55カツカレー

石川県 ゴーゴーカレー金沢駅総本山

朝食はどこだ?

昨晩は0時頃にホテルに戻った気がする。四軒目に行くような気配だったが、歩いている途中に見かけた中国人の店に行きたいと言う私を、皆が外国人の店は嫌だとどこかに行ってしまった。

ラッキー。

飲みには行かずにホテルに戻った。次回から逃げるときはこの手を使おう。しかし、朝食は食べられそうにない。遅い時間にがっつりと刺身だ寿司だ天ぷらだと食べたからだ。胃がもたれている。10時の新幹線で金沢に向かい、サンダーバードに乗り換えて大阪、そして加古川に向かう。シャワーを浴びるとホテルを出た。

富山駅で朝食を食べるのは体調からして難しそうだ。とりあえず新幹線に乗る。金沢着が11時。そのまま乗り換えると加古川に着くのは15時くらい。ずーっと電車の中では駅弁しか食べるものがないが、それは嫌だ。すると、金沢で朝食、加古川で遅い昼食を食べることになる。

かつめし

加古川と言えばかつめし

では朝食は何を食べるのか。順当にいけば駅蕎麦だ。日本の伝統的なファストフード、立ち食いそばだ。味は期待できない。とにかく金沢駅に着いたら考えよう。

新幹線で金沢まではたった20分。かつては特急でも1時間近くかかっていた。便利になったものだ。数年後には敦賀まで延伸される。ホームから降りて改札を出る。 飲食店街に向かう。時間は午前11時前。開いている店は二つしかない。

8番ラーメン。ずいぶん前に金沢市内で食べたことがある。ある意味、金沢市民のソウルフードだ。埼玉で言えば山田うどん、北海道南空知の人間でいえば、かまど屋に相当する。

朝からラーメン。その昔、台北で仕事をしていた時のこと、徹夜明けで空腹の私は、近くのコンビニで買った、旨そうな方便麺(カップ麺)をオフィスのキッチンで湯切りしていた。それがまさかのペヤングダバァ。

うわあ!麺が~!!!

無情にも流し台に散乱するカップ麺。それを隣で無表情に見ていた、台湾人女性の一言が胸に刺さった。

「朝から麺を食べるの?」

そこかよっ!

ゴーゴーカレー

もうひとつも金沢のソウルフード、ブラックカレーの代表格である、ゴーゴーカレーだ。

カレーか、ラーメンか。それが問題だ。しかも、昼は加古川でカツメシを食べるのだ。店外に掲示されたメニューを眺める。

ゴーゴーカレーもしばらく食ってないな。沖縄には一店舗しかない上に、私が食べに行くには不便な場所にある。かと言って、内地に来てわざわざゴーゴーカレーを食べに行くこともない。東京の会社の近くにもない。時間もない。ラーメンよりはカレー。

どうすればいいのだ!?

ある意味、究極の選択を迫られた私は、パニックに陥った人間が一番やってはいけないことをしてしまった。

カレーを食べよう。

店に入り、カウンター席に座る。メニューを見る。能登豚限定。プレミア品に惹かれる。

ロコモコ風もそそられる。どうしよう。昼はカツメシだぞ。

「注文は決まりましたか?」

店員の女性が決断を迫る。まだ心が決まっていない。こんな中途半端な気持ちでオーダーなどできるはずがない。

「カツカレー小ください。」

ふいに口をついて出た言葉は、無難な金沢カレーのステレオタイプだたった。辛口ですらない。チャレンジ精神のかけらもない、ダメな人間だ。しょせん、私も変化など望んでいないのだ。現状で満足なのだ。進取の気持ちなど欠片もありやせぬのだ。

そもそも私は汁物を食べたかったはずだ。昼は加古川でガッツリとかつめしを食べることを考えていた。今じゃないでしょ。今日、何回カツを食べるつもりだ。ガキじゃあるまいし「1日三食でもとんかつを食べれるよ」とうそぶいて、実際に三日間、三食とんかつを食べたのは、中学生の頃だからできたことであって、基礎代謝も体力も気力もすべて落ち切った、五十路のおっさんにできる所業ではない。

ほどなくして運ばれていたカツカレー。ん?これは金沢カレーの特徴であるべき先割れスプーンではない。ただのフォークだ。革命でも起きたのだろうか。カツはサクサク。衣薄めで肉が厚い。揚げたてアツアツだ。

福神漬けが一斗缶みたいにでかい。

ルーはまったり、コクがありご飯ともカツとも相性バッチリ。固めのご飯がルーをうまく絡めとり、まるでとんかつソースのごとくとんかつに働きかける。もちろん、付け合わせのキャベツととんかつとの相性は言わずもがなである。

ならばカレーとキャベツも合うはずとの見事な三段論法に裏打ちされた金沢カレーの構成は見事である。ご飯、カレー、キャベツの三要素が金沢カレーを満たす定義なのだ。

明治維新により日本に根付いた洋食文化、中村屋がかくまったボースによってインドから持たされ、独自の発展を遂げたカレー文化。そして漬物という日本の伝統文化。この三つが相まって確率された日本カレーが各地でさらなる進化を遂げ、いまや日本の食卓に、メニューになくてはならない存在にまで上り詰めた。

いまやインドのみならず、世界中から日本にカレー文化が押し寄せ、新しいカレーがまだまだ生み出されつつある。100年後、日本人はどんなカレーを食べているのだろうか。

カツカレー小

ふと時計を見ると11時6分。発車まで18分しかないと焦る私の目の前に張り紙がしてあった。

「改札までは55秒。」

実際に測ったのかと思ったら、そうだ、ここは55カレーだ。まあ1分で改札には着く距離ではある。五分前に店を出ても余裕のはずである。

気がつけばご飯はなくなり、キャベツとトンカツのみに。しまった!金沢カレーではキャベツはごはんの上にのっているのではなく、皿の一部を占領しているのだった。

ペース配分が狂った。

しかし、キャベツとトンカツは鉄板コンビだ。カツカレーも同様だ。合わないわけがない。とにかくボリューム感満載のトンカツを平らげて完食だ。

美味かった!

当初の予定とはだいぶ違ったが、結果オーライだ。番狂わせから得られる幸せもある。これが旅の醍醐味だ。人生も同様だ。楽しんで生きようではないか。

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