くわっちー食堂 ポーク玉子

石垣の締めはここだ 〜くわっちー食堂〜

三次会が終わった

石垣島は八重山諸島に属する。この地域は「やいま(八重山の方言)」と呼ばれる。八重山と先島諸島を構成する宮古は「みやこ」だ。「沖縄(うちなー)」とは沖縄本島のことを指し、本島以外は沖縄県に属してはいるが沖縄とは呼ばないのだ。

そもそも先島諸島は沖縄本島が尚巴志王によって統一された後、尚真王が武力侵攻で征服した地域だ。そのために江戸時代は琉球国の流刑地だった。住民には人頭税という重税が課せられた。明治になり琉球処分が行われても、琉球国の元官僚が実権を握っていた沖縄県は人頭税をやめなかった。宮古島の青年が様々な妨害工作を乗り越えて東京に行き、帝国議会で実情を陳情したことで、明治の終わり頃にようやく廃止されたのだ。この島民は宮古島では英雄として讃えられている。

懇親会では地元高校生による伝統芸能のアトラクションが素晴らしかった。秋には全国大会に出場するとのことだった。全国的にこのような芸能の後継に苦労している地域が多いと言うのに奄美や沖縄、八重山などの南西諸島地域は若手による芸能が盛んだ。沖縄では女子は三線(さんしん)、琉球舞踊、琉球空手のどれかを習うんだよと妻も話していた。ちなみに妻は琉舞を、義妹は三線を習っていたと聞いている。

二次会は夏川りみの妹さんの店に行き、三次会は地元のスナックでカラオケ大会になっていた。私は地元の方と話をしていた。昼間のメニューについて聞いてみたかったのだ。

まずは牛そばについて聞いてみた。昼の店もそうだが、懇親会でも牛そばだったからだ。沖縄そばなら麺の入った椀にスープを入れるが、懇親会で出たそばはスープがけんちん汁みたいだったのだ。懇親会で出たのは牛汁そばとのこと。牛そばがメジャーなわけではなく八重山そばが一般的だと言う。

次に八重山そばと沖縄そばの違いについて尋ねる。丸麺が特徴なのか聞くと、石垣には二か所の製麺所があって丸麺も平麺も作っている。特徴は紅生姜を使わないこと、沖縄そばのように三枚肉ではなく赤身を使った煮込みを載せること、かまぼこが細切りで載ってること、そしてネギは入れないと言う。ナーベラチャンプルーや牛チャンプルーも一般的だと言うことだった。

これは早速確かめねばと三次会が終わり次第、締めに向かったのだ。

締めの店はどこだ?

懇親会の席で締めの店はどこがいいのか尋ねたところ、誰かしら締めに行こうと言い出すからついていけばいいよと言われたのだが、誰も行く気配がない。那覇から来たお互い内地出身の金田さんと私だけだ。仕方ない。二人で美崎町をウロつく。繁華街は東京なら銀座、那覇なら松山、石垣なら美崎町なのだ。ラーメン屋しか見当たらないので、近くにいた呼び込みのにーにー(お兄さん)に店を教えてもらう。

「この裏の道に『くわっちー食堂』があります。そこがいいですよ。」

礼を言って店に向かう。地方に行くと呼び込みの兄さんが親切だ。札幌でも那覇でもわからないことはなんでも呼び込みの兄さんに聞けばキチンと教えてくれる。六本木ではこうは行かない。

2分ほど歩いたところにくわっちー食堂があった。二人で暖簾をくぐる。店内には団体が一組。我々はカウンターに通された。私は泡盛を炭酸で割るのが好きなのだな、今日はずっと水割りだった。八重山ではグラスごとに酒を入れ水で割るなんてことはしない。ピッチャーに入っているのが水割りだ。沖縄の人間は何回も水と間違える。濃いめに作ってあるのだが、水がないから薄めることもできない。炭酸で割るのも不可能だ。そばで締めて帰るつもりが、まずは二人ともハイボールを注文した。一杯飲んで軽くつまんでそばを食べて締める、これが計画の全貌だ。

炙り三枚肉を注文する。つまみにいいサイズだ。カリッとしてしかも弾力があり味は薄め。柚子胡椒が合う。

久しぶりに会った金田さんと話が弾む。ハイボールは2杯目だ。もう一品つまみを頼もうとモズクを頼んだのが計算外だった。金田さんが言った。

「モズク好きだけど1100円って高くないですか?」

私もそれが引っかかったのだが、

「きっと天然物の地物なんじゃないの?」

などといい加減なことを言って注文した。話が盛り上がっているところに水を差すかのように、そのモズクは出てきた。二人とも無言になる。

モズクそば?

「おかあさん、二人なんで、つけ汁もう一つくださいよー!」

金田さんが言う。ツッコミどころはそこじゃない。

なんだ、これは?

モズクは酢の物で食べるのが一般的だが、これだと量が食べられない。数年前から那覇の居酒屋でモズクをそうめんのように食べるのが流行りだした。氷の上にモズクを載せ、しょうがやネギなどの薬味をめんつゆに入れてつけて食べるのだ。

美味しいし簡単なので、生のモズクが出回る時期は家でもこうやって食べていた。沖縄にはもずくそばもあるが、麺にモズクを練り込んだものだ。

しかし、これは斬新だ。

昼間に食べた麺と違い真っ白だ。冷水で締めてるからだろうか、コシもある。卵の黄身とめんつゆがよく絡む。

うまい。これは有りだ。

うまい。二人とも黙って食べてしまう。

気がつけばハイボールは4杯目だ。ここで想定外の形でそばを食べてしまった。この上、三枚肉を食べるのは不可能だ。我々は作戦を立て直そうとメニューを見るが、ご飯ものばかりで、ツマミになるようなものはない。私は店のおかあさんに尋ねてみた。

「定食を単品で出すことできますか。」

おかあさんはオーケーだと言う。ならばポーク玉子だ。鉄板なのだ。さほど時間を置かずに出てきたそれは、卵焼きはふわふわ、ポークもチューリップを使ってるのではないかと思われた。野菜もたっぷり。美味しいけど不健康の代名詞でもあるポーク玉子がこんなにも素晴らしく調理されるなんて。もう、見た目が違う。味付けも絶妙でケチャップ不要だ。だいぶ酔っていたのにガンガン食ってしまった。

気が付けばハイボールを6杯飲んでいた。金田さんは明日、西表に行くと言う。私も午前便で那覇に戻る。店の外に出ると雨が降っていた。二人とも傘を持っていなかったので、ホテルまでの徒歩三分をタクシーで帰る。この距離でタクシーに乗れるのも沖縄県の魅力だ。部屋に戻るとシャワーを浴びてすぐに寝てしまった。明日は雨が上がるといいな。

(Visited 36 times, 1 visits today)