百年ハンバーグ

四条河原町駅 東洋亭 チーズハンバーグAランチ

高島屋のレストラン

清水で漬物を調達したのちは、四条河原町で早めのランチを食べることにした。高島屋だ。子供の頃はマヨネーズと高島屋をきちんと呼べなかったのを覚えている。エレベーターもエベレーターと呼んでいた。おそらく四歳か五歳頃の記憶だ。

その高島屋で久しぶり、それもおそらく半世紀近く経つだろう、それほどの時を経て再びここで食事をすることにした。当時と違うのは私が年老いたことと父はすでに死んだことだ。

選択肢はいくつかあるが、京料理はただの和食と変わらないし、とんかつや中華はパスしたい。京回廊と書かれたレストラン街を巡って気になったのは創業100年の洋食屋。明治維新から51年経つのだから、百年前は大正、ハイカラな時代にオープンしたモダンな洋食店ということか。

グリルキャピタル 東洋亭

店の前には数名並んでいるだけだとタカをくくっていたら、とんでもない。店の裏に行列ができていた。すごく混んでる。

店員がテーブルとカウンターのどちらの席がいいか尋ね回っている。かなり年配の男性は耳が遠いのか話が噛み合わない。

「テーブルとカウンター、どちらがいいでしょうか?」
「私はハンバーグで。」

隣に座っていた若い男性が大きな声でフォローしていた。

列が動いた。半分ほど進んで止まった。入りきれないのか。それほど多い人数ではないが、一度に入店するとさばききれないので分けて入れているのか。店内をのぞくと、まだ席に余裕がありそうだ。再び列が動く。小出しに動き出した。一人ならカウンター席で入れるのではないかと目論む。もっと早く並べばよかったと後悔しても遅い。少しずつ前に進む。

入口が近づいてきた。あと数名で中に入れる。頼む、帰りの電車があるのだ。飛行機に間に合わなければ並んだ甲斐がなくなるのだ。ついに店の前まで進んだ。隣のカップルはメニュー会議を開催中だ。ショーケースのサンプルが美味そうだ。

ついにその時が来た。一人客にもかかわらず、店の奥のテーブル席に通された。荷物を持っているから配慮してくれたのだろうか。耳の遠いお爺ちゃんはカウンター席に座っていた。

メニュー

さて、何を食べようか。

やはりハンバーグか。丸ごとトマトのサラダは、グリル燕亭と同じ趣向だろうか。こちらが本家なのだろうか。

それ以外も気になる。

トマトは北海道平取産だと言う。日高の山中、沙流川流域に位置する町だ。チーズハンバーグAランチをセレクト。Aランチはトマトサラダとライスのセットなのだ。

チーズハンバーグAランチ

数分でトマトサラダが運ばれてきた。湯むきしたトマトにきゅうり、オニオン、ツナのマリネが添えてある。

すっとナイフを入れ、トマトを切る。中に詰め物がない。つばめグリルとはスタイルが異なる。みずみずしくフルーティーなトマトが甘い。マリネと合わせるとツナとオニオンの香りが混じり合い、トマトの甘みを引き立てる。酸味控えめのドレッシングもいい仕事をしている。これは食がすすむ。本日も朝食を食べていない。最近は出張時の朝食を抜いている。太ってしまったのだ。美味い。

かぶりついてあっという間にトマトは消滅した。

食べ終えた皿のナイフとフォークも同時に下げる。二人がけなのにナイフとフォークは4本ずつ。ハンバーグが跳ねるのかカバンにはカバーをかけてくれた。素晴らしい老舗ならではのサービスだ。最近はなかなかお目にかからない。

ハンバーグがやってきた。ジャガイモは羊蹄山の「きたかむい」だと説明される。ナイフとフォークでアルミホイルを切るとのことだ。

ほお。

分かった。

ナイフとフォークを新たに手に取ると、黄金色のアルミホイルに裂け目を縦に入れた。これを横に広げる。まさにエヴァ初号機がATフィールドをぶち破る気分である。違うな、プログレッシブナイフは二号機の装備だ。披露宴で妻がケーキに入刀したやつだ。こうしてハンバーグと私の間にある壁を消除して消滅させるのだ。

剥き身となったコア、ではなくチーズハンバーグが私の前に姿を現した。覆いかぶさった熱々のチーズはドミグラスソースの海へと流れ込んでいる。まさに渤海に注ぎ込む黄河のごとしだ。

ハンバーグはあらびきである。固すぎず、柔らかすぎず、力を入れなくともナイフが入る。切り分けた一片を裾野に広がるドミグラスソースに浸す。しっかりと絡ませ口に運ぶ。まずは若干ライトなドミグラスソースの味が広がり、続いて熱々に溶けたチーズがコクを加える。 噛みしめるほどににじみ出てくる肉の旨味、スパイスのバランスがいいのだろう、アクも臭みもない。

これにご飯を食べれば最強だ。玉子があればロコモコ丼だ。ハンバーグを受け止めるのはご飯だけではない。肉山の背後にはほくほくのベイクドポテトがまさに昭和新山のごとくそそり立っているのだ。クレソンの緑が鮮やかだ。真っ白なポテトをフォークで食べる。

ん?

あっさりとした甘さ控えめの味わい、口に入れるとねっとりと滑らかな舌触り、溶けていくような食感だ。不思議なポテトだ。塩バターでも美味いのだが、ソースとの相性もいい。

ハンバーグの奥から付け合わせの野菜を発掘する。インゲン、玉ねぎ、しめじである。特に玉ねぎが甘い。クレソンが爽やか。いやいやいや、すごいボリュームだな。ここまできて引くわけにもいかない。野菜チームの殲滅に注力し、なんとか食べ終わった。ポテトが手強かった。となりの女性は私と同じものを食べ終え、かつデザートを待っている。Cセットか。本当に別腹なのだな。母は強し、子育て世代はなお強い。

気がつけば11時50分。慌てた荷物をまとめて店を後にする。空港に急がねば。

沖縄に着きました

45分遅れで大阪空港を離陸した飛行機は45分遅れで那覇に到着。ロビーから外に出る。

え?

空気が爽やかだ。スコールが降ったらしい。雨上がりの打ち水とはいえ、沖縄が涼しく感じた。気温は31度。京都より7度も低い。昨年あたりから沖縄が避暑地というのも、あながち嘘ではなくなってきた。北海道すら沖縄より暑かったりするのだ。

(Visited 48 times, 1 visits today)