鼓汁蒸鳳爪 鶏足の豉汁蒸し

香港 金鐘駅 Metropol Restaurant (名都酒樓)

本場の飲茶

飲茶とは、主に広州地方(香港・マカオを含む)の食事スタイルで、中国茶を飲みながら点心を食べるものである。

点心とは、中華料理における軽食のことである。ちなみに小吃も軽食と言う意味である。では小吃と点心はどう違うのかと言うと、点心は広州料理のみだが、小吃は中華全般に使われることと、気軽に屋台等で外食できる料理全般を指す。

点心を北京語ではDianXinと表記するが、香港ではDimSum、シンガポールではTimSimと表記されていることが多い。これは香港では広東語、シンガポールでは福建語かなにかが用いられてきたからではないかと思う。名物の海南鶏飯は海南島の家庭料理が起源である。東南アジアにおいて「中国語」は必ずしも北京語を指さない。

かつてシンガポールに駐在していた知人が、同じ漢字名でも人によって発音が違うので、間違えると大変だったと聞いたことがある。元妻とタイを訪れたとき、国のキャンペーンで通訳が無償ガイドをすると言われ、中国語の通訳を選択したところ、中国人の妻(北京語)とまったく会話が成り立たず、結局英語で話をしたこともあった。

20年ほど前にシンガポールを訪れたとき、見た目は中国人であるタクシーの運転手に、元妻が「北京語の発音がきれいですね。」と言ったところ、「子供が学校で覚えてくるからね、私はもともと北京語を話せないよ。」と返された。

シンガポールの話は置いといて、香港での飲茶は日本で食べるのとはだいぶ違うと思う。食材や調理器具、食品衛生上の観点の違いもあるだろうが、日本の点心メニューは少ない。中国料理では日本人が苦手な食材や味付け、調味料などが多用される。本場の味に慣れ親しんだ者には、どうしても物足りないのだ。

名都酒樓

本日のランチは金鐘駅から直結しているビルの四階、名都酒楼である。専用エレベーターでレストランまで行くことができる。

三年前にもこの店を訪れた。なかなか美味しかったので、期待できる。そして本場の飲茶を味わえる。個人的には香港ではもっぱらプーアル茶を飲んでいる。あの独特の香りが好きなのだ。

現在時刻は12時半。平日のランチタイムである。ピークを過ぎたとはいえ、店内はほぼ満席だ。予約しておいたので問題ない。受付で告げられたテーブル番号を探す。店内の中央よりに予約席を見つけることができた。

オーダーの方法は三つ。店内中央のオープンキッチンに行き、好きな料理を取る。そのときに伝票にスタンプを押してもらう。伝票は一席一枚なので、誰かが代表して伝票を持ち歩かなければならない。もしくは、店内を動き回っているワゴンを停め、欲しい料理を指さすと料理が卓上に置かれ、伝票にスタンプが押されある。卓上のメニューから料理を選ぶときは店員に料理名を告げる。オープンキッチンでは提供できない麺類や米飯類等の料理が含まれる。

まずはせいろ料理

私はテーブルで留守番だ。眼前に次々とせいろが運ばれてくる。焼売、蒸し餃子、小籠包、ちまきなどなど。

なかでも私の大好物は「鼓汁蒸鳳爪」、もみじ(鶏の脚)のトウチー蒸しである。鶏の脚を甘辛く味付けした料理である。味の染みたコラーゲンたっぷりの鶏脚を食べると、中からはぷりっとした食感の筋がでてくる。見た目はグロいが、味も食感も楽しめる一品なのだ。日本ではなかなか食べられない。

鼓汁蒸鳳爪

海老焼売はでっかい海老がプリプリの食感。味も濃い。豚肉と海老のマリアージュ。さすが香港。一つ食べたらお茶を飲む。口の中がさっぱりする。ビールもいいが、お茶もいい。飲茶と言うくらいだ。

