刺身盛合せ

宮城県仙台市国分町 与五郎寿司 東北の海の幸

仙台ディナー

明日の会議に備えて、前日に仙台に入ることにした。当日に、沖縄から仙台まで向かうのは、羽田まで行き新幹線乗り換えとなるので、面倒だ。沖縄から仙台まで直行便が飛んでいる。しかし仙台着は17時ごろ。仙台の市内のホテルに着くのは18時である。昼から開始の会議には間に合わない。昨日、台湾から帰ってきたばかりだ。自宅に一泊し、朝は子どもたちを保育園まで送り届け、午後は仙台に向かう。自宅に二泊したのちに、朝一の飛行機で羽田経由東京乗換の新幹線も考えたのだが、フライトが満席であった。自宅で家族と過ごしたかったのだが、台湾出張の疲れもある。今宵は一人、ホテルでのんびりと英気を養おう。一人で寿司でもつまんで軽く飲んで寝よう。そんなことを考えていた。

私と同じように遠方から明日の会議に参加する人物がいた。香川県坂出市より仙台に来る男性だ。彼が今晩一緒に食事ができる人はいないかと、50人ほどに尋ねていたが、反応したのは残念ながら私一人だけであった。ならば二人で寿司でも食おうと言うことになり、駅前で一人静かに寿司を食べるプランが、国分町でオヤジ二人が三陸の海の幸を味わうプランに変更となったのだ。

問題ない。

仙台には仲の良い知人がいる。彼は日本人らしからぬ風貌が特徴で、タイ人によく間違えられるらしい。実際、タイ国領事館の職員から、故郷(おくに)はどちらですかと真顔で尋ねられたそうだ。彼に国分町のオススメの店を尋ねる。見かけは東南アジア系そのものでも、血統上は純粋な日本人である。彼がお薦めの飲食店なら間違いがない。確かである。そこだけは今までの実績が物語っているので、安心して私も店選びを彼にゆだねることができるのだ。

送られてきたのは3つほどの店のリストだった。そのうちの1つをセレクト。夕方に予約を入れた。

与五郎寿司

常禅寺通りからオイルショックを過ぎたところ、稲荷小路を入って50メートルほどの右側に、落ち着いた佇まいの寿司屋を見つけた、これが本日の会場である。

店頭に設置されているメニューを一読する。鮨屋なので、ご飯ものばかりである。各ハイボールがあることに安心する。

扉を開けて店に入った。

店内

店内は左側に半個室のテーブル席、奥に右手がカウンター席となっている。明るくて清潔感のある内装だ。

予約しておいたテーブル席に案内される。壁には店頭メニューにはない料理が掲示されていた。お薦めの三海宝、トリプルハーモニーが気になってしょうがない。

本日のおすすめをチェックする。魅力的な料理が並ぶ。

ふーむ。さて、なにを食べようか。おすすめからセレクトだな。まずは生ビールに、シメサバ、スズキ、あん肝、たらきく酢かな。たらきく(鱈菊)酢は北海道なら「真たちポン酢」と呼ぶのである。真タラの白子だ。

清潔感あふれるカウンター席での食事もまた魅力的である。店を訪れたときに食事をしていた客は観光に来ていたのか、帰りの電車があるからと帰ってしまった。

注文したのが魚ばかりなので、野菜が食べたいと店主に尋ねる。カルパッチョはどうですかと言う。なぜにカルパッチョ?付け合わせが野菜なのだとのことだ。

なるほど。

それを言えば、刺身のツマだって大差ない。匠の店ならば、大根のかつら剥きを細く刻んだ、透明感あふれたキラキラに輝く白いツマが刺身に添えられているだろうと勝手に想像する。そいつをサラダにできないかと店主に尋ねてから気が付いた。なんだ、刺身とツマを食べればいいだけではないか。自分の発言を取り消し、しばし連れが到着するの待つ。

数分後、ようやく連れが到着したので、とりあえずビールで乾杯である。そこに一斉に料理が出てきた。スズキと〆鯖の刺身。たらきく酢は少し小ぶりだが見た目にも美味そうだ。美味なるあん肝と言うのはなかなか食べる機会がないが、こいつはどうだろうか。

料理

刺身

まずは刺身をいただく。シメサバ。見た目にも浅く締めてあるのが私好みなのだ。わさびだけをつけて食べる。そう、減塩中の私に醤油は禁止なのだ。脂がのってうまい。ほのかな塩味もいい。わさびだけで刺身を食べるようになってから、魚自体の味と旨味を敏感に感じられるようになった気がする。その分、鮮度が悪いと、それも増幅して感じてしまうのが欠点とも言える。

