支那そば梅干しトッピング

広島市流川 支那そば 花いちもんめ 梅干しトッピング

広島の締めはなんだ?

夜中に食事をしてはダメだと思いつつ、すでに三軒をはしごして判断能力は鈍り、記憶力も低下し、意思無能力者一歩手前の人間に、本能に逆らう理性などない。

腹が減ったのだ。
空腹なのだ。

懇親会でお好み焼きがぜんぜん焼けないから、あまり食べられなかったのだ。広島焼きは焼けるまでに時間がかかる。

あ、ここは広島だ。広島カープの悪口と「広島焼き」は禁句だ。お好み焼きと言わねばならぬ。

酩酊手前のおっさん二人でフラフラとさまよう広島の夜。地元のオススメはつけ麺と汁無し担々麺だ。だが、私は日本の担々麺を…好かぬ。つけ麺はスープが飲めないので却下である。

ならばステーキか?ビフテキか?ここは沖縄か?シャトーブリアン専門店。悪くない。だがしかし、いまいち食べる気がしない。

花いちもんめ

ん?ふと、目の前に気になる店が出現した。渋い、入口がわからない。

店の前で能書きを読み取る。

麺 小麦本来のほのかな甘みとコシのある自家製熟成中華麺
だし 何種類もの天然素材を活かした旨味とコクの和風だし
肉 鴨肉の滋味深い味わい。ビタミン、鉄分、コラーゲンたっぷり

メニューはエアコンの室外機に阻まれて読めぬ。

なかなか良さそうではないか。店内に入ると店は満席。二階で待てと言う。外に出て階段から上に上がった私は目を疑った。

倉庫?

メニュー

お品書き。支那そば、和風つけ麺、梅しそ支那そばの三択のようだ。

裏には裏メニュー。ダジャレか?

待つこと数分、声をかけられた我々は一階へと向かった。奥の席に座れと指示を受ける。

カウンターに座り正面を見た。

花いちもんめ、これが店の名前か。本店と書かれている。支店もしくは分店があるのだろうか。メニューは先ほども見たのだが、ここには写真付きで掲示されている。

カウンターの奥の壁面には様々な容器がディスプレイされている。いや、実際に使うのだろう。様々な日本酒も置かれている。広島では日本酒を飲むのがデフォルトなのだろうか。

さて、何を食べようか。酔った頭で壁のメニューを読む。うーん、同行者は早々と「梅しその支那そば」を食べると言い出した。

そうか。

ならば私は支那そばだ。鴨だしは外せない。とはいえ、梅干しも捨てがたい。出雲の夜鳴きそばしかり、那覇首里は白虎の梅とんこつそばしかり、ラーメンと梅干しの相性は決して悪くない。一粒選り大粒梅干しをトッピングするのである。

支那そば梅干しトッピング

先に同行者の梅しその支那そばがカウンターより差し出された。写真を撮る。あっさりして美味いと言っている。そうだろう。五十路の体にクエン酸が染み渡るだろう。疲労回復に不可欠な栄養素なのである。生物はクエン酸回路でエネルギーを取り出しているのだ。

続いては支那そば梅干しトッピングである。見た目が明らかに異なる。梅しそ支那そばには脂が浮いていない。お吸い物の中にラーメンが入ったようであった。対してこちらは表層に浮いた鴨の脂が、鴨せいろそばのつけ汁にも似た光沢を放っている。中央には存在感のある大粒梅干しだ。これが吉と出るか凶と出るかはお楽しみなのだ。

まずはスープだ。おおぉ…うーむ、コクがあるのにあっさり。飲みすぎた胃に染み渡るかのようだ。しっかりと鴨の香りが鼻腔に広がる。とんこつや牛骨のようなパンチはない。トリポタ系のような濃厚さもない。優しい鴨だしと醤油ベースの出汁が効いた、適度なコクのスープだ。飲みだすと止まらない。

まてまて、麺を食べずにスープだけ飲み干す気なのか?蕎麦屋で抜きを頼んでるのとは違うのだ。だいたい、このキラキラひかる白い麺は只者ではないぞ。いわゆる平打ちストレート。尾道ラーメンと同じものだろうか。

食べてみると、滑らかなツルツルの、手延べうどんのような、しかししっかりとコシのある、まごうことなきラーメンである。一般的にラーメンが一体化するために麺にスープを纏わせるには、表面がザラザラしている方が有利である。こんなにツルツルで大丈夫なのか心配になるが、無用であった。きめ細かい鴨の脂が吸着剤となり、麺にスープを纏わせているのだろう。

これは美味い。

何口か食べたところで、ついにこの時が来た。梅干しを割るのである。この柔らかな皮に箸を突っ込み、中をぐちゃぐちゃに掻き回して、メチャメチャにしてやるのだ。ひん剥いてバラバラにしてやるのだ。

ふははははは!
どうだ、抵抗できまい!

こうして無残にも散った梅干しを容赦なくスープに軽く混ぜる。レンゲですくい、口に運ぶ。

ああぁ。

梅干しの程よい酸味と甘酸っぱさが、鴨だしとスープのポテンシャルを引き上げる。味わいが広がる。疲れた体にクエン酸が染み渡る。飲んだ締めに最適化されたラーメンといっても過言ではない。

ん?

ふと、カウンターに置かれたゆず七味に目が止まった。柑橘系もまた醤油とは相性がいい。鴨鍋に柚子胡椒はベストマッチである。導き出される答えは、こいつに入れても美味いはずだ。仮説を立てたら検証せずにいられないのが私の悪い癖だ。かつて旺文社の共通一次模試で、化学の点数が33点だった。もしかしたらマークシートを全部3で塗った方が点数が高かったのではと考え、試しにやってみたら34点であった。勉強する意味が分からなくなった高二の夏。ああ、青春。線香の香り。それは青雲。

ゆず七味をスープに投入。入れすぎないように気をつける。なんたって泥酔手前なのだ。軽く混ぜて再びスープを飲む。

うわあぁ…

なんだこれ?さらに味わいが広がった。豊潤な香りに包まれて食す支那そばは、もはや当初の味を残していない。梅干しと柚子、日本が誇る伝統調味料により、中国で生まれ、日本で独自の進化を遂げ、その上、上品に鴨を使った料理の末路、行く末、ではなく最終進化系。

もちろん、スープも麺も完食なのだ。

裏メニューの正体

「カウンターに裏メニューって書いてあるね。」

同行者が言う。確かに。メニューの裏を見てみる。

ああ、さっきのダジャレか。いやいやいや、確かに雑炊にしたら美味いに違いない。残念なことに二人ともスープを飲み干していた。

「でもさ、雑炊ってどんなだろう?」

同行者の疑問に答えるかのように、隣の席の客の前に雑炊が運ばれてきた。

「別鍋なの?」

私も驚く。確かに美味そうだ。もしも再訪する機会があれば、次回は雑炊を逃さない。

いや、締めの飯はいい加減にやめろよ。

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