朝一の出張
クリスマスだというのに、朝一の便で東京に出張だ。昼前からランチョンで会議、その後、もう一つ会議。その後、沖縄から午後便で戻ってくる上の娘と一緒に母と池袋で夕食を摂り実家に戻る。明日から帰国まで娘は忙しいそうだ。
冬至から二日しか経っていないので、朝はまだ暗い。沖縄は国内で最も西に位置するため、日の出も日没も遅い。最も南に位置するから、気温も内地より十度から二十度ほど高い。クリスマスイブの昨日、昼の気温は二十五度、夏日だ。ミニスカサンタも寒くない。
那覇市内から空港までは、タクシーで十分ほどの距離だ。私の自宅からだと二十分。三十分ほど見ておけば、朝の通勤時間帯でも空港に着く。出張時は、いつも妻が車で空港まで送迎してくれる。
この日もいつも通り、いや、早朝なので、ぐずるけいたまを起こして車に乗せ、空港に向かう。妻のスマホでアンパンマンを見ながらご機嫌だ。ところが、この日はいつもより渋滞が激しかった。那覇市内に入ってから、なかなか前に進まない。8時05分の便に乗るのに、空港に着いたのは7時55分だった。
ダメ元でチェックインカウンターに向かう。やはりダメだった。次便は10時15分発だ。仕方ない、振替の手続きをしていると、不意に空港の電気が消えた。クリスマスのイルミネーションでも光るのだろうか。私が怪訝そうな顔をしていたからだろう。係員が説明してくれた。
「あ、節電のために、この時間は電気を消すんですよ。」
朝の空港は便が少ないので、出発ロビーは閑散としていた。人がいないから、電気を消すとのことだ。
手続きを終えて保安検査場に向かう。乗れなかったのは妻のせいではないので、仕方ない。運が悪い。こういう日もある。朝食は機内食で済ませるつもりだったので、家では何も食べていない。腹が減った。
ポーク玉子おにぎり本店
さて、何を食べようか。
この時間だと、ラウンジにも食べ物がまだ用意されていない。二階だとガパオライスか。一階の空港食堂はまだやってないだろう。
ん?
ふと、閃いた。
ポーク玉子本店だ、こんな時こそ、食べるチャンスではないか!
私は一階の到着ロビーにエスカレーターで向かった。
ポーク玉子は沖縄県民のソウルフードだ。知人に一日三食、毎日これを欠かさず食べて、生活習慣病になったのがいる。これをご飯とノリで挟んだのが、ポーク玉子おにぎりだ。沖縄のファミマやイオンでは「おにさん」(おにぎりサンドの略)として売られている。
ポーク玉子おにぎりに一品を足したものが、以前からファミマで売られている。最初に出たのが「ポーク玉子油みそサンド」。油みそとは豚の背脂を炒めたものに味噌を和えた、これまた沖縄の伝統食だ。これだけを具にしたおにぎりも「味噌」と表示されて、沖縄では普通に売っている。次に出たのが「ポーク玉子チキナーサンド」チキナーとはからし菜のことだ。炒めたチキナーが玉子の上に挟まれている。しかし、私が一番好きだったのは今は亡きレシピであった。
メニュー
迷うことなく店に向かう。まずはメニューのチェックだ。
ゴテゴテしたやつはいらない。私の目当てのレシピはあるのか。ポーク玉子あぶらみそ、スタンダードだな。ねり梅、ポーク玉子に合うのだろうか?高菜、美味そうだな、こいつにするか。明太子、うーん、味が想像できないが、案外美味いかも。人参しりしり、それ、おかずだろう。鰹昆布、かつおこん…ぶうううううう?!
マジか?!
こいつだ、これしかない!ついでにもずくスープもだ!
カウンターで注文すると、持ち帰りか店内か訊かれたので、店内というと、大きな注文札を渡された。できたら呼ぶと言う。北谷と牧志にも店があるのか。
ポーク玉子鰹昆布
五分ほどでもずくスープと共にトレイにのせて運ばれてきた。番号札を回収される。おにぎりはモスバーガーのように、いや、それよりも分厚い油紙に包まれている。これだと却って食べにくい気もする。沖縄では大概、ラップで包まれて売っているものだ。
まずは汁物から。もずくスープからは鰹の力強い香りがする。沖縄そばでもこんな香りのする店がある。弾力のある太もずくも美味い。
続いてポーク玉子鰹昆布おにぎりだ。塩の効いたポークに味付けなしの玉子がご飯とノリに合う。そこにほんのりとシソの香りが漂う、甘辛い鰹昆布が味に深みを与える。すべてを一緒に噛み締めながら、もずくスープを飲む。口の中で様々な味が渾然一体となってハーモニーを奏でる。
美味い!
そう、長年求めていた味だ。十年以上前に一銀スーパーがいちぎん食堂になって以来、途絶えていたレシピだ。あの店ではポーク玉子しそ昆布となっていたが、同じ味だ。嬉しい、感動だ。
それくらい、自宅で作ればと思われるかも知れない。いや、ポーク玉子おにぎりは自宅で食べるものではない。外で食べるものだ。ハンバーガーと同じだ。買ってきて食べるか、作ってから家の外で食べるのだ。
ああ、ようやくこの味と再会できた。ポーク玉子おにぎり本店は到着ロビーにあるので、帰宅途中の私がこの店で買い物をすることはないと思っていた。飛行機に乗り遅れなければ、この味に再会することはできなかった。人生とはわからないものだ。何事もポジティブに考えることが大切なのだ。
会議なんて、資料さえあれば、私なしでもできるはずだ。うん。
自分にそう言い聞かせて、保安検査場に向かった。
ポーク玉子おにぎり本店 那覇空港店
数年前に五十路となったバツイチ男性。昨日は沖縄、今日は北海道、明日は四国…出張三昧の日々、三年間で制覇した店は千店舗を超えた。日本全国及び海外での食事を記録したブログである。五十路とは本来「五十歳」を意味するが、現代社会では「50代」と誤った認識が定着している。それにあやかりブログのタイトルを名付けた。(詳しく読む…)