スズキもうまい。まったく臭みがなく、ほどよく脂がのった身から甘みがじわっと出てくる。もちろんわさびだけだ。以前ならポン酢か醤油をつけて食べていただろう。もしも自宅のように醤油スプレーがあれば、醤油をかけないこともない。

あん肝

小ぶりだが味は非常に上品だ。以前ならば、もみじおろしをポン酢に溶いて食べていた。しかしポン酢のついた部分は連れに任せて、私はなるべくそのままでいただくことにする。この料理は、やもするとコクが強すぎたり、脂がのりすぎたりして、非常に自己主張の強くなる。それを消すために、ポン酢や薬味を使用するのだろうが、この小ぶりなあん肝は脂ののりもコクもほどよい。非常に上品な味わいだ。薬味もポン酢も不要。素材から悪いところを取り除き、長所だけをうまく生かした、まさに職人の技。純米の日本酒と合わせれば、が素晴らしいマリアージュを醸し出すではないか。

たらきく酢

こちらもまたポン酢があまり付着していない部位をいただく。小ぶりだが味は十分にクリーミーで濃厚。臭みえぐみも苦味もない。コクのある豊潤な甘みとクリーミーな舌触りしか感じない。これにポン酢を加えれば味わいが広がるのだろうが、今の私は素材の味そのものを楽しむよう心掛けている。塩分を控えるように戒めている。なにも足さない、なにも引かない、これで十分に美味いではないか。過去の自分に、なぜポン酢や薬味をつけて食べていたのか、自問自答したくなる。

うに

黄金色に輝く雲丹と付け合わせの焼き海苔。巻いて食べろと言うことか。確かにそれもありだが、私は純粋にウニを味わいたい。堪能したい。海苔は別個にいただくことにする。ウニを箸で取り、少量のわさびをのせる。なんだか身がしっかりしている。口に運ぶ。

うん?

クリームチーズのような食感に違和感を覚えた。これは、おそらく蒸しているのではないだろうか。ウニの味を濃縮するために焼いたり蒸したりする、いわゆる焼きウニ、蒸しウニである。それはそれで好きなのだが、それならば個人的には温かい方が好みである。温度が人肌に近い方が、旨味をしっかりと感じられるのだ。このクリームチーズのようなウニも悪くはないが、柔らかいとろけるような食感を期待していた私にはそぐわない。残念だ。

正直、海苔はうまかった。さすが鮨屋である。

カキフライ

牡蠣はどんな食べ方があるのか、店主に聞いてみる。

「うちは牡蠣を扱ってないです。」

残念な答えだ。しかしおすすめにカキフライがあるではないか。店主が言った。

「カキフライならあります。」

何も生牡蠣が食べたいわけではない、カキフライが食べたかったのだ。もしも焼き牡蠣や蒸し牡蠣など、カキの食感よりも風味を楽しめる逸品があれば食べてみたかっただけだ。

カラっと揚がった衣の中には小粒の牡蠣。食べればクリーミー、口内で旨味を放出しながら崩壊していく。衣にも油にも負けない濃厚な味わいが冬の贅沢を感じさせてくれる。ソースをつけるのはためらうが、タルタルソースならば遠慮はしない。マヨネーズが含む塩分は大さじ1でわずか0.1g、駅前のメインストリートはわずか数百メートル。減塩主義の私には欠かせない調味料なのだ。

軍艦にぎり 三海宝

ついに締めだ。店に入って、写真を見た時からこいつと決めていたマミちゃん、ではなく三海宝。どこの店だ?ウニとイクラのコラボ、コンビネーション、豪華共演、三陸の海の宝。まさに宝石箱。こいつを食べると、腹の中で密かに企んでいたのだ。いや、実は連れも同じ思考回路であった。一緒に食いますか。ちょうど一人前は二貫だ。一人一貫で必要十分である。

我々の眼前に差し出された軍艦巻き。キラキラと輝くいくらとウニとマグロ。朱色とピンクとオレンジのコントラストが美しい。土台の海苔がキリッと色も味もまとめている。シャリが見えない。おもむろに指でつかみ、一気に口の中に放り込む。奥歯で噛み潰す。弾けるいくら、とろけるマグロ、消えゆく雲丹、混じりあう海苔とシャリ。個性のあるネタと自己主張控えめの素材が口の中でミキシングされ、三陸の海の宝が放つハーモニーをまとめ上げる。なんという贅沢だ。沖縄でも似たようなものは食べられるが、本物を食すことは非常に困難だ。だが、三陸地域ではごく当たり前のように味わうことができる。リアス式海岸、万歳。

ああ、幸せだ。昨日までは中華三昧の日々だった。今日明日は和食三昧だ。南東北を食べ尽くそうではないか。と言いたいが、仕事できたのである。観光ではない。まあ、楽しめる範囲で三陸の冬の味覚を満喫しよう。

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