2020年4月6日
刺身盛合せ

北海道釧路市末広町 和食 直

人情酒場と日本文化

知らない土地で店を探すとき、ネットを見たりもするが、やはり自分の勘を信じることの方が多い。ネットの意見は様々な人の見解を寄せ集めて数値化したものである。母集団が私の好みや傾向と一致しなければ、なんら参考にならない。

十割の田舎そばが好きな人ばかりで作成された蕎麦屋ランキングは、二八の更科好きな私にとってなんの意味も持たない。食い物は嗜好品だ。自分が旨いと思うものを食べたいのだから、人と好みが異なれば、参考意見にはならないのだ。「食事なんて食べられればいい。」と言い放つ人は、私にとって論外である。パクチー嫌いの人にパクチーの魅力を語っても、嫌悪の対象にしかならない。

麻辣刀削麺
パクチーと麻辣刀削麺

だから偏食の人とは付き合えない。妻はなんでも食べるので、お互いに食材やアレルギーに気を使う必要がない。二人にとってはこんな当たり前のことが、一緒にどんな料理にでもチャレンジできることが、実は奇跡なのだ。ぎぼむすでも綾瀬はるかが言っていた。「奇跡はわりと身近にある。」高橋一生も語っていた。「僕らは奇跡でできている」と。いいドラマだった。

食事の内容だけでなく、店の雰囲気も大事である。一人のみなら、地元の常連さんがメインの小さな店で、大将や女将さん、ときにはお客さんたちと、静かに話をしながら飲むのが好きだ。ザワザワしている、開放感あふれる居酒屋さんで一人のみをすると、まあまあ失敗する。苫小牧でもやってしまった

このような店は総じてネットでの評価が高くない。自分の行きつけの店に、わざわざ点数をつけるだろうか。客のエゴとして、自分のお気に入りは人に教えたくない、親しい人には教えたいなんて考えは普通である。言ってみれば、「異世界居酒屋のぶ」や「深夜食堂」は、誰もが心の中に持つ、いくつかの理想形を具現化した作品だから人気を集めるのだろう。

それはまさに「人情酒場」、まごうことなき日本文化なのである。

さあ、今晩はどんな店で、何を食べさせてもらえるのだろうか。

和食 直

釧路に来たのは二年ぶりだ。あのときも札幌から飛行機で釧路空港まで飛んだ。夏だった。レンタカーで根室に向かう途中に、蕎麦 宮嶋でランチを食べた。私好みの蕎麦で美味かった。今回は冬。明日は生まれて初めて乗る花咲線で根室に向かう。川沿いのホテルにチェックインして一息つくと、夕食に向かうことにした。

外観

ホテルの近くに店があるのかをネットでチェック。この辺りは繁華街の外れに当たるようだ。ならば自身で歩いて、自分の目で店を探そうではないか。ホテルを出て数分歩いたところに、静かに佇む和食店を見つけた。

割烹のカウンター

これ、いいんじゃないか。私の勘が告げる。躊躇なく店のドアを開けると、店内はカウンターのみ。おお、まさに絵に描いたような理想形。奥の席に座ると、とりあえず生を注文した。ふむ、これは恵比寿のハーフアンドハーフ、樽生か?

エビスビール

お通しはちぢみほうれん草のお浸し、カニがのっている。甘い、葉は柔らかいが、ぐにゃぐにゃではない。茎はシャクシャク、茹で加減が絶妙。しっかりと出汁の聞いた薄味の味付けカニの身も塩っ気は薄く、ほうれん草と一緒に食べると香り良い。ほうれん草のえぐみはまったくない。

ちぢみほうれん草のお浸し

続いては道産あん肝。柔らかい。箸がスッと入る。臭みもなく丁寧に仕事がされているのが分かる。口の中で溶けてポン酢と相まって口の中に美味さが広がる。

道産あん肝

美味。

日本酒が飲みたい。奈良の倭姫の純米吟醸を勧められる。

下仁田ネギのすりおろし。甘いネギの香りが香ばしい。ポタージュだ。あまくてじょうひんなあじだ。

下仁田ネギのすりおろし

鴨鍋、文句なしに美味い。肉と野菜と出汁のバランスが素晴らしい。野菜はクタクタ。肉も硬くない。カモネギとは言ったものだ。

鴨鍋

お造りだ。しめ鯖最高。美味すぎる。松川カレイは脂がのって甘い。ウニはサイコー。昨日、ススキノで食ったものとは別物だ。あれは見た目はゴージャスなのだが、味は道東で食べるものには敵わない。鮮度が違う。甘くて臭みなくて香り良い。マグロの赤身も悪くない。

お造り盛合せ

大将と沖縄の話で盛り上がる。この店には一見さんはなかなか入ってこないらしい。日本酒は福島の洒落。ふっくらして私好みだ。倭姫はスッキリしすぎだ。日本酒は辛口好みの人が多いのだが、私は辛くない酒が好きだ。

真たち天ぷら

タチ天、塩でいただく。サクッとした衣の中にはふわふわとろとろ、クリームのように口の中で溶けていく。たちの香りと甘さがふわっと口の中に広がっていく。

厚岸産生牡蠣

牡蠣は文句なし。厚岸産ということで、かきえもんか、ながえもんか、まるえもんか尋ねたら、どれでもないと。厚岸産の牡蠣でも無印が多くあるとのこと。

握り鮨

寿司はマグロ、松川カレイ、しめ鯖。シャリが小さめで魚がでかい。お造りと同じだが、握るとまた味わいが変わる。どれも旨い。

味噌汁

味噌汁、出汁が効いてうまい。海苔だろうか。ふわふわしてたまらない。

大将は朴訥として、会話はあまり好きではなさそうだった。人見知りしそうな、いかにも和食の職人という感じだ。金曜の夜だというのに、私が帰るまでに、誰も客が来なかった。きっとこれから地元客で盛り上がるのだろう。

季節を変えて、また来てみたい。妻と二人で飲みに来ても楽しいだろうな。

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