飲食店が二軒しかない町
北海道空知郡上砂川町。北海道で最小面積の自治体である。町を通り抜ける道道115号線こと芦別砂川線は、砂川方面から富良野へ抜けるショートカットなのだが、平成24年の豪雨で不通となり、そのまま放置されている。北海道は直す気がないらしい。通り過ぎる人がいない、用がなければ行くことのない、盲腸のような町である。人口三千人弱。高齢化率は50%を超える。五年間で人口が二割近く減少した。二十年後の人口予測は四百人とされている。その上、町内には数多くの廃墟が存在する。
二年前まで、町には飲食店も24時間営業のコンビニもなかった。もちろん居酒屋もスナックもない。飲むときは砂川まで出る。少子高齢化が進むと夜の商売はニーズがなくなり、不要になるのだ。高齢になると食事は少なく、無頓着になるらしい。おふくろもそうだ。それが町役場の近くにローソンができ、昨年にはランチ営業だけではあるが、飲食店が開業した。この町ただ一人のそば打ち名人がついに店を出したのだ。
これは食べに行かねばならない。だが、私がこの街でランチを食べるのはなかなか難しい。昼間に用事があることなんてないからだ。そのか機会がついにやってきた。新千歳空港からレンタカーでゴー!なのである。
勝寿庵(しょうじゅあん)
上砂川町はざっくりと二つの街から構成されている。明治時代に福井県鶉(うずら)村(現福井市)からの入植から始まった鶉地区と、役場等の行政機関が集まる本町地区だ。昔は本町に上砂川駅が、鶉地区には3つの駅があったが、廃線になって久しい。上砂川駅だけが保存されている。
砂川から上砂川に入ると、しばらくは畑や水田が続く。これが原野に変わると上砂川である。鶉地区だ。この町に農家はいない。店の周りにはたくさんの幟が立っているのですぐに分かる。
メニュー
店の前には大きなメニューが置かれている。定休日は月曜日と火曜日である。持ち帰りも可能だ。
少し早めの時間だからか、店内に客はいなかった。このあたりは通りすがりの人もいない。店に来るのは常連というより、町内の知った顔ばかりだ。そこに見たことがない客が来れば、スタッフが不思議そうな顔をするのも仕方がないだろう。
厨房とカウンターは明るい内装で清潔感あふれている。おろしそばミニ豚丼セットを注文する。店内にはテレビが壁に掛かっている。町の食堂と同じシステムだが、窓から日差しが入る店内は明るく、のんびりとした北海道独特の時間の流れを感じることができるようだ。
おろし蕎麦とミニ豚丼セット
のんびりと時間が過ぎるのを楽しんでいると、蕎麦と豚丼が運ばれてきた。
蕎麦は適度なコシと伸び、喉越し良く、薄口のそばつゆがよく絡む。このつゆはぶっかけに最適である。鼻を抜ける大根おろしと鰹節の豊潤な香りも、蕎麦とマッチしている。ライトなそばつゆを吸った大根おろしのさわやかな辛みが、食欲を刺激する。揚げ玉も天ぷらもいらない。シンプルイズベストなのだ。
豚丼に山椒粉をかける。厚みのあるロース肉からは、香ばしい匂いが鼻を抜ける。ああ、タレと脂が混じりあった、まさに肉感的な香りなのだ。ためらわずに噛みしめる。柔らかい。味付けは控えめで、素材の味をしっかりと引き出している。タレに頼らない、バランスのとれた味付けはホエー豚だからこそなせる技か。
ミニ豚丼を食べ進めるうちに、箸がなにかに当たった。
え?
なんと!豚肉は三枚かと思っていたら、四枚目はご飯の中に隠されていたのだ!まさにミルフィーユ豚丼である。これは嬉しい。ただでさえ肉がたっぷりなのに、ミルフィーユでは肉増し増しではないか。
蕎麦と言えば、なにかと炭水化物に偏りがちで、薬味たっぷりや天ぷらなどで野菜を摂ることはできても、タンパク質は玉子程度しか手軽に食べられないものである。相棒も天丼やカツどん、親子丼であり、カツどんも肉が薄かったり、衣があるために、どうしても炭水化物メインとなってしまう。それが、この豚丼は肉がたっぷり、ご飯と同じくらいの食べ応えがあるのだ。非常にうれしい。たっぷりの大根おろしは生野菜の代わりにもなる。
あとは浅漬けがあれば最高だな。
数年前に五十路となったバツイチ男性。昨日は沖縄、今日は北海道、明日は四国…出張三昧の日々、三年間で制覇した店は千店舗を超えた。日本全国及び海外での食事を記録したブログである。五十路とは本来「五十歳」を意味するが、現代社会では「50代」と誤った認識が定着している。それにあやかりブログのタイトルを名付けた。(詳しく読む…)