急遽、沖縄に帰ることになったが、せっかくだから野菜や鮮魚を買って帰りたい。そんな思いから羽田空港の道中で目を付けたのは京急蒲田。あいにくの雨だが、この駅にはスーパーが併設されていて、ぬれずに買い物ができそうだ。
期待を込めて駅を降りる。買い物を済ませたら朝食もここで済ませよう。なんでも立ち食い蕎麦なのに、クオリティが高い店があるとネットに書かれていた。ぜひとも食べてみたい。その前に物資補給だ。ウィングキッチン京急蒲田に入る。鮮魚コーナーを探す。あった、ここだ。さーて、何を買おう…かな。あー、だめだ。欲しいものがない。品ぞろえがいまいちだ。私が求める鮮魚コーナーではない。
仕方がない、物資補給はあきらめて、飯を食おう。とよじに向かう。歩いてすぐだ。これくらいなら濡れてもたかが知れている。
ううう。悲しい。
立ち食い蕎麦なのに石臼挽き、二八蕎麦。嵯峨谷の二の舞になるのか。海鮮かき揚げ天そばをセレクト。
食券を渡してカウンターに座る。店内にテーブル席はない。7席のみだ。回転が命だ。まずはつゆと薬味を差し出された。水はお約束通りセルフだ。てんぷらの香ばしい匂いが席にまで漂ってくる。
腹が減った。
先客は二名。蕎麦を待っているようだ。のんびりとした時間が過ぎていく。一人の客にはなにか間違ったらしい。作り直しを出したようだ。
立ち食いなのになかなか蕎麦が出てこない。ゆでたてが食べられるのだろうか。店内には、注文してから蕎麦をゆでるとの注意書きがある。
「どうぞ」
カウンターの上にセイロが置かれた。それも正方形ではない、長細いやつだ。その上に鎮座する蕎麦は透明感があり、美味そうだ。そりゃ、千円以上する手打ちのそばには敵わないが、天ぷらも付いて470円だ。ワンコインでお釣りがくる蕎麦がこれか?
自席に持っていく。続いててんぷらのお出ましだ。揚げたてだ。
蓋がわりの薬味の皿を蕎麦猪口から外す。中には蕎麦つゆが三分の一ほど。舐めてみる。ふむ、予想通り辛口だ。ネギをすべて投入する。ワサビはとりあえず半量だ。箸でよく混ぜる。
さて、蕎麦をいただくとしよう。箸で少量をとり、つゆにつける。口に放り込む。
うむ。
口あまり滑らか、喉越し良く、コシもある。しっかりとした食感に蕎麦の香り。ボソボソしていない、粉っぽくもない。立ち食い蕎麦のレベルではない。ちゃんとした二八蕎麦だ。昔懐かしい、街中の蕎麦屋のそれだ。美味い機械打ちの麺だ。辛口の蕎麦つゆと相性もいい。ワサビは案外効いていないので、やはり全量投入なのだ。うむ、箸が止まらないぞ。
忘れてはならない、海鮮天ぷら。半分にカットされているのも立ち食いらしくない。軽く蕎麦つゆにつけて食べる。少し冷めてしまったが、カリカリ。プリップリのエビは食感良く、玉ねぎは甘い。人参はホクホクだ。まるで三重奏(トリオ)。エビはピアノ、玉ねぎはバイオリン、人参はチェロだ。
いや、違う。
エビはイーグル号、玉ねぎはジャガー号、そして人参はベアー号。合体してゲッターワンなのだ。
蕎麦を食べ進む。うーむ、お代りしようか、せいろをもう一枚食べるか悩む。時計を見る。う、時間がない。断念するしかない。
すべて食べ終えると、蕎麦湯を投入だ。この時間に白く濁った蕎麦湯が飲めるのは、立ち食い蕎麦ならではだ。香りよく、胃にしみる。ツンと鼻にくるワサビがたまらない。
満足だ。
やはり料理はバランスだな。
沖縄に戻ろう。
数年前に五十路となったバツイチ男性。昨日は沖縄、今日は北海道、明日は四国…出張三昧の日々、三年間で制覇した店は千店舗を超えた。日本全国及び海外での食事を記録したブログである。五十路とは本来「五十歳」を意味するが、現代社会では「50代」と誤った認識が定着している。それにあやかりブログのタイトルを名付けた。(詳しく読む…)