国産おあげ焼き

彦根駅 おばんざいとお酒 和母 あゆの炊いたん

おばんざいとお酒 和母(わはは)

滋賀県彦根市。ひこにゃんと彦根城が有名なこの街を訪れるのは初めてだ。高松を午後5時過ぎに出発して米原に着いたのが午後8時。タクシーで向かった先は、何の知識も先入観もなしに予約したホテルだ。なんと彦根城の真ん前。ああ、確かにキャッスルなんたらって名前だ。駅前ではないんだ。かえってラッキーであったか。

夕食前に彦根城を観光し、そののちに夕食を探した。街は暗い。灯りが乏しい。開いている店がなかなか見つからない。早くに店じまいするようだ。

どうしよう。

あてもなく、トボトボと歩いていると一軒の店を見つけた。

暖簾をくぐり、店内をのぞく。営業時間は23時まで、ラストオーダーは22時、現在時刻は21時20分。おお、これは神の御加護だろうか。飯が食えるではないか。扉を開けて店に入った。

メニュー

カウンター席に通される。先客は一人だけ。地元民ではなく、数ヶ月前に県外から単身赴任してきたサラリーマンとのことだ。

さて、何を食べようか。メニューはすべてホワイトボードに書いてある。ごく一部を除いて国産の食材にこだわっているとのことだ。いくつかの料理は売り切れてしまったと言う。

女将さんは意外に若い。ほっこりとした雰囲気の女性だ。せっかくの滋賀県、海産の魚介類を避けてオーダーすることにした。

大豆とひじきの炊いたん

大豆のほろっとした食感がいい。これは缶詰ではない。赤いのは、この辺りで特産の赤蒟蒻を揚げて炊いたものだ。少し味付けが濃い目だが、ほっとする味だ。ひじきの食感が心地よいのは生だからか。乾燥物でも十分に美味いが、やはり生ひじきだと弾力が明らかに異なる。見た目もふっくらとしている。確かに今の時期はひじきの旬だ。

きゅうりのたたき

ほんのりと香る梅とわさびの刺激。きゅうりの味わいを殺さずに生かす、引き立てる。大葉もいい感じ、ハモを食べる時の薬味だが、本当にほんのりとして自己主張がない。これもありだな。脇役の梅がきついと料理の主役がわからなくなる。女将さんの雰囲気がにじみ出るような味付けだ。

あゆの炊いたん(特大)

「炊いたん」というひびきがはんなりとして優雅である。その昔、関西弁で女子にねだられたら、男子は抵抗できないなどと言われていたりした。福井県の秘境、九頭竜川の友釣り。香り高い山椒がアユの匂いと融合して鼻にもわもわと潜入してくる。うーむ、たまらない。

鮎の中から出現したのは卵である。銀膜に覆われた小さな粒々の集合体は、ししゃものそれと似ている。でかい。女将さん曰く、この季節に天然ものでしか食べられない、珍しいだけのものだとのことだが、鮎の芳香と卵の甘味に山椒の香りが溶け合い、一つにまとまって豊かな味わいがたまらない。大鮎だけにサイズがでかいので、骨は硬くて食べられない。箸休めに梅干しを少しかじると、また趣が変わる。

国産おあげ焼き

ふんわりカリカリ。青ネギの刻みが私には新鮮だ。生姜の香りとネギの辛味がシンプルな味わいの油揚げに刺激と香ばしさを加える。これも酒が進む。地元の金亀純米吟醸、甘くも辛くもなくすっきり、料理の味を邪魔しない。

ふなずしの切り落とし

シークヮーサーをかけて食べる。大してくせがない。へしこと似てるか。塩がきいて酒に合う。臭みなし。これが鮒鮨なのか。飲み込めなくて難儀する人がいるという。これよりもっと個性的な食べ物は世界中にいくらでもある。

牛すじ煮込み

柔らかく味付けもちょうどいい。こすぎない。臭みない。肉の旨みを堪能できる。味の染みた赤こんにゃくも味わい深い。この地の名物だ。その昔、派手好きの織田信長がこんにゃくを赤く染めるように指示したとか。ただ、この説には根拠がないらしい。

作り方だけでなく、レシピまで丁寧に考えられた料理の数々、ほっこりとした店の雰囲気におかみさんの人柄が現れているようだ。単身赴任の常連客が多いのもうなずける。私の生活圏内(除く沖縄)にこんな店があれば、絶対に通うだろう。箱根を訪れる機会があれば、また食べに来たいと思いながら店を後にした。

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