豚キムチ肉玉ごはん

広島市 中電前駅 てんやわんや 豚キムチ肉玉ごはん

新しいお好み焼き

広島県広島市では、今までに広島県内には何度か訪れているが、広島市内に宿泊するのは修学旅行以来だと思う。実に35年ぶりだ。広島と言えばお好み焼き、やはり本場で食べないわけにはいかないだろう。

外はしとしとと雨が降っている。夏もそろそろ終わりだ。すでに暗くなり始めている。なるべくホテルの近くで食事を済ませたい。成人してから初めて来るくらいなので、どこか繁華街なのかも分からない。今どきなのでネットで調べればすぐに分かるのだろうか、雨のせいなのか、それすら面倒くさい。とにかく近場で飯を済ませて、部屋飲みしてサクッと眠りたいところである。

幸いネットでホテル近くに面白そうな店を見つけることができた。正統派の店ではないようだが、うまいものは食えるらしい。早速、傘をさして目的の店に向かった。

ここか。

ネットには場所が分かりにくいと書かれていた。その通りだ。しかも二階なので、階段を登らなくてはならない。

店に近づくと晩酌メニューの案内が見て取れた。

階段を上がる。ここが口か。ドアを開けて店に入る。家族経営の店だろうか、子どもが食事をしていた。客は誰もいない。一番奥のテーブルに陣取ることにした。

てんやわんや

壁には様々な情報が溢れていた。まずはユニークメニュー。ワニだけでも珍しいのに、ワニのテール刺身に激辛れんほう焼き。下部に記載されているURLにアクセスしてみるが、エラーになる。

なんだ?

調べてみると、このドメインは杉本泉、通称すぎせんという方がお持ちだったようだ。この方は南天小町という会社の取締役で…あれ?この店を経営してる会社じゃないか。さらに調べると、現在の店のホームページはhttps://www.ten818.com/だ。「サイト責任者 杉内 泉」との記載がある。なるほど、店主は奥さんで、調理担当が旦那さんか。この方は前職がIT企業と書いてあった。

メニューを見る。魅力的な料理が数多く並んでいる。

壁には写真入りのメニューとサイン色紙。野球選手が多いようだ。

厨房の奥に本日のおすすめが数品。広島菜漬が気になる。

とりあえず食べるものを決めてオーダーする。ご夫婦で切り盛りしているようだ。奥さんが代表取締役とウェブには記載があった。厨房からは牡蠣とバターの芳しい香りが漂ってきた。ラジオから流れるは昭和のサウンド。家族で営む小さなお好み焼き店はアットホームで居心地がいい。

メイン料理は何にしようか。やはり、お好み焼きを食べたいところだ。激辛蓮舫焼きはやめておこう。蕎麦サラダも気になるが、猛烈に気になるのは「豚キムチ肉玉ごはん」だ。広島焼きはそばを使うものなのだが、それがごはん。

美味いに決まっとるやんけ!

だが、夜に炭水化物は食べないと決めていた。心が揺らぐ。旅先の食事は一期一会。次は無いと思った方がいい。この店はまた次の機会にとスルーして、月日を置いて尋ねてみたら、別の店に代わっていた、もしくはメニューが亡くなっていた、店主や調理人が別人に変わっていたことが、何度となくあった。だからこそ、今この瞬間をひとつずつ、大事に生きなければならないのだ。自分の人生だって、突然の幕切れで終焉を終えるかもしれぬ。

牡蠣バター焼き

たっぷりとレモンを絞って食べてみる。中粒の牡蠣は、炒めることで濃縮された旨味が、口の中で一気に弾ける。カキフライにも似た、いや、衣がない分、ダイレクトに牡蠣を味わえる。付け合わせの野菜がたっぷりなのも嬉しい。あっさりとしたドレッシングが牡蠣ともマッチする。ああ、生野菜が旨いと幸せな気分になれる。

ビールがなくなった。嬉しいことに角ハイがあるではないか。

豚しそ巻

たっぷりの大葉に巻かれた豚バラ肉を塩胡椒で炒めた料理。豚の脂をたっぷりと吸着した大葉から発せられる香りと旨味が豚肉の魅力を引き出し、味わいを広げる。これはありだ。なんの気は無しに角杯のレモンを絞ってみた。驚いた。レモンが豚肉の旨味を一段と引き上げる。たっぷりの野菜もたまらない。今度はごまドレッシングであった。料理ごとに野菜の味すら変化させる、こまやかな気遣いと料理への愛情に驚嘆せざるを得ない。

広島菜

野沢菜に似た味わいだ。調べてみると、高菜、野沢菜と並ぶ三大菜漬けとある。アブラナ科の葉野菜で白菜の仲間だそうな。なるほど、似てるわけだ。

結局、豚キムチ肉玉ご飯を頼んでしまった。今回の広島滞在中、自分の意思で食事ができるのは今晩だけなのだ。明日のランチは弁当、ディナーはホテル飯。明後日の昼前には沖縄行きに乗り、ランチは機内食なのだ。まさにレールが敷かれた人生。先の見えた将来ほどつまらぬものはない。

「塩ニンニクはらみ」

隣に来訪した団体客がオーダーした。てんやスペシャルは六等分できないとのことだ。気になる。だが、私の胃は、次の一品が最後の料理となろう。

豚キムチ肉玉ごはん

豚肉と玉子入りにお好み焼きをご飯の上に載せ、さらに豚キムチをトッピングした一品。カリカリのご飯は、そばに勝るとも劣らない。たっぷりのキャベツともやしに豚キムチのコクのある辛味。まさに日韓交流。これはたまらない。箸が止まらない。ひたすら食べる。しかもボリュームがある。

5分ほど前に来訪した、地元の芸能関係者らしい団体客から会話が聞こえてきた。

「茨城は『いばらき』って言うのに、茨城県民は気にしないよね。」

違うのだよ、茨城県民が訛っているだけなのだ。埼玉は北関東かだと?愚問だな。埼玉県民は明後日に選挙でも行かせておけ。

ん?そういえばマヨネーズをかけなくていいのか?ふと我に返って、卓上のマヨネーズをかけてみる。むちゃくちゃリッチな味わいだ。かけて正解、翔んで埼玉!ここは広島。

お腹いっぱい。帰ろう。

会計を済ませて店を出ようとしたとき、頭上に青い暖簾を見つけた。ああ、ここは広島なんだな。食事以上に広島を実感させられたのだった。

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