わらぐちそば

山形県尾花沢市 わらぐちそば つけめんかもそば

山形蕎麦が食べたい

山形県新庄市を訪れている。山形と言えば蕎麦だ。だが、個人的に山形そばとは相性がよくない。江戸の二八蕎麦を食べて育った私には田舎蕎麦の良さが理解できない。黒くて太くて暴力的で粗野で、香りが強ければいいってもんじゃないだろうと、田舎蕎麦ファンに刺されそうだが、食いもんは嗜好品だから仕方がない。パクチー嫌いの人にいくらパクチーの良さを説いても、拒絶されるばかりで理解されない。同じことだ。

朝から式典に出席の予定だったが、なんだか熱っぽい。だるい。昨晩は一人部屋呑みだったので早く寝たし、飲み過ぎはあり得ない。気温差による体調不良だろうか。仕方がないので式典を欠席して休養することにした。

目覚めると10時半。腹が減った。体調はだいぶ良くなった。疲れていたのだろうか。食欲も回復していた。夜まで予定がないので、ランチを食べてついでに近くを観光することに決めた。ネットで検索すると、風変わりな蕎麦を出す店があると言うので、さっそく車を走らせた。国道13号線を南下し、尾花沢市毒沢のあたりで県道187号線に入る。

毒沢。

凄まじい地名である。調べてみると「どく」は「曲がりくねった」という意味であるらしい。確かにこの辺りは最上川が蛇行している。両脇に草木が生い茂る山道だ。

この先に店などあるのだろうか。不安になってくる。道を進むと右手に最上川が見えてきた。その先で県道30号線に入る。

わらぐちそば

一抹の不安を抱えながら車を走らせる。これだ。田んぼに囲まれるように店はあった。

車を止めると茅葺き屋根の店に向かった。

玄関を開けると土間だ。古民家を利用しているのだろう。藁靴と何かが柱にかかっている。現役の道具なのだろうか。

清潔な蕎麦打ち室だ。ここだけが近代的な作りになっている。

店内は大きな広間がいくつかくっついた感じである。開店直後だからなのか、客は誰もいない。店主の家族であろう子どもがひとり、足を組んでテレビを見ていた。飲食店と言うよりは、田舎の親戚の家を訪れたような感覚に陥る。

さて、何を食べようか。メニューを見る。冷たい蕎麦が三種類、温かい蕎麦も三種類。もちろん、冷たい蕎麦を食べるに決まっている。もりかつけめんかと問われれば、やはりつけめんだろう。朝食も食べていないので、かなり空腹だ。がっつり食べたいので、つけめんかもそばを大盛りにした。

鍋と付け合わせ

付け合わせの天ぷらと漬物が運ばれてきた。漬物は自家製のようである。都会の蕎麦屋は、蕎麦と薬味しかださないが、地方の蕎麦屋ではいろいろと付属していることが珍しくない。自然が豊かで野菜の産地ともなれば、地元産の食材を生かした付け合わせを出すのは当然なのかもしれない。蕎麦だけでは野菜が食べられぬ。鴨つけ汁だけでは野菜が不足する。栄養バランスが悪い。自宅で作るときは、ホウレン草やインゲン、三つ葉などの野菜をたっぷりと入れたりする。自家製の漬物もある。天ぷらがデフォルトで付いているのは、個人的に高ポイントである。

だが、ここでは漬物に手を出さない。すべてがそろうまでじっと待つのだ。静かだ。部屋にはニュース番組の音声が響くだけ。気にはならない。山形のローカル情報を教えてくれるからいいのだ。

今度は鍋が運ばれてきた。熱いので気を付けてくださいとアドバイスされる。

蓋を取ると、シンプルな鴨つけ汁が現れた。鴨肉しか入っていない。鉄板の組み合わせである「鴨葱」すら否定し、徹底的に無駄を排除したつけ汁だ。鴨肉のみをひたすら味わうだけの調理法だ。つけ汁が冷めないように鍋焼きにしてあるのだろう。ラーメンのつけ麺だと、冷めたときの再加熱用に電子レンジが大量に置いてある店もあった。

つけめんかもそば 大盛り

大きな板に載せられた蕎麦が運ばれてきた。これで勢ぞろいである。

真っ白な蕎麦は白くて太い。見た目にインパクトがすごい。太くて白い麺と言えば「うどん」だ。蕎麦のようなうどんもあったが、うどんのような蕎麦もあるのだな。日本は広い。

熱々の鍋からレンゲで鴨汁を小椀にそそぐ。甘辛のバランスの取れたつゆに白い蕎麦をしっかりとつけて食べる。これだけ太いと、つけ汁にしっかり浸さなければ、つゆと鴨肉の旨みが味わえぬ。うーむ、コシがすごい。乱切りなので、細いのから太いのまで麺のバリエーションが豊富である。喉越しも良い。これだけ太くてしっかりしていれば、釜揚げ蕎麦でも鍋焼きそばでもいけるのではないか。

まあ、刀削麺のような気がしないでもないのだが…

漬物である。白ナスは辛子漬、後味に刺激のある辛味が長く残る。対してきゅうりは甘い。紫色が美しいナス漬けは、素材の魅力を十分に引き出しているのだが、私には少し塩っぱい。

天ぷらはゴーヤーとナス。あげおきで冷たいが問題ない。

つけ汁鍋の効能

鴨肉は硬くない。噛むたびに旨味が滲み出てくる。そばつゆに合うわけだ。大盛りは失敗だったか。ボリュームがすごい。板はA4用紙よりも大きいのだ。

小椀のつけ汁が冷たくなってしまった。問題ない。鍋の方はまだ温かい。蕎麦を切り替える。とにかく量が多い。食べ切れるだろうか。がんばれ、俺。こんな蕎麦はそうそう食べられるものではない。白い蕎麦は好物だろう。自分自身で叱咤激励しながら、どうにかすべてを食べ終えた。

締めの蕎麦湯。私が最初の客だ。まだ湯が育っていないためだろう、蕎麦の香りが弱い。だがいいのだ。貸切気分でまったりと食事ができた。田舎の雰囲気を満喫できた。そう、食事だけではない、この雰囲気を体験しながらそばを食せたことが嬉しいのだ。これで千円である。安すぎだろう!

いつか家族で訪れたい。ここならけいたまとゆうたまが走り回っても、のんびりと食事ができそうだ。もちろん、客が少ない時間帯に来るのが前提である。家族連れは大変なのだ。

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