寿司 和路(わらじ)
熊本県人吉市、この街で夕食を食べようと店を訪ね歩いてすでに5軒目。すべて満席。いまだディナーにありつけない。ああ、この見知らぬ街でなんの情報もない中、私はどこで食事をすればいいのか。あてもなく街をさまよう。ふと、見覚えのある景色に出会った。ここは以前、食べにきた寿司屋だ。その向かいのビルの一階に別の寿司屋を見つけた。
壁に貼られたメニューを見る。もう、ここでいいかな。これ以上、探すのはもう疲れた。半ばヤケ気味で店のドアを開けた。
メニュー
カウンター席に案内されると、とりあえず生を注文、改めてメニューを見る。
お通し
ウドのきんぴら。ゴボウのような歯ごたえではなく、ソフトな感触。上品な出汁で作った薄味のウドが、口の中で独特の香りとほのかな苦味を展開する。いいなあ。沖縄では食べられない味覚である。
ほうれん草
茹で具合が絶妙、シャクシャクしてるが筋張っていない。白和えも自己主張ご控えめでごまごましていない。バランスいい味わいだ。
ウド酢味噌和え
シャクシャクと気持ちいい食感、噛むたびに口の中に広がる爽やかなウドの香り、それを支えるかのようなミョウガの味わい、最後にツンとくる酢味噌の刺激。春の味覚だ。これは癖になりそうだ。
緑のソースは山椒が効いて鼻に抜ける。まるで若いグァバのようなウドに香りを添える。付け合わせのクレソンも鮮烈な香りがする。初夏を思わせてくれるかのようだ。
木の芽と酢味噌とウド、すべてが一体化し豊かな香りを醸し出す。これは美味い。うどってこんなにもうまかったか。この季節、山菜は終わり、鮎はまだ禁漁だ。しかしウドは今が旬で美味しいのだと店主。
ここで香露の特別純米酒をオーダー。スッキリして飲みやすい。これはいい。料理に合う。
トイレは広々として清潔だ。温水洗浄便座である。
揚げ出し豆腐
しっかりとした味のする豆腐に負けない出汁。バランスがいい。上品な味にまとめているのがすごい。
わさび細巻き
わさび細巻きをオーダーする。わさびの根を叩いて巻いたものとのこと。だいぶ効くらしい。確かにわさびの風味が刺激的だ。咳き込んでしまった私を心配して店主が声をかけてくれた。
しめ鯖
見た目に少々締めすぎな気もする。生姜醤油で食べる。思ったよりも浅く締まってるのは嬉しいが、やはり酢締めは生姜と合わない、わさびをお願いする。うん、わさびが効いている。これは生のおろしだ。
「私もサバが好きでねえ、こちらでは柚子胡椒で食べるんですよ。」
そう言われると食べたくなる。柚子胡椒をいただき試してみる。
ん?これはありだ。
醤油をつけないので、ワサビ本来の香りと旨味を堪能できる。つけすぎると辛味が立ってしまうので、バランスをつかむのにコツがいるのだが、ちょこっとつけるだけでオーケーだ。刺激的なわさびじょうゆと、個性的な柚子胡椒を交互に楽しむ。
ごちそうさま
翌日、打ち合わせで地元民と会う。昨晩はどこで食べたのか尋ねられたので、和路で食べたと告げる。
「あそこ、高いでしょ。美味いけど。」
そんなことはない。六千円であった。
「いや、人吉では一番高い店ですよ。」
確かに、この街は飲み屋も安い。安くて美味いものが食えるなんて、贅沢ではないか。次にこの街を訪れた時にはなにが食べられるのか、楽しみだ。
数年前に五十路となったバツイチ男性。昨日は沖縄、今日は北海道、明日は四国…出張三昧の日々、三年間で制覇した店は千店舗を超えた。日本全国及び海外での食事を記録したブログである。五十路とは本来「五十歳」を意味するが、現代社会では「50代」と誤った認識が定着している。それにあやかりブログのタイトルを名付けた。(詳しく読む…)