美幌 實松 オクラ肉巻き

北海道美幌町 北のいざかや 實松 オクラ肉巻焼とザンギ

何度目の美幌?

美幌に住む知人の訃報を聞き、急遽、美幌を訪れた。一年ほど前に急性骨髄性白血病を患い、骨髄移植で寛解したと聞いていた。夏には彼に会おうと美幌を訪れたが、検査入院で会うことが叶わなかった。その後、特に連絡もなく、便りがないのは元気の知らせと思っていたところに、知人から彼の死を告げられた。あまりにも急なことで、地元でも情報が少なく、死因が分からないと言う。ここ数年、同世代、いや40代の知人が毎年のように亡くなっている。死因は2つしかない。病死か自殺だ。一体何が起きたのか、いずれ明らかになるだろうが、まずは故人の冥福を祈るしかないのであった。飛行機の窓から臨む屈斜路湖の夕暮れがどこか寂しい感じがした。

美幌の街は小さい。かつては4千人規模の陸上自衛隊が駐屯していたそうだが、米ソ冷戦が終結し、中国や北朝鮮の軍事的台頭により、北海道よりも日本海側、特に沖縄県を中心とする西南諸島の国境防衛の重要性が増したために、自衛隊の配置も大きく変わった。今では一千人規模にまで削減され、街はすっかり寂しくなったということだ。そんな街を観光で盛り上げようとホットヨガを誘致したり、故人は孤軍奮闘していた。

いくつか店を回った。行く先々で満席であった。忘年会シーズンとは言え、これは異常事態ではないだろうか。普段なら絶対に一人では暖簾をくぐらない、中規模な居酒屋ですら満席であった。これでは晩飯にありつけない。以前、訪れた「旬の店  みはる」も「食材が無くなった。」と断られた。ホテルを出てすでに15分。そろそろビールが飲みたい。

どうしよう?

小さな街だ。選択肢はそれほどありはしない。いや、もう焼肉屋かラーメン屋くらいしか残されていない。そんな私の前に現れたのは「北のいざかや 實松(さねまつ)」の文字。なんだか居酒屋と言うより、食堂のたたずまいであるが、仕方がない、この店で食べようと暖簾をくぐった。

北のいざかや 實松

店に入ると、客は誰もいなかった。不安がよぎる。行く店行く店、満席で断られると言うのに無人の店。しかも居酒屋。大丈夫だろうか。

店主は同じくらいの年齢だろうか。カウンター席に案内される。厨房もどことなう食堂の雰囲気が漂う。もとは居酒屋ではない物件を居抜きで借りたのだろうか。

メニュー

レギュラーメニューはカウンターの壁に掲示されていた。さて、なにを食べようか。まずは野菜だ。ラーサラことラーメンサラダも捨てがたいが、炭水化物を控えたい。うーむ、豆腐かツナか…いや、トマトモッツァレラサラダがいいな。チーズだしトマトだ。ザンギも食べたいな。

カウンターに無造作に置かれたおすすめメニューを見る。いくつかはレギュラーメニューと被っているが、オクラ肉焼き巻きがヒットした。いいねえ。これにしよう。

食事

お通しはもずくだ。私を沖縄から来たと知ってのことか?息巻いたところで、店主は私の素性を知らぬから、致し方ない。まさか美幌に沖縄からの客が来るとも思わないだろう。

トマトモッツァレラサラダ

減塩主義のためドレッシングを断ると、代わりに胡椒とオリーブオイルをかけてくれた。塩気がなくても、しっかりとチープの風味が口に広がる。トマトの甘味を感じる。塩がないせいなのか、胡椒の香りが弱いように感じた。私の嗅覚がおかしくなっているのだろうか?

ビールを飲み終えたので、角ハイに切り替える。

オクラ肉巻き焼き

本来は塩かタレが基本だが、塩を避けたい旨を告げると、快くニンニクオリーブオイルにしてくれた。とても嬉しい。これがマンツーマンで話ができる、小さな居酒屋の魅力だ。チェーン店では絶対にできないだろう。そうでもないか?知り合いの店なら何とかしてくれそうだが、一般的には不可能だろう。まして、料理もしたことがない、調理の担当でもないフロア担当のアルバイトに減塩を告げたところで、マニュアルに書いてないと困惑されるのがオチである。だからこそ、小回りの利く小さな店で食事をしたいと強く願うのだ。

この店は店主が一人で切り盛りしていた。客は私だけだ。ついつい血圧の話で盛り上がる。店主が言った。

「上が180もあって医者に行けって言われるんですけどね。」

行こうよ。

「なんかね、血圧が上がると肩が凝って偏頭痛がひどいんですよね。」
「分かる分かる!」

正直に言おう。私は肩こりだけだ。

「ひどい時なんて酔っぱらったみたいになって、ボーッとしてあまり記憶ないですもん。」
「分かる分かる!」

正直に言おう。そんな経験はしたことない。

楽しい会話と美味なる食事。オクラ肉巻き焼きがなかなかの絶品である。肉の旨みと脂のバランスがいい、タンパク質と脂質の旨味と甘みをたっぷりと吸ったオクラが、これまら美味い。焼きニンニクが味に華を添える。柔らかい肉を噛んだつもりが、途中でオクラの食感に切り替わる。淡白な付け合わせのレタスと一緒に食べれば、さらに味わいがアップする。口の中がさっぱりとする。うーむ、やられた。

ザンギ

肉がやわらかい、味付けは薄味で肉質はジューシー。これも旨い。ハイボールにとても合う。唐揚げはこうでなくては!しかもこのボリューム、カラッと上がった衣もあっさりしてスイスイ食べられる。金杉橋のから揚げ屋に教えたいくらいだ。ハイボールのお代わりお願いします。。

きゅうり漬物

三品でなんだか腹が膨れてしまったのだが、そんな私に、減塩とは言っているがこいつをぜひ食べてもらいたいと、店主一押しのきゅうり漬物が出てきた。砂糖と塩を3対1、さらにカラシを隠し味。きゅうりのえぐみをカラシがきっちりと消し去り、砂糖の甘味で素材の潜在力を見事なまでに引き出している。自慢の一品だけあるが、やはり私にはしょっぱいので、少しずつかじる。ハイボールが進む、進む。

ああ、身も心も胃も満足だ。酒も十分に楽しめた。ついに私以外の客は現れなかったが、意外に遅い時間に混むのかもしれない。同世代の店主は、若い頃に札幌で働いたとかで、じつは北海道でもフグが水揚げされるんです、但し、あまりにも漁獲高にムラがあり過ぎて、まともに流通させられないとか。「道産トラフグ250kgを引き受けてくれない?」なんて無茶なことを言われたこともあるそうだ。

楽しい会話と美味い酒、味わいのある食事。もっと客が入ってもよさそうだが、一人贅沢に店を貸し切れたことに満足だ。別れ際に店主が名刺を渡してくれた。本名が店名になっているのか。次もまた訪れてみたい。きっと美幌には来年も訪れるのだから。

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