岩井屋 うなぎ重

長野駅 うなぎ 岩井屋 うなぎ重(肝吸い付)

うなぎ 岩井屋

会議で長野市を訪れている。せっかくだからと信州そばを食べようとして、失敗成功を味わった。そして本日のランチをもって、この地から去る予定だ。長い会議もようやく終わった。昼の休憩後は総括がある。それまでにささっとランチを済ませなければならない。長野駅前で信州らしい食べ物を味わうとすればなにがあるだろうか。蕎麦はもういい。馬刺しは沖縄でも美味いのが食べられる。あとは野沢菜におやき、七味…善光寺の参道に売ってそうなものしか思いつかない。

あ。

長野駅前のうなぎ店が気になっていたのだ。営業時間が短く、閉まっていることが多い。もしや今が好機ではないだろうか。行先が決まれば行動は迅速だ。速足で店へと向かった。そう、この店だ。

ドアを開けて店に入る。思った通りだ。客はそれほど多くない。小上がりのお座敷席とテーブル席の小さな店だ。20人ほどでいっぱいになるだろう。私は相席用の大きなテーブルに通された。客の年齢層は高めだ。年配の女性がうな丼を静かに食べていた。

メニュー

さて、何を食べようか。メニューは至ってシンプルだ。丼か重の二択である。これほどシンプルなメニューに出会うことはなかなか無い。10年程前だろうか、沖縄でラーメン店だった店舗が別の店に変わっていた。時間がなかったので入ってみたのだが、その店のメニューは店内に木札で掲示されていた。

  • 味噌汁
  • ヒラヤーチー
  • ナーベラーンブシー(へちまの煮込み)

なんだ、この脈絡のない三択は。しかもマイナーな料理ばかりだ。マニアックか?ランチタイムなのに客はいない。店主は期待に満ちた表情で私を見ていた。んー、じゃあ、味噌汁にするか。オーダーを請けた店主の顔は喜びに満ち溢れていた。まるで餌をお預けされていた子犬のようだ。ここで重大なことが判明した。財布を忘れた。慌てて事情を話し、注文を取り消すと店を出た。あのときの店主の落胆の表情がいまだに脳裏に焼き付いている。3か月後には閉店していた。

うな丼が多数派。うなぎが高騰して高くなり

付け合わせ

まずはお盆の上に載せられた多数の付け合わせが運ばれてきた。

サラダはキャベツの千切り、薄口の野菜ドレッシング。

漬物は少量の大根の糠漬けと野沢菜。薄味である。

甘い煮豆と思って食べてみれば、正体は塩っぱい豆だ。味噌煮ではない、味噌漬けだろうか。調べると醤油豆というらしい。 北信地方と呼ばれる、このあたりの郷土料理とのことだ。煮たり蒸したりして柔らかくした大豆を麹と醤油で漬け込んだものである。ネットで「しょうゆ豆」を検索すると、香川県讃岐地方のしょうゆ豆の方が圧倒的に結果が多い。こちらは豆を砂糖と醤油で煮込んだ、煮て非なる料理である。

薄くスライスされた根菜の煮物も出汁がきいて薄口である。

うなぎ重(肝吸い付)

ようやくうなぎ重が運ばれていた。注文から20分が経過している。オーダー後に焼いているのだろう。メインが不在だったお盆にウナギ重がパイルダーオンである。これでようやく実力が発揮できるのである。

出撃の準備が完了したところでお重とお椀からふたを取り去る。ふわっとうなぎの香ばしさが匂い立つ。うなぎ屋だから店内には元々香りが漂っているが、眼前の料理からは視覚からも味わいの想像力が掻き立てられる。鼻孔からは一層と力強い芳香が私の空腹と食欲を激しく刺激するのである。

肝吸いも上品な味だ、出汁がきいた薄口で、三つ葉の香りが良い。ほろ苦いキモは大人の味だ。

対照的にうなぎは辛口のタレ、私には少ししょっぱい。腹開きのうなぎは関西式だ。身の厚いうなぎの身はフワッとはしていないが柔らかい。一口噛むだけで口中に旨味が広がる。たっぷりと脂がのったウナギの甘みに対抗するために辛口にしてあるのだろうか。そうそう、忘れていた。数少ない和食のスパイスである粉山椒をウナギの上にたっぷりとかける。ご飯も硬めに炊かれていてタレがよく絡む。

ああ、コゲもまた香ばしい。じっくりと味わってゆっくりと食べたいが時間がない。13時20分には退店しなければ、最後の会議が始まってしまうのだ。ランチタイムが終了してしまうのだ。こんな鰻を掻き込まなければならないのとは、至極無念。

20分前には地元のお年寄りの客がほとんどだった店内は、どんどんとスーツ軍団に支配されていく。ビールを飲んでやがる。こいつらは全員、最後の会議に出る気がないな。もう終わった気でいるのだな。

ウナギを食べ終えてデザートはりんごのコンポート。アップルパイを食べているかのようだ。トロトロで甘くりんごの味が濃厚に圧縮されている。生リンゴは普通に美味い。フレッシュだ。

落ち着いて食べられなかったのが残念ではあるが、ウナギを味わえただけで良しとしよう。会計を済ませて店を出ると、すでに閉店の案内が置かれていた。

営業時間は毎日わずか二時間。

だが、30人も客が来れば売り上げは10万円を軽く超える。仕入れや仕込みの時間を入れても、日々の実働時間は7時間くらいだろう。無理のない働き方ができるからこそ、長く商売できるというものだ。付加価値が高ければ短時間で稼げるのだ。うなぎからも学ぶことが多いと感じながら店を後にした。

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