寿二庵 おろしまぜ蕎麦

那覇市松山 日本蕎麦 寿二庵 冷やしおろしまぜ蕎麦

沖縄の日本蕎麦事情

この日は午後がずーっと会議。その後に懇親会。二次会に行く前に、久しぶりにモアイに顔を出した。あまり沖縄にいない上に、地元では飲みに行かないようにしている。いや、飲みに行きたくない。

外出すらしたくない。
家にいたいのだ。

自宅で妻とまったりしたり、娘たちとのんびりしつつ、家事に料理に掃除洗濯と格闘の日々なのだ。私が家にいる時は、家のことをできるだけやっておく。妻は休ませる。私が出張に出れば、妻は孤軍奮闘だ。ワンオペだ。私が在宅のうちに充電させなければ倒れてしまう。

必然的に模合に顔を出す頻度は激減する。年に一度は顔を出すが、その程度だ。馴染みの飲み屋ともご無沙汰なのだ。それでも年末などは顔を忘れられないように、ひょこっと飲みに行きはする。数件の忘年会にも顔を出す。

その数少ない地元呑みの折に目にした那覇市の繁華街、松山に新しくできた店が気になっていた。日本蕎麦不毛のこの地で、しかも飲み屋街に突如出現した手打ち日本蕎麦。松山の外れに昔から「松山そば」なる日本蕎麦の店があるのだが、内地で言えば立ち食いレベルだ。申し訳ないが、ゆで太郎の方がはるかにうまい。

那覇市内には数件の日本蕎麦屋があるのだが、だいたいが微妙だ。最近、何店か新規開店したようで、まだ訪れたこともない店もあるのだが、少しはマシな蕎麦が食えるようになったのだろうか。個人的には浦添市の南都川がおすすめだ。こちらも久しく食べに行っていない。

そんな訳で、チャンスがあればぜひとも食してみたいと狙っていた蕎麦屋の前に今、私はいる。なぜここにいるのだろうか?三次会に行って、途中でついていけなくて脱走を図ったのだろう。私は自分の気持ちに忠実だ。嫌なものは嫌だ。食べたいものは食べたい。

三歳児(娘のけいたま)と変わらんな。

手打ち日本そば 寿二庵(じゅにあん)

赤地に白字という、日本蕎麦の店にはそぐわない色使いの看板が目印だ。表には少しぎこちない手書きの札が営業中を告げている。江戸東京そばの会なる札も置かれている。

ドアを開けて店に入る。店内は無人だ。客はいない。ゆったりとしたテーブル席に座る。

カウンター席には数多くのドリンクメニュー。なかなかの達筆だ。小学校の習字が貼られているように見えなくもない。おお、各ハイボールがあるではないか。まずはドリンクをオーダーなのだ。大将がジョッキに氷を入れ、ウイスキーを注ぐ。強炭酸を加えると、軽くステアして運んできた。

ハイボールは合格だ。私は一体、何様なのだろうか。

メニュー

蕎麦のメニューを見る。冷たい蕎麦に温かい蕎麦。たぬき、おろし、鴨南に天ぷら、と。

おつまみのメニューもある。蕎麦屋にしてはなかなか充実しているではないか。

よし、おろしまぜ蕎麦にしよう。

静かだ。心地よい静寂が私を包む。落ち着く。今日は午後一から先ほどまで、ほぼ十時間ほど一人になれなかった。喧騒の真っ只中にいた。人がいると疲れる。気を遣いはしないが、最低限の気配り程度はしなければならない。段取りなどは私の仕事なので、そちらはかなり神経を使う。

ああ、家に帰る前のクールダウン。家族はみんなスヤスヤと眠っているはずだ。ちょっとした贅沢な時間を、今日のご褒美に自分に与えるささやかな幸せ。こんな日があってもいいじゃないか。

冷やしおろしまぜ蕎麦

客の注文を受けてから蕎麦を茹でるシステムなので、少々時間がかかる。いいですよ、いいですよ。蕎麦は打ち立て茹でたてが旨いと相場が決まっているのだ。昼のランチではないので、のんびりまったりと角ハイボールを嗜みながら、蕎麦が出てくるのを待つのです。

八分後、冷やしおろしまぜ蕎麦が運ばれてきた。白い皿の上に盛られた蕎麦の上には鰹節と大根おろし、刻み海苔に緑が映えるかいわれがトッピングされている。

いわゆるブッカケ蕎麦だ。

蕎麦つゆをかけ、軽く蕎麦と混ぜ合わせせる。うーん、大根の香りが匂い立つ。箸で掴んだ麺を食べる。

ん?

コシがあるのだが伸びがない。そば打ち中級者の典型的な症状である。蕎麦つゆは軽めだ。ぶっかけに合うのだが、塩気が立って出汁の深みが感じられない。

これは軽食にはいいだろうが、食事には不向きだ。酒飲み用に塩をきつめに調整しているのだろうか。いい仕事をしているのは大根おろしのみだ。独立して間もないのだろうか。

ビジュアル的には合格なのだが、味の方はまだまだ修行が足りない。だから、私は何様だっつーんだ?!そば打ちなど一回しかしたことがないくせに、何を言うか。いや、金を払って蕎麦を食ってるのだから、これでいいのだ。構わんのだ。

後日、「江戸東京そばの会」を調べてみた。蕎麦打ちを学べる会であった。プロコースもあり、二十日間で一通りを習得できると書いてある。

なるほど、それであの蕎麦だったのか。納得がいった。

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