タコのアヒージョ

長崎駅 ボンボヤージ 南蛮漬けとアヒージョ

長崎は今日も雨だった

雪のない山形から伊丹経由で長崎に。空港からはリムジンバスで移動する。九州最大の福岡空港は博多駅から地下鉄で二駅という利便さなのに、それ以外の空港はことごとく利便性に欠ける。北九州、大分、佐賀、長崎、熊本、鹿児島の各空港はいずれもバスで30分〜40分かかる。例外は宮崎空港だけだ。陸の孤島だから、空港まで不便なら目も当てられないだろう。

「長崎は今日も雨だった」は昭和44年にリリースされた内山田洋とクールファイブの歌である。50年前だ。子どもの頃、ボーカルは前川清で、どう見ても目立ってるのはボーカルなのに、なぜ四人のうちの誰だかわからない内山田洋の名前が目立つのか理解できなかった。

テレビを観ただけでは、どう見てもコーラスグループなのだが、実はバンドで各自が楽器を弾いていたとは、先ほどウィキペディアを読んで知った。

日曜の夜は店がない

この歌のイメージで長崎市は雨が多いと思っていたのだが、過去30年の天気データベースによると、実は雨天が少ない。そういえば長崎市は水道代が全国的にも高い自治体だったと記憶している。水源がないのだ。そんなに雨が降っていれば、水に困らないはずだ。

だが、今日の長崎は雨が降っている。日曜の夜は駅前と言えども人通りも空いている店も少ない。ディナーの店を探すのも一苦労だ。なんとなく和食は避けたい。気分的には洋食だろうか。そんな私の願いも虚しく、ホテルの周りには居酒屋や中華料理店しか見当たらない。

うーん。

雨も降っているので、寒くなってきた。なんだがどうでもよくなってきた。

そんな目の前に現れた、ワインと横文字の店名。ここにするか。

長崎馳走・バル ボンボヤージ

店内に入ると、まだ客はいなかった。ママが仕切る店だ。BGMは明るいモダンジャズ。

さて、何を食べようか。 刺身ちょっと盛りにしようか。

南蛮漬けも食べたい。今日はモチウオだとのことだ。すべてのメニューがあるわけではないようだ。

地ダコのアヒージョも食べてみようか。

お通しは優しい味の野菜胡麻和え。キクラゲの食感がいい。入口付近の席なので、扉が開くと外から風が入ってきてモロに当たる。寒い。

もちウオの南蛮漬け。エボダイのことだ。酸味控えめ、脂の甘みを淡白な身がしっかりと受け止める。身は柔らかく骨まで食べられる。付け合わせのオニオンスライスが口をさっぱりさせつつ、爽やかさを与えてくれる。

これはビールが進む。

南蛮漬けは正直あまり好きではないのだが、これはいい。小アジよりもクセがなく、身がしっかりとしたエボダイの方が、南蛮漬けに向いているのかもしれない。

一人静かに食事を楽しんでいるその時、突然入口のドアが開き、13名の団体が入ってきた。隣に席に案内される。うーむ。家族連れのようだ。

刺身盛り合わせ。タイは食感よく甘みもある。臭みはない。シマアジは身が硬すぎず、脂がのっている。モンゴウイカは身がねっとりとして甘い。いいなあ。山形で食べた刺身も悪くはないが、やはり海のある地域は強い。脂の適度にのったヒラスは独特の生臭さもあまりなく、甘くて食感もいい。やたらと身が硬い魚は好きではない。タコはうーん、何だかなあ。マグロはたたきなのか。脂が程よくのった、熟成した赤身と中トロのあいだのような身である。わさびとのコントラストが美しい。

しかし、店内が寒い。入口付近の席だからか。厚着してくるべきだったか。鼻水が出てきた。トイレに行って鼻をかもう。ふむ、温水洗浄便座である。嬉しい。しかし寒い。ホテルの部屋も寒かった。風邪をひいたのだろうか。

地ダコのアヒージョ。オリーブオイルに大量の玉ねぎ。甘い。歯ごたえのあるたことニンニクの香り、オリーブオイルに玉ねぎの甘み、これらすべてを受け止めるバゲット。バランスのいい味わいだ。オイルのうみの底に沈む刻みニンニクをバゲットでサルベージして食べる。いいねえ、ガーリックトーストのようだ。

「マッコウクジラのマッコちゃんがねー」

隣の団体客からタバコの香りとともに、若い女性の声が流れてきた。

「取材したの、マッコちゃんだよ〜」

何だか卑猥に聞こえるのは、私にやましい気持ちがあるからだろうか。まっこまっこ言うな。

ごちそうさま

何だかお腹いっぱいだ。一人静かに飲んでいたところに、隣の席に団体が入って雰囲気が一転。騒がしい上にタバコの臭いもする。後から来店したひとり客は、少し離れたお座敷席に通された。私もその席に座りたい。

帰ろう。

会計を済ませて店を出る。

「ご馳走様。」

私の声に返事をする者はいなかった。いくら忙しいからって、何だかなあ。
やりきれない気持ちで、店を後にした。

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