秋田県大仙市 大曲駅 和食 花 納豆汁定食

和食 花

昨晩、大曲名物の納豆汁を食べるように地元民から強く指示された私は素直に従うことにした。遅めの朝食だ。一昨日はワイン、昨日は日本酒と、普段とは違う度数の高い酒ばかりを飲んだせいか、体調がイマイチだ。

ホテルの朝食は午前九時まで。現在時刻は九時三分。ゲームセットだ。朝食券は無駄になった。時間が過ぎればただの紙切れだ。世の中はそういうものだ。紙幣ですら、国が破産すれば何の意味も持たなくなる。だから中国人は金、ゴールドを持ちたがる。豪華な食事を約束された朝食券よりも、手元にあるコンビニおにぎりの方がよほど有用なのだ。傷んでなければ食べられる。

過ぎたことを愚痴っても仕方がない。人間は常に前を向いて歩くのだ。つまづいてもつまづいても、立ち上がり続ければいつかはゴールにたどり着く。歩みをやめた瞬間、未来は無くなるのだ。

気持ちを切り替えよう。

外は快晴。素晴らしい天気である。予定は夜までない。そそくさと仕事を済ませたら、昨日、新幹線の車窓から見えた景色に出会いに行くのもいいではないか。時間が経つにつれ、体調も復調の兆しが見えてきた。シャワーを浴びれば気分一新である。

うむ、ならばブランチか遅い朝食なのかは分からないが、納豆汁を食べればいいのだよ。パンがなければケーキを食べればいいのだよ。それだけのことじゃないか、ワトソンくん。

昨晩、地元民からは、駅前のグリーンホテルに併設されていると聞かされた。現在地からはさほど離れていない。ホテルの一階に入口が見えた。11時オープンである。

中に入るとまだ誰も客はいなかった。お好きな席へどうぞとのことである。自分で席を選べるというのは気持ちのいいものだ。誰にも強制されない自由があるのだ。もちろん、それには責任が伴う。自身で選んだ以上、その座席位置が実はトイレの側だったとか、椅子がガタついていたとしても、店側に責任を問うことはできないのだ。慎重に選ぶ。うーん、選ぶ条件が分からないので、適当に座る。

店内は食堂というよりは居酒屋だ。夜はかなり賑わうのだろう。地元客も少なくなさそうだ。

メニュー

壁に納豆汁セットの張り紙を見つける。ハタハタ鮨か。美味そうだ。納豆汁ラーメンはノーコメントだ。納豆汁を食べたことがない身でラーメンを語るなどおこがましい。個人的には「無い」と思うが、地元民の納豆汁ラブが生み出した妄想料理かもしれぬ。

念のためにメニューを見る。「比内地鶏の親子丼セット」「天ぷら稲庭うどんセット」食欲をそそるメニューが立ち並ぶ。たが、これは朝食なのだ。地元民からの命もある。迷ってはならない。納豆汁定食をオーダーした。

納豆汁定食

数分で運ばれてきた、ついにご対面となる謎の料理だ。どんぶりの中で大量の納豆が蠢いているのか、沖縄の味噌汁に入っている大量の島豆腐を納豆に置き換えたものなのか、はたまた納豆がとろとろになるまで煮尽くした汁物なのか。だが、私の視界に入ったそれは、のっぺりした、なんの特徴もない味噌汁である。

いささか拍子抜けである。

まずは一口。ん、思ったほど納豆の香りはしない。薄口の味噌に出汁のきいた優しい味。東北特有の塩っぱさがまったくない。

箸で中をすくってみて驚いた。特筆すべきは具の多さである。なめこ、わらび、豆腐、ネギ、里芋、油揚げ、大根不ぞろいの天然ナメコがうまい。里芋と相まって、全体的になめらかな食感だ。二日酔いの胃に染み込んでいく。お袋の味だ。これは「有り」だ。地元民が勧めるだけのことはある。

続いて小鉢、見た目には何の酢味噌和えなのか分からないが、箸でとってみれば、なんとタラの芽ではないか。天ぷら以外の食べ方は珍しいように思う。酢味噌和えは記憶の限り初めてなのだ。うん、ほのかな苦味が酢味噌とマッチして大人の味だ。天ぷらだとトロトロな食感だが、茹でてあるのでシャキシャキ。意外にご飯とも合う。酒にも合うことこの上なし。自宅で作ってみよう。山菜好きの妻が喜ぶはずである。

山盛りのご飯がうまい。コメはもちろん、水がいいからだろうか。昨晩も思ったが、こちらで食べるいぶりがっこはあまり硬くない。ソフトで普通のたくあんだ。燻製の香りが花を抜ける点のみが異なる。これもまたご飯に合う。炭水化物の摂取を促進する。やめてくれ、年寄りには毒である。だが、止まらない。分かっていてもやめられない。ごめんなさい。

食べて思う。これは朝食だ。納豆汁セットと朝食の違いは、小鉢とデザートの有無だ。小鉢なければ新しい味と出会うこともなかった。デザートはどうでもいいのだが、せっかくなので食べ終えてフィニッシュだ。

完食。美味かった。食べられてよかった。

トイレは店の外、ホテルのロビーにある。温水洗浄便座なのだ。レジの脇にある認定店の証。それがないと美味しくないらしい。

岩手県にも納豆汁が

翌日、岩手県一関市にて宿泊したホテル朝食に納豆汁があった。まったく別物だ。納豆入りけんちん汁でとでも呼ぼうか。具は長ネギに根菜類。ごぼうが特にたくさん入っている。キノコは見当たらない。納豆もつぶしたものではなく、ひきわり納豆であった。

すり鉢で潰すところに母の愛情を感じるのだ。メーカー製のひきわりでは、片手間に作られたように感じてしまうのは、いささかワガママであろうか。

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