豚肉の天ぷら

石川県加賀市 加賀温泉 中華料理 爾莱軒 餃子と天ぷら

台風19号の爪痕

これから石川県に向かう。東京から北陸新幹線でちょちょっと金沢まで行けばすぐだと軽く考えていたが、台風19号で水没した北陸新幹線は長野から先がいまだに不通。10編成もの車輛が水没して、通常運転に戻るのはいつになるのか目処もついていなかった。

なんてこった!

それなら空路で小松に行けばいいやと軽く考えていたが、これまた満席。JALもANAも臨時便を飛ばし、飛行機を大型化させたというが、新幹線の輸送力を考えたらまったく足りない。

いやいや、北陸新幹線ができるまでは米原経由で北陸本線であった。特急しらさぎ号に乗れば楽チンだと舐めてかかっていたのが失敗の元。しらさぎ号がまさかの満席。

オーマイガー!

米原からレンタカーで向かうことにした。なんだかんだで、ホテルに着いたのは午後9時半。雨も降ってきた。

中華料理 爾莱軒(にいらいけん)

ホテルの近く、手っ取り早く食べたい。ホテルはリゾート、温泉施設なので部屋に風呂がない。早く食べて風呂に入りたい。山代温泉、加賀市の一大温泉地である。今日は仕事でこちらに来た。ホテルもいつもならビジネスホテルだが、今回はリゾートホテルだ。到着したのは午後9時半。街の明かりが暗い。

腹が減ったので手っ取り早く飯が食いたい。朝に東京駅前で立ち食いそばを食べただけだ。最近、少し腹が出てきたので、ダイエットで食事制限も多少はいいだろう。

ホテルのすぐそばにラーメン店があるとフロントで教えてもらった。たまには中華料理店もいいか。だが、ラーメンはどうだろうか。夜に炭水化物の摂取は避けたいところだ。

ラーメンは回避せねばと思いつつ周囲を探索してみる。スナック、焼肉居酒屋、よくわからない酒屋、バーなど、探し当てたものはいずれも私の食事に向いていない店ばかりだ。焼肉は二日前に食べた。通り沿いにラーメン屋を見つけたのだが、店の外にはメニューも何も書いていない。普通に考えれば餃子などありそうな気がするが、文字のかけらも見当たらない。やめておこう。

結局、10分ほどを無駄に消費しただけだ。結局、最初に立ち寄ったホテルのすぐそばにあるラーメン店で食事をすることに決めた。店内に客がいないことも決め手の1つだった。今晩から加賀温泉には、全国から酒飲みが集まっている。今頃は二次会も終わり、ほどよくお酒が回っているだろう。泥酔者の集団にシラフの人間が混ざるのは、塩素系洗剤に酸性洗剤を混ぜるようなものだ。非常に危険なのだ。

扉を開けて店に入る。店内は昭和の臭い、昔ながらの中華料理店の趣である。老夫婦が切り盛りしているようだ。おそらくあと10年もしないうちに閉店するのだろう。ここにも事業承継の問題が存在しているのである。

メニュー

さて、何を食べようか。メニューを見る。壁に書かれている料理の札を見ながら考えていたのだが、手元にメニューがあることに気づいた。

手に取ってみる。ベタベタする。店の換気扇が吸いきれなかった空中に漂う油が、少しずつ少しずつメニューに付着し、酸化して粘着したのだろう。こんなところにも年期を感じさせるが、できれば拭いて欲しい、手がぬるぬるして気持ち悪いではないか。

やはりラーメンや焼きそばを食べる気にはならない。

いくら名物でもラーメンは要らない。あさりラーメンって、そもそもこのあたりの海ではあさりが獲れないように思うのだが。まあ、鮮魚店に行けば輸入物も売っている時代だ。

何か酒と一緒に食べるようなメニューは無いだろうか。まず餃子は鉄板だ。不安は無い。次に目に入ったのはマーボードーフ。しかしここは中華料理店だ、大陸の本場の味のはずがない。却下だ。野菜炒めにしようか、それとも酢豚にしようか、八宝菜と言う手もある。ふと、ひとつの料理に目がいった。豚肉の天ぷら。なかなかお目にかかれない。私にとってはとても思い出深い料理だ。これが置いてある店は決して多くない。むしろレアである。

子供の頃、京都市内の中華料理店に家族でよく食べに行った。鴨川沿いの大きな店だ。今となってはどの店のか分からない。いつも父が頼んでいたのが豚肉の天ぷらだった。厚めのロース肉をカリカリに揚げた中華風の天ぷら。今から思えば、花山椒粉などをつければさらに美味しくいただけたのだろう。

豚肉の天ぷらはマストだ。決まりだ。それに餃子。ビールはサッポロ生である。ついでにザーサイも注文する。久しぶりに食べたくなった。中国の魚泉搾菜が理想なのだが、そんなことは言ってられない。

客はまだ誰もいない。きっとこの時間帯は谷間なのだろう。早い時間と遅い時間が忙しいと見た。

テーブルに置いてある調味料はシンプルだ。胡椒とラー油、それに餃子のたれだ。

搾菜と餃子と天ぷら

まずは搾菜。期待して口に入れる。うぶっ!…しょっぱい。搾菜とは、こんなにも塩辛い物質であっただろうか。素材の味がまったくしない。塩味しかしない。ザーサイの風味が台無しだ。これはきつい。

ふと思いついて、茶碗に搾菜を入れ、冷水を注ぐ。塩抜きだ。5分ほどして試食する。少しはマシになったが、やはりしょっぱい。つまみとして食べるのは無理だ。

餃子は皮がずごく薄い。あっさりした味だ。これなら二人前くらいスルッと食べれそうだ。

豚肉天ぷらは衣がしっとり、フリッターのようだ。贅沢に豚ロース肉を揚げている。肉の味をしっかりと味わえる。塩胡椒をつけながら食べていたが、ふと、塩抜きザーサイをのせてみた。おお、これはいける!もっと早くに気づけばよかった。

食事をしていると、ガラッとドアが開き、一人の若い男性が店に入ってきた

「大将、今から8人来るけど大丈夫?」

嫌な予感がする。こんなところでスーツ姿の酔っ払いと鉢合わせして巻き込み事故に遭うのは勘弁だ。入口に背を向け、そそくさと食事を済ます。メニューには書いていないが、壁には角ハイボールのポスターが貼られていた。二杯目は角ハイと決めていたのだが、長居は無用である。豚肉の天ぷらが思いのほかボリューミーで、結構お腹がいっぱいになっていた。ビールもちょうど無くなった。

今が適時だ。

入ってきた団体客は、声からしてやはりそれほど年老いてはいない。副会長がどうとか挨拶で話している。私は一切そちらに目を向けなかった。下手に目が合えば何が起きるかわからない。まったくの他人であれば何の問題もない。だがそうである保証は無い。今、私が今日と言う日を穏便に、平和に、何もなく、無事に終わらせるためには、この店から一刻も早くさっと出て、何事もなかったかのようにホテルに戻ることだ。

お座敷席に背を向けたまま、素早く会計を済ませると足早に店を後にした。あとはコンビニで酔っ払いの集団と遭遇しないことを

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