター席を案内された。狭い。チェーン店かと思っていたのだが、店員は外国人だ。しかもバイトと言う感じではない。おそらくインドかネパールあたりではないだろうか。外国人が経営している店のようだ。
さて、何を食べようか。
手ごねハンバーグステーキに惹かれて店に入ったのだが、改めてメニューを見てみると、特製タレのからあげとハンター焼きが気になる。チャンピオン受賞、おすすめナンバー1と書いてあるが、なんのチャンピオンなのかも気になる。にらんだ通り、インド、ネパール系の外国人が経営する店のようだ。これは肉料理が美味そうである。ならば、こいつを食べようじゃないか。
試しにネットで「グリルハンター チャンピオン」で検索しても、受賞したという記録は一切みつからなかった。自称チャンピオンらしい。日本人にはできない芸当だ。
明らかにMS-Wordで制作したであろう油跳ね防止の紙を事前に査読するように告げられる。
特製タレのからあげとハンター焼き
正しい食べ方を一読し終えたころに、じゅーじゅーという音と芳ばしい肉と醤油が焦げる匂いとともに、鉄板が運ばれてきた。立ち上るあつあつの湯気とともに激しく跳ねる油を、紙で抑え込む。
ハンター焼きはニンニクの効いた塩ダレの玉ねぎビーフ炒め。薄味の人はこのままでうまいはず。パスタと絡めて焼うどんのように食べる。せっかくなので醤油を垂らす。香りが広がり食欲をそそる、このまま食べても美味い、ご飯と食べても美味い。ツルツルで滑らかなパスタだからこそ、箸で食べることができる。
美味いのだが、似たようなものをどこかで食べた気がする。そうだ、福岡空港だ。天神のビーフバター焼きだ。あちらの方がトッピング豊かで味わいも楽しめた気がする。店構えもメニューもカフェ飯と言うか女子を狙った料理であった。対してこちらは質実剛健、味よりボリューム…でもないか。シンプルイズベストを体現したような料理である。隣のテーブルでは中国人女性数名がハンター焼きを楽しんでいる。
そうか、ビーフバター焼きとの大きな違いは、ライスだ。あのときもライスが食べたかったが、おしゃれなカフェで炭水化物ON炭水化物はご法度なのだろう。法度汁なのだろう。その夢がかなう、男性や大食いの味方がまさにここなのだ。地下迷宮の奥深く、最下層に位置する肉と炭水化物の殿堂なのである。
唐揚げはレモンを絞る。柔らかくてスパイシーだ。日本人が作るのとは味が異なる。複雑で豊かなアジアの香りがする。きっと好みが分かれるところだろう。基本的に日本人はスパイスが苦手だ。和食に使う調味料や香辛料が他国の料理に比べて少ないのが特徴だ。逆に言えば、余計なものを加えずに、できるだけ素材の味を引き出すのが和食の真骨頂だからである。その真逆の料理がハンター焼きであり、特製唐揚げなのだ。
少し物足りない気もするが、まあいいか。ハンター焼きはグラム売りもしていた。次回は手ごねハンバーグに挑戦したい。
数年前に五十路となったバツイチ男性。昨日は沖縄、今日は北海道、明日は四国…出張三昧の日々、三年間で制覇した店は千店舗を超えた。日本全国及び海外での食事を記録したブログである。五十路とは本来「五十歳」を意味するが、現代社会では「50代」と誤った認識が定着している。それにあやかりブログのタイトルを名付けた。(詳しく読む…)