長崎の夜 二軒目
長崎市グルメを味わうためのミニツアー、五十路のオヤジと若い女性数名との珍道中である。一軒目は一口ギョーザとニラトジ、キモテキを堪能した。長崎は海に面しているので、海鮮も美味いのである。これを食べないわけにはいかないだろう。九州の魚もなかなか美味なのである。
まずは現地人おすすめの鮮魚店、松ふじ。渋い店構えだ。地元の常連さんで席が埋まってそうなたたずまいだ。店のドアを開けて中をのぞくと、私の悪い予感は当たっていた。満席である。とても5人は入れない。そのまま扉をそっと閉めた。
さーて、次の店に行こうか。次点は雑魚屋。地元民がランク付けしたわけではないのだが、先ほどの店から近い方に向かったのである。こちらもさほど遠くはない。
店は結構な規模である。幸い、予約なしで個室に案内されたが、少々遅い時間だったのでよかったものの、ほぼ満席の状態であった。
長崎市 思案橋 雑魚屋
まずはお通し。3種類から選ぶ。練り物に南蛮揚げと野菜だ。各人、それぞれに好みとアレルギーがあるので、好きなものを選ぶ。
活いかとカタクチイワシは、本日入荷がない。食べることができない。残念である。九州に来て活きイカが食べられないなんて、北海道で毛ガニが食べられなようなものだ。ここ最近は全国時にイカが不漁である。まあいい、ここでしか味わえない地魚をいただこうではないか。
バリの刺身
鯛のような高級で上品な見た目だが、鯛とは明らかに違う弾力のある歯触り。これは初めて食べる魚だ。脂がのってしっかりとした味わい。バリとはどんな魚なのか、ちょっと調べてみよう。九州の少し甘みのある醤油とも相性がいいと娘たちが話している。私は醤油をつける。わさびだけで食べる。これも減塩のためだ。
バリとはアイゴのこと。沖縄では「エーグヮー」で知られる。この稚魚がスク。唐揚げにしても美味いが、有名なのは「スクガラス」だ。アイゴの稚魚を塩漬けにしたもので、沖縄を代表する食品の一つでもある。これを島豆腐にのせると「スクガラス豆腐」である。私は好きではない。日本全国で獲れる魚でありながら、沖縄以外では未利用魚なのであるとか。沖縄でもエーグヮーの刺身は見たことがないように思う。
うちわえび活き造り
これがエビであることを、何度か食したことがある私は知っている。女子達は初めて見る異形な生物の姿に驚く。なんと活け作りだ。まだ生きている。その姿はまさに使徒である。第14番目、エヴァ初号機が貪り食ってS2機関を体内に取り込んだあいつだ。
似てないか…
既に半身をもがれ、息も絶え絶えに刹那を生きるようと動いているうちわエビ。一人の女子が指でいたぶりながら楽しんでいる。この子になんて名前をつけようか、恐ろしいこと言っている。おそらくサイコパスの素質があるのであろう。彼女がつぶやく。
「さっきよりも少し動いてるよー。」
それは気のせいだ。そんなに動かしたいのであれば、こうすればいいのだ。炭酸水を海老に掛ける。半身になったエビが激しく身もだえ始める。
「すごい、すごい!」
瀕死の海老を見てはしゃぐ女子たち。怖い話。
クジラ3種盛り
鯨ベーコン。昔、食べたのはもっとしょっぱくておいしくなかった。最近の鯨ベーコンはこんなに美味なるものかと驚く。以前、長崎を訪れてこいつを食べた時もそうだった。私の記憶にある鯨ベーコンとは明らかに違うのだ。まず、塩気がない。そしてたっぷりと脂がのった旨味がある。これは酒に合う。ポン酢で食べるのもいいが、試しにわさびで食べてみてもなかなかいけた。
赤身は少しコクがないような、クジラのうまみがないような、だけど臭みもない。昔、食べた鯨の刺身は正直おいしいと思わなかった。鯨が美味いと感じるようになったのはここ最近だ。味覚が変わったせいではない、明らかにクジラの鮮度が良くなった。流通の技術が上がったのであろう。
もう一つの白い物、食べてみたが悪くない。だがこれが何なのかわからない。あとで調べてみたが、おそらく百畳と呼ばれる鯨の胃であろう。珍味だ。
箸とみそ汁
ふと箸の包装紙の記述に目が行った。紙をめくってカタクチイワシが出ればドリンクが一杯サービスと書いてある。なんだそりゃ。各自の箸袋を開けてみる。全員がハズレだ。残念だ。こんな遊び心も長崎ならではだろうか。
締めはうちわエビの味噌汁。先ほどの瀕死の海老が熱湯に投入され、真っ赤にゆで上げられたのだ。芳しい上品な甲殻類の香りと、力強い出汁が口の中に広がる。
さて、地魚は十分に味わったらだろう。前菜、メインときたら、次は締めだ。店を変えることに使用。
数年前に五十路となったバツイチ男性。昨日は沖縄、今日は北海道、明日は四国…出張三昧の日々、三年間で制覇した店は千店舗を超えた。日本全国及び海外での食事を記録したブログである。五十路とは本来「五十歳」を意味するが、現代社会では「50代」と誤った認識が定着している。それにあやかりブログのタイトルを名付けた。(詳しく読む…)