海老蒸し餃子も焼売に負けず劣らず美味い。こちらも大きなエビがぷりっぷりで味が濃い。日本の中華ではこうはいかない。

揚げ物と焼き物

続いては春巻きである。皮がパリパリである。美味い。日本の春巻きは美味しい店と不味いものが極端だ。スーパーで売られている冷凍春巻き、さらに言えば業務用、あれを使ったオードブルの春巻きは最悪だ。皮だけ食った方がましだとさえ思う時がある。

飲茶を代表する料理である、大根餅。甘い。久しぶりに食べた。見た目からは想像できないが、なかなかに手間のかかる料理である。自宅で作ろうとは思わない。

これも日本ではなかなかお目にかかることができない、脆皮乳豬(仔豚のカリカリ焼き)である。クリスピーな皮に甘い豚の脂、ジューシーな肉汁が口の中で相まって、一つになり、旨味と化す。そしてお茶でさっぱりさせ、次の一口に備える。ああ、飲茶は人を幸せにする。さすが香港、食在広州(食は広州に在り)は伊達じゃない。

オープンキッチン

少し腹も満たされてきた。テーブルの上に運ばれてくるものも減ってきたので、自分で店内を見て回ることにする。

おお、腸粉。腸と言う字は付くが、モツは入っていない。見た目と触った感じが動物の腸に似ているからだろうか。米粉から作られた、ぷるんぷるんの生地に豚肉やネギを混ぜて焼いたものだ。これにオイスターソースや辛いソース、醤油などを好みの調味料をつけて食べる。日本ではなかなかお目にかかれない。美味かった。

中華粥のコーナーだ。朝食にも食べたが、トッピングの種類が多い。個人的に一番好きな粥は「皮蛋痩肉粥」だ。これは皮蛋の赤身の牛肉が入った粥である。日本と違い、粥のバリエーションも豊富なのが特徴なのだ。

トイレに行く途中、店の端に見つけた調理場。麺や炒飯などはここで調理され、テーブルに運ばれてくる。

そして締めである

夕食は炭水化物を控えているが、ランチではしっかりと食べることにしている。中華料理の醍醐味の一つは麺料理だ。スープに入った麺料理が食べたい。メニューを見てみる。

私のセレクトは雪菜肉絲窩米なのだ。米は米線と言い、米粉でできた麺である。タイ料理のセンレックみたいなものだ。雪菜は高菜だと言う人もいるが、別種である。雪菜も高菜もカラシ菜の変種である。窩は日本語で「鍋」のことだ。

見た目は具沢山で美味そうだ。これはBig Bowlだ。思っていたよりもかなり大きい。皆で食べるとはいえ、通常サイズでよかったかも…と不安がよぎる。

小椀に取り分ける。麺が細い。センレックではなくセンミーだ。味はかなりさっぱりしている。少量の醤油を足すと、コクと塩気がまして味わい深くなる。

最後はデザート

普段はデザートなど食さないのだが、誰かが運んできた白と黄色の物体が気になった。これは恐らく腸粉だろうか。豆花もスイーツに使われるが、腸粉も同様らしい。調べるとスイーツ専門の腸粉を出す店もあるようだ。

デザートだからなのか、プラスチックと言うか、アクリル板のような輝きを持つその料理は、先に食べた伝統的な腸粉とは異質に思えた。いや、これは無機質なのではない。おそらく女子が好きな、中国人が好きなパールを模した輝きなのだろう。勝手にそう思い込む。

食べてみる。さわやかな甘さの腸粉のぷるんぷるんとした食感に、甘酸っぱい上品なマンゴーソースの味がマッチする。これは美味い。おじさんでもオイシイと思える。いかにも女子が好きそうな料理だ。沖縄で観光客向けにライスロールケーキとか言って、店を出したらウケんじゃね?みたいな。

こうして飲茶ランチは幕を閉じた。ああ、満足だ。仕事をせずに、このままホテルに帰れたら、どれほど幸せだろうか。それがかなわぬ夢と分かっていても、願わずにはいられないのだ。

(Visited 29 times, 1 visits today)