懇親戦が終わって
戦いが終わった。敵は重装備だったが、なんとか乗り切った。バズーカに込められた純米吟醸酒は一升瓶10本。さらに、日本酒を詰めた農薬噴霧器、いや日本酒強制注入機が四機。敵は迷彩服に身を固め、狙撃要員まで用意していた。突撃ラッパとともに会場に乱入してきた。我々は丸腰での参戦となったが、耐えてみせた。
ところが、会場、いや戦場となった出雲ドームが寒い。全国的な冷え込みで、想定外のことが起きたのだ。ドーム上部の空気が冷たい外気で冷却され、下に降りてくる。暖かい空気が押し出されて上に行き、冷やされる。こうしてドーム内は冷却炉と化し、冷蔵庫となった。すしはシャリまで冷たく、熱燗はすぐに冷酒になる。ビールはいつまでも冷えているが、寒くて胃に酒が入らない。唯一の暖はしじみ汁だ。ドーム内は消防法により、暖房が使えないのだ。
少し早めに1500人参加の懇親会は終了した。あまりの寒さに、途中で参加者が帰ってしまい、最後まで残ったのは三分の一程度だった。まずは冷えた体を温めたい。戦場からの脱出手段は唯一、送迎バスだ。慌てて乗ると、身体が温まってきた。腹も減ってきた。バトルフィールドから飲み屋街に生還すると、私は昨日の帰りに見つけた寿司屋に向かった。
一昨日の晩、すし政の帰りに、気になる店を見つけたのだ。さすがに寿司屋のはしごはきつかったので、翌日にしようと思ったのだが、昨日は行けなかった。今日こそ、まさにリベンジの日なのだ。ひとり、飲み屋街から外れて、目的の寿司屋に向かう。あれ?店は開いているが、入口の電気が消えている。店に入ると、店主が困ったような顔で言った。
「すいません、今日はもう閉めちゃったんです。」
まだ午後9時過ぎだ。仕方ない、二次会に会場に向かう。北海道の仲間が集まっている。遅れて参加した私は、真椎さんの隣に座った。腹が減るっていることを伝えると、真椎さんが言った。
「近くの空海ってラーメン屋、なまら美味いよ。塩ラーメン。」
やはり!私もその店は気になっていた。美味いオーラがプンプン漂う店だ。そうか、ならば食べに行かねば。
ラーメン空海
二次会が終わり、ひとりラーメン屋に向かうと、知人ら3人のグループが同じタイミングで店に入っていった。後をつけるように私も店に入り、彼らが座るテーブルの隣のカウンター席に一人座った。
メニューは四択だ。空海ラーメン、地獄ラーメン、夜鳴きラーメン、海老だしラーメン。あれ?塩ラーメンがない。店員に尋ねる。
「塩ラーメンはありますか?」
「うちは醤油だけですね。」
真椎さん、どういうこと?三人は空海ラーメンと地獄ラーメン、海老だしラーメンを注文する。ちなみに夜鳴きラーメンは?と店員に尋ねる。
「空海ラーメンからチャーシューと煮卵を取って、ネギと梅干し、ノリととろろ昆布をのせたものです。」
意味がわからん。悩んでいるうちに、三人のラーメンが来た。空海ラーメンの感想を聞く。
「いまいち。」
地獄ラーメンの感想を聞く。
「辛い。」
海老だしラーメンの感想を聞く。
「よくわからない。」
消去法で夜鳴きラーメンと餃子、麦焼酎炭酸割りを頼んだ。
店内には製法が解説してある。生マグロに生サンマに鰹節。味が想像つかんな。
先に出てきたのは餃子だ。ま、いいか。腹も減ってるし。タレにつけて、一口食べる。美味い!薄い皮がパリパリで、中身の肉がジューシー。酒に合う。日本の餃子はこうでなければならない。
夜鳴きラーメン
なんじゃこりゃ?とりあえず、スープを飲む。醤油ラーメンということだが、塩っぽい。あっさりだけどコクがある。次は麺だ。縮れ麺にスープがよく絡む。煮卵もチャーシューもないが、これが正解?塩ラーメンと勘違いするのもわかる。隣の客も塩っぽいと言っている。
美味い。なまら美味い。
具は海苔とネギととろろ昆布に梅干しだけだ。酔っ払い専用なのだろうか。
「ブホッ!」
隣は地獄ラーメンでむせている。相当辛いらしい。頼まなくて正解だが、食べたい気持ちもある。
期待していなかっただけに、このうまさに感動だ。麺と一緒に食べる、シャキシャキする生玉ねぎのあっさりした辛みがいい感じだ。食べ進むうちに麺が無くなった。大量の野菜がまだスープの中に残っている。ヘルシーなのか?だが、これも美味い。やがて野菜も食べ終わると、スープを飲み干して完食だ。
当たりだ。
隣は地獄ラーメンにまだ手こずっている。5upごとに百円だ。どんだけ辛いんだ。頼まなくてよかった気もする。とにかく、私の腹は満たされた。満足じゃ。ホテルに帰って寝よう。疲れた。
しかし、世の中、そんなに甘くない。帰りに吉良に捕まって店に連行され、寝たのは1時過ぎだった。
数年前に五十路となったバツイチ男性。昨日は沖縄、今日は北海道、明日は四国…出張三昧の日々、三年間で制覇した店は千店舗を超えた。日本全国及び海外での食事を記録したブログである。五十路とは本来「五十歳」を意味するが、現代社会では「50代」と誤った認識が定着している。それにあやかりブログのタイトルを名付けた。(詳しく読む…)