新潟駅 蕎麦 五常 海鮮かき揚げせいろ

新潟の朝食

新潟といえばへぎ蕎麦である。笹団子もあるが、個人的には栃尾の油揚げである。他にも色々とコンテンツを持つ県ではあるが、私の中で一押しはへぎ蕎麦だ。だからこそ、新潟に来てへぎ蕎麦を食べずして帰るというのは、私にとって許され難いことである。むしろ義務と言っても差し支えない。

昨晩は以前も訪れたビストロ椿で食事会であった。なかなかうまい店なのだが、洋食である。カルパッチョにグリル、アクアパッツァにステーキ、締めはパスタ。いずれも美味いのだが、これではへぎ蕎麦を食べることができない。前回は締めで訪れたうどん店でへぎ蕎麦を食べたのだが、今回は食べずに帰った。

さて、どうしたものか。

明日、ランチにへぎ蕎麦を食べるしかないのだなとやった頭で考えつつ、眠ったように思う。朝は二日酔いもなく、スッキリとしていた。ただ、なんとなく胃が重い感じがしたので、少し休ませようと軽く食べるだけにした。ホテルのバイキングだ。好きなものだけ少しることが可能だ。そして、メニューにはへぎ蕎麦も大好きな栃尾揚げも含まれていたのだった。

食べるべし。

ご飯を避けて、ひとつかみのへぎ蕎麦と一切れの栃尾揚げ。もっと伸びているかと思いきや、さすがふのりパワー、しっかりとした蕎麦を味わうことができた。揚げも同様だ。

ノルマは果たした。ならば、昼はへぎ蕎麦にこだわらずとも、好きな蕎麦を食べればいいだけだ。蕎麦だけは譲れないのだ。

蕎麦 五常

ホテルからタクシーで新潟駅に向かうと、コインロッカーに預けた。工事中の新潟駅はバリアフリーとはとても言えない、ひどい作りだ。

さて、どこで食べようか。

ネットで近くの蕎麦店を検索する。ほう、この店がいいかもしれぬ。十割そばは好きではないが、画像に映っているのは、透明感あふれる細い蕎麦だ。これは食べてみたい。珍しく二八蕎麦ではない店に足を向けたのだった。

店名の五常とは、儒教で言うところの「仁・義・礼・智・信」の五つの徳を指す。店名に込めた意味からも、この店の蕎麦への意気込み、リスペクトが推し量れると言えよう。

現着したのはいいが、まだ準備中である。十一時半開店なので仕方がない。周辺を索敵してみる。この辺りは飲食店街らしい。新しい店がいくつもある。開店までの数分をふらふらと徘徊して待つ。開店までのあと2分。腹も減った。早めのランチを予想して、朝飯は軽く済ませたからだ。まだか、まだなのか。頬にあたる冷たい風が心地よい。

時間だ。店の中から若い、キリッとしたヤンキー風の若者が出てきた。暖簾をかけ、メニューをセットし、札を営業中に変えた。

「どうぞ。」

礼儀正しく店内に案内された。身だしなみもしっかりしている。動作もきびきびしている。店に入るとカウンター席に案内された。見た目と仕事ぶりのギャップに戸惑う。

メニュー

さて、せいろそば かき揚げ丼セットにするか、海鮮かき揚げせいろにするか悩むところだ。ガッツリと丼物を食べたい気持ちもあるが、蕎麦と天ぷらのコンビネーションを楽しみたい私もいる。

さあ、どっちだ?!

うーん

海鮮かき揚げせいろなのだ。

熱いそば茶が美味い。緑茶もいいのだが、私が好きなのはほうじ茶、番茶、麦茶にプーアル茶、ルイボス茶等々、茶色いお茶ばかりだ。そば茶は黄色いが好みである。

店内に客は私一人だ。BGMは静かな洋楽、女性のボーカルが耳に心地いい、まるでバーだ。シックで落ち着いた内装、心休まる木目調のテーブル、静謐な空気が漂う店内。ああ、蕎麦はまだか。

海鮮かき揚げせいろ

数分後、先ほどの若い男性が盆に載せた蕎麦と天ぷらを運んできた。キラキラに輝く、透明感あふれる十割そばは見た目にも美しい。少し緑がかった、細く短めに切りそろえられている。箸で蕎麦をつかみ、かえしに少々つけて口に運ぶ。

ああ。

冷たくてひんやりとして気持ちがいい。山奥に流れる渓谷の脇からほとばしる、湧き水を飲んでるかのようだ。しっかりしたコシと、滑らかな喉越し。返しも辛すぎず甘すぎず、しっかりと蕎麦を受けとめ、ほのかなわさびの香りが食欲を刺激する。

これは箸が止まらない。かき揚げを放置したまま、ひたすら蕎麦を食べる。噛まずに飲み込む。喉越しの気持ちよさがクセになりそうだ。

ちょっと待て。三分の二ほどを食べて我に帰った。天ぷらとのコンビネーションを楽しむのではなかったか。大振りにカットされた具が散りばめられた海鮮かき揚げ。皿の端には塩、手前には天つゆが添えてある。お好みでどうぞというわけか。挑発的だな。ならば、まずは塩でいただこうではないか。

うーむ、これは。

ぷりぷりの海老に大きくて柔らかいイカ、シャクシャクとした食感の山芋に意表を突かれる。玉ねぎの甘みに春菊の香り。塩でも天つゆでもそばつゆでもいける。サクサクにあがって油っこくない。蕎麦と一緒に食べても蕎麦を邪魔することがない、しっかりと油が切られている。

迷わずせいろをお代わりなのだ。

次の蕎麦が来るまでは一時休戦だ。カウンターの中の調理場で、蕎麦を茹でる音がする。しばらくすると、大量の吐水音が始まった。蕎麦を水で締めるのだろう。

カラカラカラ。

なんだ、この音は?もしや、蕎麦を氷水で締めているのか。なるほど!山から流れ出たひんやりとした雪解け水で蕎麦を締めるがごとし。手が冷たくなることも厭わずに、ただただ美味い蕎麦を客に提供するがために、己を犠牲にすることが、この蕎麦の秘訣であったか!若い兄弟と母親で店を切り盛りしているためか、なかなか挑戦的な蕎麦だ。五常の店名に偽りなし。

トイレはゆったりとした落ち着いた内装で、BGMがよく響く。綺麗な温水洗浄便座だ。

ついに最後の時が来た。蕎麦猪口に蕎麦湯を入れ、底に残った蕎麦とネギを食べる。少しトロッとした透明感のある蕎麦湯からは、芳しい香りが立ち上る。まだ茹で始めなので力強くない、儚い香りだが、それでも最後の一滴まで蕎麦を楽しませてくれたこの店に、再び来る時はあるだろう。家族連れには向いていないが、妻と二人で訪れたい店だ。

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