大門駅 風土木
会議を終えて、モノレールに乗るために浜松町に向かう。大門あたりで食事をすればいいかと、飲食店が集中する細い路地を歩くが、食指の動く店が見当たらない。
うーん。
そんな私の目の前に、ひとつの看板が立ちふさがった。「創作フォー」と「健康カレー」。なんだかそそられるぞ。おまけに、フォーはプラス100円でミニカレーセットにすることができる。
これだよ。
ドアを開けて店に入った。午後一時を回ってるというのに、店内はほぼ満席だ。しかも大半は女性客だ。トイレは温水洗浄便座であった。いろいろと悩んだ末に、塩味フォーのカレーセットをチョイスした。何気に壁を見ていたら、パクチーはリクエストしなければ付いてこないと書かれている。慌ててそばにいた店員にパクチーが必要なことを告げた。
「大丈夫ですよ。」
笑顔で微笑み返す店員に安堵する私がいた。まもなく、私のセットが運ばれてきた。間一髪、パクチーの告知が間に合ったようなタイミングだ。パクチーのないフォーなんて、クリープを入れないコーヒー…と言って分かる人は同世代なのだが、私はコーヒー自体を飲まないので、クリープ本当にどうでもよくて…という話ではない。
塩味フォーのカレーセット
麺にトッピングされたパクチーをスープの海に沈める。儀式を終えた私は、さっそくスープを一口飲んでみた。それは未体験ゾーンの不思議な味だ。和のテイストにエスニックを足したような、まさに折衷、とでも言えばいいのか。見た目と違い、サンラータンのような、トムヤムクンのような酸っぱ辛い味ではない。予想していた味とはだいぶ異なる。
失敗したか?
少々塩味の効いたピリ辛のスープに、稲庭うどんのような、なめらかでつるつるのフォー。うーん、そうだ、酸味を足せばいいのか。酢を回しかける。酸味がパクチーの香りを引き立てる。うん、こっちの方がうまい。エビもチャーシューも存在感は控えめのが、口に入れて噛みしめると、力強い味わいが一気に広がる。濃い、濃縮された素材の旨味だ。
カレー
サラサラのチキンカレーは口の中に入れると雪のごとく溶けていく。からさは控えめだが頭から汗が出る。複雑で豊かなスピイスの香りがひろごる。酸味、甘み、辛味、旨味。パッと花開いて、霧散するかのような広がりと後味。それでいて残されたご飯にしっかりとカレーの仕事をしている。
これはルーではない。
先日食べたエチオピアのカレーにも似ている。マウンテンチキンカツカレーのルーもそうだった。あれらは激辛ルーだ。辛さ際立つサラサラタイプだ。食べると体に悪い気さえしてくる。だが、こいつはどうだ。スパイスの薬効が身体に染み渡る気がする。サラサラなのは小麦粉を使っていないからだ。いわゆるグルテンフリーというやつだ。
そもそもアジアの伝統的なカレーは小麦粉を使わない。シチューのような欧風カレーだと、サラサラのカレーをルーでドロドロにするのだ。日本の粘るコメと相性がいいのはドロドロカレーなのだ。それが、このカレーはサラサラなのに日本の米と合う。
まさに次世代カレー。
ご飯に馴染むのではない。ご飯にしみる、まさに麺にスープが絡むごとくに、一粒一粒の米飯がカレーを纏う、新型カレーといっても過言ではない。
美味かった。
ごちそうさま
店主はミャンマー生まれの台湾系とのことだ。20年前に来日してから、日本人の好みに合ったフォーを毎日10時間もスープを仕込んで、試行錯誤の日々を繰り返したと書いてあった。
そう、これは和食なのだ。ベトナム料理ではない。だから、トムヤムクンのような味わいを求める方が間違っているのだ。私が頼んだ塩味は、柚子胡椒の優しい味わいをテーマにしているにも関わらず、酢を回しかけるという暴挙に出たのだ。
うーん。
最後は一口デザート。ティラミスだ。まさにカフェめし、女子が食べに来るわけだ。
会社の女子たちに話してみよう。
数年前に五十路となったバツイチ男性。昨日は沖縄、今日は北海道、明日は四国…出張三昧の日々、三年間で制覇した店は千店舗を超えた。日本全国及び海外での食事を記録したブログである。五十路とは本来「五十歳」を意味するが、現代社会では「50代」と誤った認識が定着している。それにあやかりブログのタイトルを名付けた。(詳しく読む…)