仙台名物
仙台の美味い物、と聞いて何を思い浮かべるだろうか。牛タン、これが圧倒的だろう。神田?それはご当地を中心に展開する立ち食いそばだ。マニアックすぎる。あとは…ない。つまり、牛タンを外しただけで、仙台で食べるものがかなり限定されてしまうのだ。
所用があって仙台支店に立ち寄ったので、せっかくだから社員とランチを食べに行くことになった。
さて、何を食べようか。
ネットで検索してもピンとこない。会社は国分町の近くなので、歩けば店が見つかるだろうと軽い気持ちで会社を出た。
その判断が間違いだと気づくのにさほど時間はかからなかった。
定禅寺通りを歩く。仙台まで来てラーメン二郎を食べようとは思わない。右に曲がり、国分町に入る。
なんだこれは?
開いているのはラーメン屋ばかり、いや、ほとんどラーメン屋ではないか。深夜と同じ光景が、この真昼の太陽の下で繰り広げられるとは、だれが想像しえたであろうか。
これが仙台なのか?
国分町ランチの罠
メインストリートを歩く。ランチを済ませただろうサラリーマンらしき人々が通りを行き交う。ゴーゴーカレー、王将、松屋にマクド。ここはファストフード祭りか?サラリーマン向けの店しか見当たらない。せっかくの仙台だ。ゆっくりとゆったりとランチを楽しみたいという私の願いは、それほど贅沢なものなのだろうか。
牛タンを食べていれば、こんな思いはせずに済んだだろう。だが、それは封印したのだ。いまさら後戻りはできないのだ。今の我々はそう、波動砲なしで戦う宇宙戦艦ヤマトと何ら変わりはないのだ。
あるもので済ます、やりくりする。それしかない。メインストリートはあきらめて、再び路地を入る。昼間の国分町を歩く人はわずかだ。目の前に日本そば店。
うーん。
あれ?「さくさく天ぷら」と書かれたのぼりが目に入った。ふらふらっと、岩場の陰から釣り針に食いついた泳げたいやきくんのごとく、いや、超磁性フェライトでガミラス星に引き込まれた宇宙戦艦ヤマトのように、私はのぼりに近づいた。そこで目にしたものは青いイスカンダル星ではなく、地下のダンジョンへと続く階段であった。
ダンジョン飯
入口のランチメニューはどれも800円。本日の日替わりである海鮮丼も800円。ずいぶんとリーズナブルではないだろうか。私と社員は意を決して地下ダンジョンへと入ることにした。階段を降りると、そこには古き良き昭和の香りが漂う、まさに時間断層とも言えそうなたたずまいの店があった。
年季の入った、スナック風の居酒屋だ。おそらく居抜きで借りたのではないだろうか。掲示された表彰状には平成20年とある。我々は奥のテーブル席に案内された。改めてランチメニューを見る。
店内客も昭和生まれがほとんどだ。私よりも一回り以上、上の方々で占められている。一方、同行の社員は平成生まれだ。
さて、何を食べようか。
周囲を見回すと、多くの客はとんかつ定食、もしくは海鮮丼を食べている。それ以外の選択肢はなさそうだ。
正直に言おう。海鮮ととんかつ、どちらも食べたい。社員に聞くと、同じ意見だという。ならば、とんかつと刺身定食を頼んでシェアすれば問題は解決できるだろう。私の提案に社員も同意した。では、そういうことで、オーダーよろしく。
萌乃(もえぎの)とんかつと刺身
10分ほどで定食が運ばれてきた。刺身はカンパチ、マグロ、しめ鯖にボタンエビ。どれも美味いのだが、特にしめ鯖が私好みのごく浅で美味。一尾しかないエビは社員にあげたので分からない。東京ではこの値段で食べることは難しいだろう。お吸い物は出汁が独特だ。カツオよりも癖のある力強い香り。なんだろうか?
とんかつは特筆ものだ。たっぷりのみずみずしい野菜。カラッと揚がったとんかつが食べられるようにと、金網の上に置かれたサクサクのとんかつは、肉の厚みがすごい。いいロース肉を使っている。これが800円なのだ。とんかつ専門店に勝るとも劣らない、キャベツの千切りではないが、彩りと種類豊かな、みずみずしい野菜のオンパレードである。別注文のサラダがついているのと変わらない。
客の多くが注文するのも道理である。
ボリュームは少し控えめ。店の客層を見れば一目瞭然である。試してはいないが、おそらくごはんのお代わりは無料であろう。刺身は少し物足りない。とんかつは十分なボリュームだ。柔らかく、ロース肉のうまみを、脂の甘みをしっかりと堪能できる一品なのだ。
会社の近く、昭和のダンジョンにたたずむ居酒屋。次回こそは一人でとんかつランチを…いや、ぜひとも夜に来てみたい。仙台の魅力的な食に出会えそうな気がする。帰り際、ドアの脇のホワイトボードが気になって仕方なかった。
次回はランチでクジラもありだな。
数年前に五十路となったバツイチ男性。昨日は沖縄、今日は北海道、明日は四国…出張三昧の日々、三年間で制覇した店は千店舗を超えた。日本全国及び海外での食事を記録したブログである。五十路とは本来「五十歳」を意味するが、現代社会では「50代」と誤った認識が定着している。それにあやかりブログのタイトルを名付けた。(詳しく読む…)