佐賀市 楊柳亭
佐賀市の味と歴史を視察するツアーに参加することになった。歴史ある料亭でのランチの後に、佐賀維新祭なるものを見に行くようだ。バスから降りて、ずらずらとスーツ姿のおっさん達が由緒ある建物に吸い込まれ、会場である大広間へと通されたのだった。
すごい。
全員が席に着くと店主が現れた。挨拶とともにこの店、楊柳亭の歴史を語り始めた。開店して実に百三十六年目。元々は新川崎屋と言う名前であった。佐賀県は明治七年に起きた佐賀の乱により、明治九年に消滅した。その後、復権運動により明治十六年に復活した。当時、店の前に柳がたくさん生えていたことにちなんで、この名前となったそうだ。
なるほど、壁に飾ってある屏風は、まさにこの店名の由来を描いたものなのか。
会席料理
挨拶が終わると、早速、乾杯だ。昼酒だ。これは来るぞ。世の中には朝からビールを飲む人や、昼から焼酎を飲む人がいる。否定はしないが、私は苦手だ。呑み始めたらそこそこ飲まないと気が済まないし、そのあとは眠らなければ体が持たない。しかし、ここはミシュラン二つ星の名店だ。さあ、味合わせてもらおうか、佐賀の会席料理とやらを。
先付
法蓮草菊花椎茸浸し。ほうれん草の舌触りが滑らかだ。菊の香りもいい。上品な味。いきなり日本酒が進む。沖縄では菊の花がめったに売っていないので、食べられると嬉しくなる。子供のころ、父の実家に預けられていた時に、祖母が好きでよく食べていた。最初はおいしいと思わなかったが、祖母に付き合っているうちに、なんだかクセになった。
造り
ひらすと鯛。ひらすとはヒラマサのこと。うん、きめ細かくて滑らか。脂ののりもほどほど。鯛もいい。食べる前に写真を撮るのを忘れてしまった。
吸物
枝豆真蒸となめこ。柚子の香りが匂い立つ。なめこの香りもまた素晴らしい。食感で食べるキノコで、香りまで楽しめるのは初めての経験かもしれない。味付けもダシが効いた上品な味だ。滋養深い吸い物の美味うまさに、真蒸の味が霞んでしまう。まさに脇役がベテラン過ぎて、若手の主役の印象が薄いような感じだ。
汁を飲み干す時にゆず皮を噛んでしまった。
苦い。
柚子は香りだけ楽しむものなのだと再認識。
蓋物
蓮根饅頭 茄子 人参 いんげん。蓮根まんじゅうは、ほんのり甘くて、ほろほろと口の中でくずれていく。美味い。インゲンも薄口の上品な味。たっぷりと出汁を含んだナスには、揚げ茄子のような油の甘みがあるのに繊細で、ナスの味もしっかりと味わえる。美味い。どうやって作ったのだろうか。丁寧かつ上品な出汁の味がぎゅっと濃縮された、このあんかけが秘密なのか。
替皿
豚バラ八幡巻 トマト ブロッコリー デトロイト。今までに食べた八幡巻とはまったく違う。豚の脂と肉の味がギュッと濃縮された、ジューシーな味わいが斬新に感じる。湯むきトマトは甘い。デトロイトはクレソンのことだった。豚肉と相性がいい。肉とクレソンはセットであるべきなのだ。
だが、デトロイトとはベビーリーフのことで、赤い茎が特徴だ。クレソンとの違いは一目瞭然なのだが、どういうことだろうか。
揚物
蟹湯葉揚げ 南京 青唐。まあまあだ。南京とはかぼちゃのことだ。
玉蒸し
コーン餡 鶏 百合根 麩 海老。出汁が効いてる。具も加熱されることで、しっかりと味が濃縮されている。素材の旨みと上品な出汁が相まって、素晴らしい味わいとなる。美味い。
うーん、食事も締めを残すのみで一段落。初めて会う人がほとんどだが、アルコールの力はすごい。会話が盛り上がり、酒が進む進。まだ真昼間だってのに、日本酒をグイグイ飲む強者も少なくない。
食事
ついに締めが配膳された。赤だしのしじみ汁。力強い出汁に香り付けの赤味噌。しじみは味よく、砂はカケラも入っていない。赤しそご飯もじゃことシソの香りが相まって、薄い塩味がコメの旨みを引き出している。これに漬物がすごく合う。薄口の塩気が食材の潜在力を限界まで引き出す。
「ご飯、美味くないですか?」
周りも驚く。美味いですよ。
たらふく食べて、たらふく飲んで、大満足。眠くなりそう。佐賀明治維新博なんて見に行かなくていいから、寝かせてくれよう。
ごちそうさまでした。
この後、佐賀明治維新博にて知られざる幕末の歴史を知ることになり、驚きとともに、さぼらずに見学してよかったと
数年前に五十路となったバツイチ男性。昨日は沖縄、今日は北海道、明日は四国…出張三昧の日々、三年間で制覇した店は千店舗を超えた。日本全国及び海外での食事を記録したブログである。五十路とは本来「五十歳」を意味するが、現代社会では「50代」と誤った認識が定着している。それにあやかりブログのタイトルを名付けた。(詳しく読む…)