すき焼きと玉子

新橋駅 武蔵別邸 巌流島 フローズンビールとすき焼き

人気店は時間に厳しいのである

19時からの懇親会で予約したのだが、先遣隊の我々二人が店に着いたのは18時42分であった。そこに後続部隊から連絡があった。

「飛行機が遅れて今、ホテルにチェックインしました。少し遅れます。」

一時間ほど遅れたのだろうか。ネットで運行状況を確認すると12分遅れである。うーん、深く考えないでおこう。仕方がないので、先に我々だけで店に入る。一番奥の広々とした個室に案内された。掘りごたつなので足も楽だ。

人気店なのか、時間ごとに予約が入っているのだろう。時間に関して念押しされる。19時から21時までしか食事をすることができない。開始時間とともに店員が飲み放題のオーダーを取りに来た。先行部隊の我々は躊躇なくドリンクを注文する。問題はつまみだ。すき焼きのコースだけに、料理を先に始めるわけにはいかない。

偏食家は面倒くさい

メニューを見る。サイドメニューは何だろう。予想通りと言うか、キムチとユッケ、あとは野菜サラダである。ところが、一緒にいる姐さんは辛い物、生もの、野菜が食べられないという、ものすごい偏食家だ。料理家から見れば、まさに歩く地雷原。食べられる食材の方が少ない。なのに、姐さんの子ども達は、好き嫌いなく何でも食べるという。

どういう育て方をしたのだろうか。

野菜はだめなのにキュウリは食べられるという。青いものは食べられないのにキュウリはOK?基準が分からん。あ、韓国海苔ならいけるはずだ。

「きざみ海苔以外は大丈夫!」

毎回不思議に思うが、今はスルーしておこう。韓国のりを単品でオーダーする。

フローズンビール

まずは二人で乾杯し、海苔を数枚つまんだところで後続部隊が到着した。前回も東京では飛行機が遅れて30分遅刻した。もう少し早い便に乗ってほしいものだ。改めて店員を呼びつけて5人分のドリンクをオーダー。全員が一番搾りフローズン生をセレクトした。さすが、東京。こんなビールが飲めるのかと思っている沖縄人に教えてやろう。

「これですね、私が初めて飲んだのは5~6年前かな、浦添のダイニングバーなんですよ。」

そう、とっくの昔に沖縄でも出している店があるのだよ。ふっふっふっふ。

乾杯を終えるとお通しが運ばれてきた。空腹なのでさっそくいただく。右側はクリームチーズ。これは美味い。真ん中の肉はしょっぱい。塩漬けですな。左側はよく分からない料理だが、まあまあ食べれる。なんだろう?大勢と話しながらの食事なので、集中できない。写真が撮りづらい。

いざ、すき焼き!

さあ、いよいよメインディッシュなのだ!すき焼きである。肉と野菜の入った箱が配られた。肉は5種類、10枚。手前から、とも、もも、カルビ、くり、まくらとのことだ。

  • とも、正確には「とも三角」と言う。ももの受け根にあたる部位だ。関西では「ひうち」と呼ぶ。
  • もも、モモ肉。とも三角の外側の部分にあたる。
  • カルビ、おそらくバラ肉である。
  • くり、別名腕三角。肩から腕の部分で、ミスジに隣り合っている部位だ。ちなみにミスジは肩甲骨の裏側の部位である。
  • まくら、前足のスネの中心部分。スネ肉の一部である。

なるほど、希少部位をうまく使ってコストダウンしているわけだ。女子はご飯をオーダーした。うむ、すき焼きと白飯は相性が最高じゃ。

食べる前に用を足しておこう。トイレは温水洗浄便座である。

続いて、こんもりとドーム状に綿あめが盛られたすき焼き鍋の登場だ。ビジュアル的にインパクトがある。各自、牛肉一枚を拠出し、綿あめの上部に設置することを店員に強要される。言われるがままに肉をのせ、行く手を見守る。点火。すぐにジュージューと鍋から音がし始める。

「数十秒で溶けてしまうので、動画を撮るなら今ですよ。」

店員が告げると、数名が慌てて動画を撮りだした。その決定的瞬間がこれだ!

IHヒーターの熱と黒い割したに浸食され、内部崩壊を始める綿あめ。ジュージューと断末魔の叫びをあげながら消滅していく様は、まるではかなく溶ける雪のようだ。そんな感傷に浸る間もなく、鍋を取り囲んだ男たちは、容赦なく真っ赤な牛肉を投入していく。まさに修羅だ。血で血を洗うレッドオーシャンなのだ。

「しゃぶしゃぶのように肉を広げて、ピンク色になったらすかさず引き上げてください。」

私はガイドさながらに皆に伝える。

「それと玉子は軽く混ぜてください。白身と黄身がちょっとだけ混じる程度で十分です。」

一人の男が少し不安げに、湯気の立つピンク色に牛肉を鍋から取り出し、黄色い液体に漬けた。しばし見つめたのち、意を決したように箸で口の中に入れた。

「なんすか、これ。美味いっす!」

沖縄のすき焼きとは違うのだよ!

不安に曇っていた顔は、パーッと弾けるような笑顔に変化した。これが食の力だ。沖縄ではなかなか食べることができない、本物の関東風すき焼きなのだ。

沖縄のすきやきは、いわゆる「肉豆腐」である。食堂で「すきやき」を注文すれば肉豆腐とごはんが出てくるのだ。間違ってはいけない。沖縄において「定食」とは、ご飯とみそ汁がついているものではない。単品メニューにご飯とみそ汁は含まれているのだ。では、定食とはなんぞや。その答えは…詳しくはウェブで。ではなく、ポーク玉子なのだ。すき焼き定食を注文すると、ご飯とみそ汁のほかにポーク玉子が食べられるのだ。

はっきり言って、すき焼きにポーク玉子は邪魔である。

しかし、これがまたうまいから、ポーク好きにはたまらない。明らかに体には悪い食べ物なのに、分かっていても食べてしまう、悲しい人間の業(ごう)なのである。

焼肉と同じく、すき焼きも野菜は火が通るのに時間がかかる。白菜と太い長ネギを鍋に浸し、割り下を追加し、あくを取り除く。鍋が沸騰したところに再び肉を投入。ピンク色になったら…以下、繰り返し。

これは白飯が欲しくなるわー。

そして終幕

いやいや、ガマンだ。ハイボールだ。見た目は少ないのに、なかなか肉が減らないぞ。気が付けばラストオーダー20時半。店員を呼びつける。もうラストオーダーですよね?

「いや、まだラストでは…はい、ラストオーダーです。」

どっちだよ!残り30分をやり過ごすだけのドリンクをオーダーする。女子隊はすでにスパークリングワインをデキャンタで注文し始めていた。締めはうどんだ。

そして完食。

デザートの笹カスタード、バカにすることなかれ。これがまたいい。最後の口直しはガムではなくフリスクのようなタブレットであった。

会計を済ませ、二次会に向かう。7階のカラオケボックスの店員が部屋まで営業に来てくれた。楽だし、高くなかったので、そのまま予約をしてもらった。まさに幹事の働き方革命である。帰りにレジで店の方と少し話した。肉と野菜は最初、物足りないように感じたが、食べてみると十分なボリュームであったことを伝えた。

「皆さん、同じこと言われるんですよ。でも、あの肉だけで200gはあるんですよね。」

確かに、肉は10枚。1枚20gとして10枚で200g。通常の一人前は150g程度なので、かなりのボリュームだ。日曜・祝日も営業しているという。うーん、この店は要チェックだな。今後もなにかと重宝すると確信した。

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