じんましんがかゆい
高山からワイドビューひだで名古屋に向かう。天気は曇り。景色が残念だ。朝食を摂ってから腕がかゆい。両腕のかゆみが止まらない。じんましんのようだ。高山駅前には早朝から開いている薬局がなかったので、名古屋まで我慢するしかない。ま、大したことはないだろうと、そのまま列車に乗り込んだ。
電車で寝てやり過ごそうかと思ったが、一時間もすると腹部や背中も痒くなってきた。眠れない。ここまで本格的なじんましんは10年ぶりだ。もともと食い物にアレルギーは持っていない。まれに条件が重なるとじんましんが出るようだが、未だに原因がわからない。名古屋に着く頃には、かゆみが両腿まで下りてきた。
抗ヒスタミン剤が欲しい!
定刻通り、特急ひだ号は名古屋駅に到着した。今日のランチは何にしようか。名古屋だ。
かゆい。
味噌煮込みうどんか。
かゆい。
列車を降りた目の前の「住よし」の文字が目に入る。そうだ!住よしがあった!しかも在来線ホームの店は新幹線ホームよりも美味いと聞く。ああ、向かいのホームの、手が届きそうなところに店があるというのに、この痒みでは流石に無理というもの。無念。
ああ、あれが噂の東海道線3・4番ホームの店舗…あれ?違うな。このホームは何番線だ?辺りを見回して確認する。3と書いてある。ええ?このホーム?振り返ると、なんとメーエキ最強の住よしがそこにあった。うう、入りたい!このまま食券を買って食べてしまいたい。
だが、今は薬が先だ。
ドラッグだ!
断腸の思いで後ろを振り返らず、改札へと向かう。
ああ無情。
抗ヒスタミン剤をゲットしたが…
改札を出ると、すぐに高島屋で、その向かいに薬屋があったはずだ。ここ何年かメーエキを使う機会が増えたので、いろいろと覚えてしまった。名古屋人は「名古屋駅」とは呼ばない。「メーエキ」と呼ぶ。札幌駅も地元では「サツエキ」だ。そして薬屋もそこにあった。
助かった。
薬剤師の名札をつけた年配の店員に、抗ヒスタミン剤が欲しいことを告げると、ムヒを紹介された。レジで会計を済ませ、店外に出たときに水を買っていないことに気付いた。どうせすぐに飯を食うから大丈夫だろうと、タカをくくったのが間違いだと気付いたのは数分後だった。
とりあえず、目の前の高島屋のレストラン街に行けばすぐに店に入れると思い12階に向かう。ところが、考えてみれば今はお昼時だ。どの店も行列だ。誰も並んでいない店を探す。12階には無い。並んでいない店は店頭の名簿に名前を書くシステムになっている。どこも10組以上待っている。13階に行く。お、並んでいない店がある。加賀料理…この状態でナマモノはダメだ。フロアをひたすら彷徨う。
店はどこだー?!
通りかかったトンカツ店の客待ちリストをみる。ん?3組しか書かれていない。
ラッキー!ここだ。
薩摩黒豚 宮忠
なぜ名古屋で薩摩黒豚なのかはこの際、考えない。迷わず名前を書く。ああ、痒さ限界だ。あのとき水を買えばよかった。変な汗まで出てきた。かゆみは肩まで広がってきた。黒豚づくしにするか厚切りロースカツにするか、痒くて考えがまとまらない。気を紛らわそうとメニューを見るも、かきむしりたい衝動を抑えるのでいっぱいいっぱいだ。
最初の一組が呼ばれた。
すぐに次の一組は呼ばれた。該当者がいない。やった!
また一組が呼ばれた。次だ!早くしてくれ!かゆい!
待つこと3分。ついに店内から店員が出てきた。名前が呼ばれる。私はここだ!
ランチメニュー
店内の二人がけの席に通されると、私はすぐに厚切りロースカツをオーダーした。他のメニューを検討する精神的余裕はなかった。急いで薬を箱から取り出し、冷たい麦茶で胃に流し込んだ。
あー。
助かった。
飲んですぐに効くわけはないが、精神的に余裕ができた。あとはじんましんが引くのを待つだけだ。セントレアまでの時刻表を確認する。13時31分。これに乗れなければアウトだ。現在時刻は12時48分。13時15分には店を出ないと間に合わないが、私のオーダーはまだ出てこない。隣の先客がようやく食事を始めたところだ。また焦り始める。焦ってもしょうがない。ただ粛々と食べるだけだ。
厚切りロースカツランチ
お待たせしましたーと店員が声をかけながら厚切りローストンカツを持ってきた。厚い。見た目にもボリューム感がある。200gはダテじゃない。まずはトンカツを一口。おお、柔らかくてジューシー。脂っこさもない。これだけの厚みなのに歯ですっと嚙み切れる。脂身は控えめだが、しっかりと豚の脂の味がする。
旨い。
キャベツのスライスは私好みの薄切りだ。ドレッシングをかけて、カツのお供に食べる。
旨い。
キャベツは薄切りに限る。スライサーでカットしたものがいい。包丁ではこうは切れまい。続けてご飯。おお、うまい!コメについては「おかわり自由」とだけ書かれている。高山のように「当店のコメはすべて飛騨産です。」などといった断り書きはどこにもない。が、ご飯がうまい。炊き方もいい。コメがツヤツヤで立っている。さらに赤だしを口に流し込む。あー、名古屋を感じさせる。
キャベツのお代わりをする。ドレッシングも言えば新しいものを出してくれる。今度は塩で食べてみる。
おお!
ソースもいいが、塩で食べるとより一層肉の味を堪能することができるじゃないか!粟国の塩だそうだ。トンカツを塩で食べるのは好きではないが、この厚みだと話が違うのだと体感した。
いや、そうではない。
ソースは衣につけて食べる。
塩は肉に直接つけて食べる。
これが正解だ。
今まで塩も衣につけていたから美味しいと感じなかったのだ。
なるほど。
キャベツとごはん、赤出汁はおかわり自由だ。時計を見ると13時10分になっていた。おぅふ!急がねば!ランチを堪能してる場合ではないのだ。最後の一切れを口に放り込むとすぐに席を立ち、会計を済ませて店を出た。
ごちそうさま
「日曜日の晩御飯は飛騨牛ステーキだからね。」と妻に豪語しておきながら、実際に買えたのは味噌と高山ラーメンだけ。名古屋で何か買おうという目論見も崩れた。今度は腹が痛い。トイレに行きたいのを我慢したまま、セントレア行きの特急に乗り込む。電車には間に合ったが、私はトイレが間に合うんだろうか。次から次へと迫り来る問題を片付けるだけで精一杯だ。
ステーキは来週にでもネットから注文しよう。なぜなら火曜日から、また一週間の出張が待っているのだ。
今晩は何を食べればいいのだろう。途方に暮れながら、沖縄行きの便に搭乗した。
薩摩黒豚 宮忠(JRセントラルビル)
数年前に五十路となったバツイチ男性。昨日は沖縄、今日は北海道、明日は四国…出張三昧の日々、三年間で制覇した店は千店舗を超えた。日本全国及び海外での食事を記録したブログである。五十路とは本来「五十歳」を意味するが、現代社会では「50代」と誤った認識が定着している。それにあやかりブログのタイトルを名付けた。(詳しく読む…)