ふぐ刺し

岡山県岡山市 柳川駅 割烹 かどや 本店

岡山は今日も雨

「岡山は晴れの国」

岡山県知事も言っているが、嘘だ。私は信じない。もう騙されない。前回、昨年に訪れた岡山は雨だった。それも豪雨だ。新幹線は止まり、高速は通行止め。岡山市内には洪水警報が出されて、夜中に何度も緊急避難警報で起こされた。

四年前に訪れた時は台風襲来で、雨どころか風まで吹き、海側ではやはり緊急避難警報が出されていた。三年前に訪れた時も土砂降りだった。二年前も雨。とにかく、来るたびに雨が降っている。

私は雨男ではない。どちらかと言えば晴れ男だ。あまり雨に悩まされることはない。それがどうだ。岡山に来るたびに悪天候。四年間で七回訪れ、うち五回が雨。そして、今回も雨。土砂降りだ。ホテルから歩いて10分ほどのところにある店に行きたいのだが、歩けばずぶ濡れになる。駅前でタクシーにのり、目的地に向かった。

フグを食べよう

仕事で徳島に来たので、ついでではないが、岡山在住の塩川さんに会うことにした。会って話したいことがあったのだ。彼は岡山でそこそこの会社を経営している。食事は何がいいですかと尋ねられたので、瀬戸内の冬の味覚が食べたいと伝えたところ、今回の店を指定された。彼のことだから有名店を予約したのだろうと思いきや、タクシーのドライバーは知らないと言う。

そうなのか。

Googleマップを頼りに道を説明する。外は相変わらずの雨だ。交差点を曲がり、細い路地に入ると目の前に目的地が現れた。

「ああ、この店ですね!一度、お客さんを乗せたことがあります。先輩にこの店は覚えておけと言われました!」

運転手が少し興奮気味に言った。やっぱり有名店ではないか。車を降り、店の前でメニューを見ていたら、声をかけられた。塩川さんである。同じタイミングで店に着いたらしい。中に入ると、女将さん達と挨拶していた。かなりの馴染みらしい。エレベーターで三階に案内されると、個室に席が用意されていた。

食事後の個室です

おお、フグだ!今シーズン初めてなのだ!私だけ食べて妻に申し訳ないが、しっかりと堪能させていただくのだ。

今回もまた雨ですよね。挨拶がわりに「岡山、晴れの国疑惑」について塩川さんにツッコミを入れた。

「おかしいなあ。」

いや、それ、私のセリフだから。

割烹 かどや 本店

まずはビールで乾杯。さっそく、料理がでてきた。まずはフグ皮ポン酢である。

フグ皮の湯引きはコリコリとした食感に若干の甘み。これに合わせるポン酢も酸味控えめな上品な味だ。ああ、幸せだ。いろんな魚の皮を湯引きにして食べられるが、フグは別格だ。

てっさ。ふぐ刺しだ。西日本ではふぐのことを「鉄砲」と呼ぶ地域がある。

その心は?
どちらも当たれば死にます。

それで鉄砲の刺身を「てっさ」、鉄砲の鍋(ちり)を「てっちり」と呼ぶ。そんなリスクを冒してでも、食べたい衝動が抑えられない。昔からフグにはそれだけの魅力、いや、魔力があったということだ。今ではめったに当たることはないというが、それでも毎年、事故は起きている。そのほとんどが素人によるものである。

このうまさ、私ごときが文章にできるわけがありません。目で食べて、舌で味わう。ああ、至福でござる。

さて、「てっさ」ときたらお次は「てっちり」だ。豪快にさばかれたフグが、鮮度が落ちないように氷の上に鎮座している。こいつを躊躇なく、仲居さんが鍋に投入していく。別盛の野菜も一緒に投入。なんと、鍋の写真が一枚もない。見とれていたのか、食欲に我を忘れたのか。具材が煮立ったいいタイミングで、とんすいに鍋の中身を取り分けてくれた。

ふぐが美味い。野菜もトロトロに煮えている。出汁をたっぷりと吸った葛切りも美味い。個人的に鍋に葛切りは欠かせないと考えている。あの、プルプルとした食感、しっかりと鍋のうまみを吸った味わい。透明で見た目にも涼し気でいて、それでいて内なる情熱にあつあつなのだ。

湯引き、刺身、鍋ときたら次は唐揚げだ。軽くレモンを絞りかけてから食べる。 ああ、淡白なのにコクがある。臭みなど一切ない。 これがフグの実力なのだ。先人たちが、その命を懸けてまで食べ、食文化を確立させた食材なのだ。これまた写真を撮り忘れていたのだ。

何もかもが、美味い。

美味いのはフグだけではないのだ

「フグのほかにもいろいろありますと。岡山のもの食べてくださいよ。」

地元愛あふれる塩川さんがサイドメニューを勧めてくる。岡山と言えばままかりが有名だが、この店ではパスだ。あとは、有名な食材。個人的には鰆(さわら)、シャコ、千屋牛に黄ニラ。魚河岸三代目で岡山と鰆の話を読んでから、食べたくて何度かチャレンジしたのだが、これ!という刺身にはいまだ出会えずじまいだ。なぜだかほとんどが叩きだ。それhそれでうまいのだが、やはり美味い刺身を食べてみたい。シャコは前回食べた。千屋牛も名前だけ自慢されて、岡山市内で食べることがかなわなかったので、雨の件と同じで、まだ騙されているのかと思ったくらいだ。黄ニラも食べた記憶がないような。

まずは、さわら刺身。おお!今まで食べたものと見た目から違う。見た目が美しいピンク色だ。かつて食べた鰆は白っぽい色をしていた。わさび醤油でいただく。脂のっている。自然な脂の甘みだ。これが鰆か…美味い。長崎の壱岐から仕入れた一本釣りの鰆だとのことだ。知ってますよ、魚河岸三代目で読みましたから。

「肉は食べませんか?ステーキもありますよ。」

塩川さんが言う。なに?もしや、それは幻の…

「ええ、千屋牛です。」

キターーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!はい、千屋牛、出ました!マジですか?本当にあるんですね。ぜひ、食べたいです。

眼前に置かれたのは、私好みのミディアムレアで焼かれた、美しいステーキである。もちろん、肉は柔らかく、口に広がる脂の甘みと香りがたまらない。しかも、千屋牛は脂がさっぱりしている。きちんとコクがあるのに、後を引かない。だから冷めても美味い。上野牛と村上牛のいいとこどりをしたような肉である。

これは美味い。岡山県民が自慢するだけある。まさにB級グルメのホルモンうどんの対局の究極に位置する食材だ。

そして黄ニラ。繊細な香りと柔らかい食感。照りつける太陽の下でワイルドに育った、緑色のニラとは違う、紫外線を避けて大事に育てられた黄ニラは、まさに深窓の令嬢のごとし。これを餃子にして食べても美味しいのだ。にら玉餃子。中国では一般的な餃子である。先日、福島で久しぶりに食べた

最後は雑炊で締めだ。またもや写真を撮るのを忘れた。それほどまでにフグは美味い。沖縄では食べることがかなわぬ食材だ。仕入れられればいいというわけではない、調理には免許が必要なのだ。調べてみると、数年前から沖縄にもフグ料理店が数件オープンしていた。ひとつは大阪のチェーン店だ。今度、家族で食べに行ってみよう。

塩川さん、ごちそうさまでした。


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