だるま食堂 味噌汁

沖縄県那覇市辻 旭橋駅 だるまそば 究極の味噌汁

だるまそば

妻と一緒に仕事で那覇まで来たので、せっかくだからと、外でランチを食べることにした。現在時刻は13時前。ランチタイムのピークは過ぎた。現在位置は那覇市久米付近。辻との境界あたりだ。このあたりで食事となると、ステーキ88、ジョージレストラン、玉那覇そばあたりか。いずれも数年は訪れていない。4年前までは辻のマンションを借りていた。隣はラブホテル、その隣もラブホテル、道を隔ててソープ街と言う、素晴らしい立地環境であった。ちなみに向かい側は那覇パシフィックホテルと西武タクシー。地元の人間ならばマンション名が特定できよう。

そう、辻と言えばステーキ88が有名だが、個人的にはだるまそばだ。この店の味噌汁は私の中では現世一の味わいだ。沖縄独特の味噌汁なので内地では味わえないし、県内の名だたる店からそうでない食堂まで、いくつもの巡ってみたが、いまだこの店を超える味噌汁には出会えていない。いや、ここに食べに来れば済むことではあるが、はっきり言って、残念なことに、家族連れで訪れる店ではないのである。

そば屋を名乗るくせに味噌汁の方が美味くて有名なのは、店としては不本意なのかどうか。だが、そばの味わいが味噌汁を支えているのは間違いないのだ。沖縄味噌汁は、具沢山なだけではない。出汁が沖縄そばと共通だと思うのである。

メニュー

ドアを開けて店内に入る。壁にはメニューと来店した芸能人の色紙が掲示されている。ほぼ地元芸能人だ。メジャーなのはbeginとガレッジセールくらいであろう。メニューは沖縄そば、宮古そば、軟骨ソーキそば、みそ汁の4種類。サイドメニューは生玉子、いなり寿司である。沖縄そばと宮古そばの違いはよく分からない。宮古そばと言えば、三枚肉やかまぼこなどの具がどんぶりの底に入っている。見た目には麺だけである。構成自体は沖縄そばと何ら変わりがないと思うのだが。

なぜ宮古そばは具が見えないようにしてあるのかと言えば、琉球王朝の苛烈な植民地政策のためだと言われる。琉球国は宮古諸島と八重山諸島を武力制圧した。江戸時代に薩摩藩からの増税を要求された琉球国は、薩摩藩に対して「ただでさえ貧しい我が国が増税をすれば民が反乱を起こします。」と恫喝して増税を断念させた。にも拘わらず、植民地とした宮古と八重山には「薩摩からの増税要求のために新しい税を課す。」として人頭税を導入した。この制度は苛烈を極め、悲しい話や人減らしの慣習が生まれた。この時に薩摩と交渉し、人頭税を創設した具志堅親方、中国名「蔡温(さいおん)」は、琉球王朝では名宰相と称えられ、国際通りに地名が残る。

この制度は琉球処分、廃藩置県後も温存された。明治29年に宮古の若者が、沖縄県の警官や官僚らの妨害を乗り越えて東京にたどりつき、明治政府に帝国議会で直訴した。そして明治36年に人頭税がようやく廃止された。この若者は宮古島では英雄とされている。

このような経緯から、琉球国およびその流れを汲んだ沖縄県の役人たちは、宮古島を搾取対象としか見ていなかった。具がのっているそばを食べているところを見られたら、こいつの家は金があるのだと役人に目をつけられる。だから、どんぶりの底に具を隠すようになったのだと聞いた。えげつない話である。

この店も食券制となっている。いつも同じものを食べているので迷うことはない。「みそ汁よもぎ入り(生玉子・ライス付き)である。妻も同じものを食べると言う。しかし、20年近く通って、初めての貼り紙を目にすることになった。

「本日、ヨモギの入荷がないため、ヨモギ入りは中止いたします。」

すみません、で済む問題か?!ヨモギが入ってなければ魅力が半減…いや、5分の一ほど無くなるではないか。仕方がない。妻と顔を見合わせて、みそ汁玉子入り(ライス付き)の食券を購入し、おばちゃんに渡す。

「みそ汁、二丁~」

独特の声と言い回しで厨房にみそ汁がオーダーされたことを告げる。名物おばちゃんだ。あとはテレビを見ながらみそ汁の登場を静かに待つ。お茶や水はセルフサービスである。

みそ汁玉子入り(ライス付き)

数分後、私の眼前に現れたみそ汁(とライス)。フーチバー(よもぎ)が入っていないのが残念だ。ベージュの味噌汁に浮かぶ緑色はチキナー(カラシ菜の塩漬け)、ピンク色はポークランチョンミート、グレーはスーチカー(豚肉の塩漬け)、白色は島豆腐及びかまぼこ、中央の派手な生糸は玉子である。見た目は黄身だけだが、白身はまだ無色透明なままであるが、一部は味噌汁の熱によって水素結合が破壊され、熱変性を起こして半熟状態のになっている。

硬派である。

味噌汁につきものの大根やニンジン、玉ねぎなどの根菜は一切ない。キャベツなどの軟派な野菜も入っていない。沖縄食材のみで構成されているのだ。加熱することで甘みが出る野菜が一切排除された、徹底的に塩味な味噌汁なのである。だが、しょっぱすぎると言うことはない。汁まですべて飲み干してしまう味わいなのだ。

まずはチキナーからいただく。しょっぱさはまったくない。味噌汁の出汁と塩味が絶妙に染みているのだ。通常、味噌汁の出汁は昆布や鰹節、煮干し、あご出汁など海産物を使用するだろう。沖縄味噌汁はおそらく沖縄そばの出汁を用いていると思う。つまり豚骨+鰹節。だからこそ肉がマッチする。ポークランチョンミートもスーチカーも保存食なので塩分を含む、味噌も塩分を含む。これらをうまく沖縄そば出汁と合わせ、野菜の甘みで味がダレないように調整しているのが、この店の特徴なのである。

紅ショウガとコーレーグースも忘れてはならない。七味派の人もいるが、私はコーレーグース派である。そうか、他店の味噌汁も具沢山ではあるが、野菜が大量に入っているので、甘みが出るのだ。これが沖縄食材と相性が悪い。味がダレる。内地の味噌汁には魚を入れても肉は入れない。

塩味が効いてるからごはんとも相性がいい。個人的にはいなり寿司は好みではない。甘いのだ。硬派であれば、塩味にはご飯である。白飯に限るのである。こうして私も妻もどんぶりの底が見えるまで食べ尽くした。ああ、やはりこの店の右に出る店は無い。満足してランチを終え、店を出たのであった。

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