夜は何を食べようか
ランチに会社の女子たちと瓦そばを食べ、会議を終えてから羽田空港に向かった。鹿児島行きのフライトに乗り、空港からはレンタカーで熊本県人吉市へ。鹿児島空港から人吉まではバスも走っているのだが、接続がひどく悪い。どうやって時刻表を組んでいるのか、バス会社を詰問したくなるほど、タイミングが合わない。那覇発の便と言った、マニアックな便ではなく、大動脈の羽田便でこのザマだ。
仕方ないので、レンタカーを借りて移動することにした。レンタカーのいいところはワガママがきくことである。自分のペースで好きな場所に移動できる。レールの上を歩くような人生とはおさらばなのだ。悪いところは自分で運転しなければならないところである。これがバスならば、寝ていようが、ネットを見ていようが、やりたい放題である。他人が敷いたレールに乗るのは楽チンなのだ。
天気は快晴。空港からすぐに高速に乗り、人吉に向かう。19時には人吉に着いた。宿は「あゆの里」である。ここは飯がうまいのだ。この日は地元の知人らは用事があるとのことだったので、一人で何を食べようか考えていた。
熊本県とはいえ、ここは鹿児島県と宮崎県の県境に位置する。馬刺しやラーメンと言った選択肢はない。それ以前に和食ばかりが続いたから、違うものが食べたい。でも中華はないなあ。洋食はどうだろうか。ネットではあまり情報がない。仕方ない、天ぷらでも食べようかと思ってきたところに、知人で嫁と歳が近いアキラから電話があった。
「店を用意してあるので八時に来てください。」
少し時間がある。せっかくなので、球磨川の夜景を撮影してみた。右奥に人吉城跡の夜桜が写っていた。
試しに星空も撮影してみたが失敗。幹線道路沿いで撮れるわけもないか。そして、言われた場所に向かう。
ここ?
どこにも店がない。通りがかりの人に聞くと二階だという。そう言えば、アキラが二階とかなんとか言ってたような。
階段を上ると、店が現れた。おお、洋食店ではないか。私の心を読んだのだろうか。これは嬉しいぞ。
MALT L&A U·S·HOUSE
店に入ると、アキラが待っていた。もう一人、ヨシトも遅れてくるそうだ。アキラがすでにピザとパスタを頼んでおいたと言う。
若い。
若いなあ。
これが若さか。
初手から炭水化物二連発など、年老いた五十路の男には想像もつかない。いきなりメインが来てしまったら、締めは何を食べればいいのか。そもそも私は野菜が食べたい。メニューを見る。
ふむ、ほうれん草とベーコンのサラダをいただこうではないか。
「それ、おすすめですよ!」
アキラが言う。これだよ、野菜とタンパク質、糖質ゼロ。これが大人の、いぶし銀の食事なのだよ、分かるかね?チミ。
早速、出てきたのはピザ。チーズがとろとろでうまい。エビがプリップリだ。噛むとパチンと弾けるような弾力がある。もちろん力強いエビの味もする。
続いてパスタ。これも美味い。ペスカトーレなのに、ほうれん草が入っているのがユニーク。味も素材とソース、パスタがバランスよく、調和がとれている。
続いてはほうれん草とベーコンのサラダ。甘いドレッシングがほうれん草にマッチしてうまい。カリカリに焼けたベーコンは香ばしく、食欲を刺激する。
まだまだ食べる、人吉イタリアン
なにかアラカルトが食べたい。店主におすすめを尋ねるとアヒージョはいかがでしょうかと聞かれた。うーん、エビは先ほどピザで食べたので、他の海鮮にしてほしいとワガママを言ってみた。特注品だ。知人の店だから、こんなリクエストも気ままにできるのが嬉しい。いや、おそらく一見さんの客に対しても同じだろう。
出てきたのはホタテとタケノコのアヒージョ。ホタテは北海道産だろうから、こんなものだろう。タケノコがが予想外にうまい。驚いた。食感もよく、香りもたつ。アヒージョで調理され、濃縮された旨味が口の中に広がる。タケノコはいろんな料理に使えるのだと、改めて気付かされる。
よし、次は肉料理だ。なにがあるのだろうか。
ステーキはパスだな。チキンも気分ではない。揚げ物もちょっとなぁ…となると、消去法で豚肉のマスタード焼きになるが、これはむしろ食べてみたい。よし、こいつにしよう。
「これ、マジおすすめですよ!」
アキラが叫ぶ。見た目はチャラくてお調子者のようだが、実際は、かなり漢気(おとこぎ)あふれる人物である。
豚ロースマスタード焼きはうまいのだが、すでに腹がいっぱいで味わう余裕がない。失敗だ。最初に炭水化物が多すぎだ。これだから若い者は。ブツブツ。
そこにヨシトが遅れて来た。腹が減っていると言いながらパスタをオーダー。改めてメニューを見ると、パスタもなかなか充実している。麺の変更も可能である。腹が減っていれば、牛頬肉のラグーのスパゲティなんて食べてみたい。ラグーとは、材料を細かく刻んで煮込んだ料理を指す。ミートソースもラグーの一種だ。
ヨシトが頼んだパスタは写真だけ撮らせてもらう。旨そうに食べるヨシト。うん、食べ方で味が伝わってくるよ。でも、これメニューにないなあ。タコと季節野菜のパスタだろうか。日替わりなのか、店主おすすめなのか。うーむ、悔しい。食べる余裕も別腹もない。ただ、ひたすらハイボールを飲むだけだ。
ヨシトが来て、ようやく酒飲み相手が見つかった。アキラはずーっとノンアルコールだ。もう三か月も酒を飲んでいないという。
「願掛けですよ~」
チャラく言っているが、彼の身内に10万人に一人と言う難病にかかった者がいて、治るまで断酒しているのだ。
さて、酒も食い物も満足だ。明日も早いから、今日は二件目無しで帰ることにしよう。ヨシト、ごちそうさまでした<(_ _)>
数年前に五十路となったバツイチ男性。昨日は沖縄、今日は北海道、明日は四国…出張三昧の日々、三年間で制覇した店は千店舗を超えた。日本全国及び海外での食事を記録したブログである。五十路とは本来「五十歳」を意味するが、現代社会では「50代」と誤った認識が定着している。それにあやかりブログのタイトルを名付けた。(詳しく読む…)