寿し処 きん八
東室蘭での夕食である。さて、何を食べようか。ホテルの近くには繁華街である中島町がある。長崎屋、いや、ドン・キホーテの裏に飲食店がひしめいている。室蘭に来たからには第一選択肢は室蘭やきとりである。前回はどこにいたのかも分からなかったが、有名な一平も中島町にあった。
しかし私は密かに心を決めていた。寿司だ。生の魚を喰らふのだと。本来ならば幌別に泊まって、寿司政で心ゆくまで北海道の幸をじっくりと味わうところなのだが、ホテルが満室で取れなかった。だからこそ、ここで寿司を食べてやる。リベンジなのであります。
ネットで調べたところ、この辺りには寿司屋が三店ある。その中で最も気になった店に行くことにした。いつ行っても常連さんでいっぱいなので、なかなか入ることができないとコメントされていた。もう午後八時過ぎだ。さすがに空いているのではなかろうかと、自分に都合よく将来を予測し行動に移した。
店のドアを開ける。客はカウンターに一人だけ。空いていた。助かった。
お通し
メニューは特にない。生ビールもない。瓶ビールをオーダーする。お通しはナマコ。硬い。歯ごたえがすごい。しかし味が濃い。ビールに合う。酸味控えめの味付けが好みだ。
刺身
続いてつまみで刺身をいただく。イカはねっとり甘い。タコは柔らかく味が濃い。アワビは柔らかい部分とコリコリとした食感、噛めば味が臭みのない、高貴な磯の香りが口の中に広がる。これぞアワビなのであります。
生ホッキ貝刺はアワビと対照的に柔らかい。それでいて噛むほどに貝の甘さが口に広がる。白身は脂が適度にのった上品な甘さ。刺身のサイズから相当大きな個体であると想像できるのだが、尋ねてみるとでかいヒラメだそうだ。4〜5キロはある大物だ。
透明感あふれる手切りのツマもまた美味い。あまりはすべてシソで巻いて食べる。ノリで巻けばさらに美味いのだが、初見の店だ。機械で大根を切ったのでは、透明感あふれるツマにはならないのである。ガリもなかなかのものだ。ビールのつまみにちょうどいい。
日本酒は国稀の純米をセレクト。美味いねえ。
トイレは温水洗浄便座である。鼻につかず、それでいて存在感はしっかりとしている芳香剤の香りが気持ちを落ち着けてくれる。掃除も行き届いて綺麗だ。
玉子焼き
腹も減っていたので、ここで握りを注文する。その前につまみで玉(ぎょく)だ。厚焼き玉子のことだ。ほんのりと甘くしかりとした食感の玉子焼きは、寿司屋ならではの一品だ。自宅では作ることができない。自分が作れない料理を食べてこそ、外食の意味があるというものだ。それが非日常性なのだ。
握り
美味い。北海道でマグロは食べたくないなあと思っていたのだが、赤身でさっぱりとしていたのが嬉しい。マグロのトロは好きなのだが、これは東京が美味い。その上、沖縄でも生マグロが獲れるである。シャリは少々温かいが、酢があまり効いていない上に小さめに握ってあるので、ネタのうまみを堪能できるのが嬉しい。
いくらはえぐみなく、うにはまろやかで甘い。これぞ北海道。内地ではなかなか味わうことができない、北の湖の宝箱なのである。北の大地で醸された、留萌(るもい)は増毛(ましけ)の酒、国稀が寿司と相まって極上の食空間を作り上げる。
ああ、至福なのだ。
げそ焼き
ネタケースの中のイカゲソに目が行った。何を隠そう、私の好物である。げそ焼きにしてもらい、しょうが醤油で食べる。新鮮なげそ特有の弾力のある食感、鼻をくすぐる磯の香りと、濃縮されたイカの旨味。これまた酒が進む。日本酒万歳。
うん。満足。会計を済ませて店を出る。かなりほろ酔い気分だ。このままホテルに戻って寝てしまおう。
数年前に五十路となったバツイチ男性。昨日は沖縄、今日は北海道、明日は四国…出張三昧の日々、三年間で制覇した店は千店舗を超えた。日本全国及び海外での食事を記録したブログである。五十路とは本来「五十歳」を意味するが、現代社会では「50代」と誤った認識が定着している。それにあやかりブログのタイトルを名付けた。(詳しく読む…)