長崎ちゃんぽん

長崎駅 中華大八 長崎ちゃんぽん

長崎ちゃんぽん

長崎と言えばちゃんぽん。日本中にはちゃんぽんと呼ばれる料理がいくつかあるが、肉と魚介と野菜をいため、太い専用の麺を煮込んだものは長崎ちゃんぽんである。長崎市内で食されており、市外ではちゃんぽんをあまり食べないようだ。数年前、長崎空港のある大村市を訪れたとき、地元タクシーの運転手に美味しいちゃんぽん屋を尋ねたら、リンガーハットだと言われた。あれは長崎市の食べ物だからね~とも言われた。

長崎県はなかなか広い。北は壱岐・対馬。国境だ。陸続きでも、台湾を始めて統治した、鄭成功の出身地である平戸、国防のかなめである佐世保、そしてここ長崎市。沖合100km先には五島列島がある。ここも国境だ。200km先には韓国領済州島がある。これだけ広ければ、地域ごとに食文化が異なるはずである。その上、出島があった長崎市だけは歴史的にも特別な食文化であるのは当然であろう。

だからこそ、長崎市を訪れたのならば、ちゃんぽんを食べなければならなぬという義務感にかられるのも仕方がない。

というわけで長崎駅付近に美味い店がないか検索したところ、ホテルの真ん前の中華屋がヒットした。昨晩も店の前を通って気になった店だ。やはり私の勘は正しかったのだろうか。それを確かめるためにも、店を訪れなければならない。静かにゆっくりと食べたいがために、あえて正午を外し、13時過ぎに店に行くことにした。

長崎駅 中華大八

まずは店頭のショーウィンドウにてメニューを確認。店のウリは皿うどんのようだが、私はちゃんぽんが食べたい。汁物が食べたい。店に入ると、一時半になるというのにほぼ満席、入口の方で待つように言われる。地元客が大半のようだ。目の前に大きなトランクがあるので、一組は観光客なのだろう。

カウンター席の客が食べ終えて店を去った。こちらに座るように案内される。迷わずちゃんぽんを注文した。家族経営だろうか、若い娘さんが店を仕切る。フロアにはお母さん、調理はお父さんと勝手な想像をする。

店内を見ると焼き飯を食べている客が多い。皿うどんやちゃんぽんを食べるのは私のような観光客なのだろうか。皿うどんは夜に食べられるような気がする。まだまだ客が入ってくる。一人客が多い。女性客ですら一人で食べている。調理場からは豚骨の香りが漂ってくる。スープの匂いだろうか。食欲をそそられる。

人気店なのだな。

カウンターに置かれたおでん鍋が気になる。店内に流れるのは昔ながらのラジオ番組だ。少し前のJポップがかかっている。何だかホッとする空間がここにある。静かに、のんびりと、自分のペースで食事ができる。客は多いが、騒がしくない。ラジオの音が店内によく響いているくらいだ。調理場から聞こえるカンカンと鍋を叩く音も、店の雰囲気を構成する重要なファクターなのだ。

お腹が空いた。

長崎ちゃんぽん

ようやく私のちゃんぽんが来た。ほぼ一人ずつ作っているために時間がかかるようだ。ちゃんぽんは同時に二つが出てきた。

ベージュのスープに浮かぶ具はもやし、キャベツ、豚肉、かまぼこ、ちくわにゲソだ。モノトーンに浮かぶ、透明感あふれる緑のキャベツと白のもやしのコンビネーションに、ショッキングピンクのかまぼこが美しく映える。

まずはスープを飲む。薄味の滋養深い、優しい味だ。野菜の旨味に鶏がらスープ、おそらく豚骨スープも入っているだろう。さらにイカゲソやかまぼこといった海鮮類。和食では魚介と肉を合わせると言う発想がない。素材の味を活かすのが和食の基本だからだ。

しかし中華は違う。

素材を足して足して、深みのある豊かな味わいを実現する。言うなれば、野菜のグルタミン酸、肉のイノシン酸、魚介のタウリン、この三種の旨味成分を、強力な火力の下、中華鍋の中で加熱混合し、科学反応させ、ときにはスパイスという触媒を加えることで、中華料理独特の味わいを作り上げるのだ。

不味いわけがない。

麺は太めのストレート。ラーメンのようなコシはない。ちゃんぽんは煮込み料理なのだ。たっぷりと旨味を吸ったちゃんぽん麺。まさに中華煮込みうどん。麺だけを食べても美味いが、野菜と一緒に食べれば食感も加わり、一層美味しく味わうことができる。

しかも野菜がたっぷりだ。

右隣に座る女性の一人客に皿うどんが運ばれてきた。細麺だ。彼女はごく自然にカウンターのソースを取ると、スーッと軽く皿うどんの上にかけ回した。この手慣れた仕草は、おそらく長崎市民に違いない。左隣に座る初老の男性は漫画を読みながら焼き飯を食べている。

確かにこのちゃんぽんでは男性には物足りないかもしれぬ。

そんな時はおでんを食べるのか。おでん鍋まで1メートル、間に大人男性二人を挟んだ位置関係で、どうしたらおでんを食べられると言うのだ。まさか、席を立っておでんを取るのか。しかし皿が見当たらぬ。やはり初心者がいきなり玄人向けの店に来ると、こんな目にあうのか。初めて讃岐を訪れた観光客が、いきなり全セルフのうどん屋に入ってしまい、右往左往するのを横目で見ていた私に天罰が下ったとでも言うのか。

落ち着こう。

まずは目の前の問題から解決しよう。ちゃんぽんを食べ終えるのだ。少ないと思っていたが、食べてるうちに案外お腹が膨らんできた。思ったよりもボリュームがあるのか。このたっぷりとスープを吸ったちゃんぽん麺の重量感がなせる技なのか。

食べ始めは表面がボソボソでとてもすすれなかった麺が、今やツルツルの滑らかになり、スルスルと食べられるようになっている。少し冷めてしまったが、旨味は増したかのような錯覚に陥る。いや、錯覚ではない。現実だ。

これで六百五十円。長崎市民に愛されるわけだ。次回は皿うどんに挑戦してみたい。

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