奥美濃古地鶏つみれ、 山之村寒干し大根、南瓜麩、人参、ズッキーニオランダ煮

ANA073 羽田~千歳 プレミアム御膳 夕食

夕方の便に搭乗すると…

基本的に夜の移動はしないようにしている。これも仕事だ。移動も勤務時間以内に終わらせるのがスジだ。働き方改革だ。毎日8時間以上は仕事をしないように徹底している。その日のノルマを終えれば仕事を止める。明日の仕事は今日はしない。

とは言え、考えるのが仕事なので、頭の中はいつも仕事のことでいっぱいだ。資料は作らなくてもスマホにメモしたり、情報を整理したり、アイデアを考えている。ただ、脳内の電気信号を手足を通じてパワポやワード、Excel等で具現化し、資料とする作業は、勤務中しか行わない。

資料を作るところだけを見られれば、ものすごく仕事が早そうに勘違いされるが、資料作成に取り掛かれるレベルにまでアイデアを熟成、熟考するのに時間がかかるのである。

誰かに監視されてるわけでもないので、自己マネジメントになる。なかなか効率の良い働きかただと思うのだが、かかりつけの医師に話をしたら、ブラック企業ですか?と驚かれた。いやいやいや、こちらがビックリだよ。確かに休みは少ない。家にもあまりいない。だがこれでも生活優先なのである。

だが、この日だけは仕方がない。どうしても夕方まで東京での仕事があったために、17時半の便で羽田から千歳に向かった。

食うや、食わざるや

067便は定刻より少し遅れて離陸した。札幌に着くにはあと二時間。北海道が誇る食材を味わえるのが楽しみだ。当然、プレミアム御前はパス…と思いきや、シートベルトサインが消えて間も無く、プレミアム席に食欲を励起する、いい匂いが漂ってきた。

腹が減った。今夜はススキノで何を食べようか。煩悩を打ち消すがのごとく、私が北海道の食材を想い浮かべた。まさに私の目の前に絶世の美女が裸で横たわっているの、やっちゃダメだ、やっちゃダメだ、やっちゃダメだと自分に言い聞かせるかのようだ。

だが人間とはもろいものだ。生物と進化の過程で生存戦略として本能が確立され、その上に知能が形成されている。さらに理性は人間が生物として最後に獲得した機能だ。つまり、本能は理性に制御されているが、そもそもは自身の中に潜む、心の闇に蠢くまさに鬼。魂魄。脳の機能により辛くもバランスを保っているが、鬼を心の奥底に閉じ込めている理性と言うバリアは、鼻腔から侵入した香りに刺激された食欲に対抗するには、あまりにも脆かった。

ああ、何か私の中で大事なものが砕け散った音がした。ダメだ、私の決意が揺らいでいく…アテンダントが私に近づき、笑顔で尋ねる。

「お食事、いかがですか?」

ダメ押しの一言に、私の中の何かは完全に崩壊し、消滅した。 私は当然のように答えた。

「お願いします。」

ああ、私はやっぱりダメ人間だ。

プレミアム御膳 ディナー

開き直ったら、あとはしっかりと、ゆっくりと食事を楽しめばよい。夜なのでアルコールもいただくのである。もちろん、ビールはプレモルを選択なのだ。

味噌汁はマイタケだ。ランチよりも具が充実しているのは気のせいだろうか。

玉子焼きは硬めで滑らかな舌触り。ほうれん草と榎木浸し、出汁のきいた薄味で、ほうれん草とえのきの食感を失うことなく火を通している。ご飯にも酒にも合う。

鴨味噌煮は肉が柔らかく、味噌味は控えめ。ぎゅっと詰まった鴨肉の旨味がビールとマッチする。鱒酒粕焼き紅芒畉、臭みなく柔らかいが、鱒の旨味が完全に引き出されていないのは、仕出しの限界だろうか。

椎茸寿司、長野の笹すしを彷彿とさせる。椎茸のグニュグニュした食感とご飯の相性がなかなかだ。

栗ご飯

明宝ハム玉葱ソース、シャキシャキした食感と酸味控えめのザウアークラウトのような味わい。白ワインに合いそうな感じだが、ビールでも美味い。

すだれ麩、牛蒡、蓮根、隠元。上品な味付けで食感を残しつつ柔らかく仕上げている。いんげんのキュッキュッとした歯ざわりが心地よい。すだれふはプルプルでジューシー。

茄子オランダ煮はナスが柔らかくかつ食感が良い。ご飯に合う。オランダ煮とは素材を揚げてからだし汁や調味料で味を付け、唐辛子でピリッと辛みを付加する調理法だ。マーボーナスにも代表されるように、茄子の甘みとピリ辛は相性が良いのである。

奥美濃古地鶏つみれ、 山之村寒干し大根、南瓜麩、人参、ズッキーニオランダ煮は、上品なダシがしっかりと染み込んだ煮物は口の中でほぐれるように無くなっていく。かぼちゃふはかんぼしだいこんは食べるうちに甘みが出てくる。鶏団子は舌触り滑らか。鳥の旨味と出汁が見事に融合している。薄味で上品な味付けだ。

うん。プレミアム御膳もディナーだとJALのファーストクラスに引けを取らないな。但し、これも大型機に搭乗しているからであって、737のような小型機だと弁当箱になるだろうから、勘違いしてはいけないのだ。

飛行機は千歳に着陸した。エアポート快速で札幌まで行き、ホテルにチェックインした私は、やはり本能に抗えず、鮨を軽く食べたのであった。

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